好きと嫌いの間
昼休み。屋上へと続く階段には、階下の喧騒が遠く聴こえている。
わたしのすぐ隣。階段に腰掛けたナナは、四角いイチゴオレの紙パックを一口飲んだ後、大げさなため息をついた。
「ホンット、アイツありえないんだよね」
「なに。また喧嘩したの?」
「だってさあ、普通に考えてケーキのイチゴは最初に食べるでしょ!」
そう言ってナナは、彼氏の愚痴を勢いよく話し出す。わたしはそれを話半分に聞き流しながら、ナナの横顔を眺めていた。
一年生の夏ぐらいだったから、ナナが今の彼氏と付き合い始めてから、もうすぐ二年になる。
その間、こんな風に愚痴を聞かされたのも、数回の話じゃない。
大抵は大した理由じゃなくて、ちょっとした約束を忘れてたとか、映画の趣味が合わないとか、そんなものだ。
「ちょっと。ちゃんと聴いてる?」
ナナがわたしの顔を覗き込んでくる。
「こんなの話せる人、ほかに居ないんだから。ちゃんと聴いててよね」
バカみたい。そんな一言だけで、ほんの少しでも嬉しくなってしまう自分が。
わたしは、「聞いてるよ」と答えようとして、やっぱり違うことを訊いてみようと思った。
「なんで?」
「ん?」
「そんなに合わないなら別れたらいいのに、なんで付き合ってるの?」
ナナは呆れたみたいに少し笑った。
「そんなの、好きだからに決まってんじゃん?」
「好きなのに喧嘩するの?」
ナナはイチゴオレを勢いよく吸い込む。ズズッという音が響いた。
「違うよ」
「え?」
「例えばさ、普通に好きなだけの映画だったら普通に褒めて終わりだけど、めっちゃくちゃ好きな映画ってさ、笑いながらめちゃくちゃに貶せない?」
「まあ、なんとなくわかるけど」
「つまり、そんな感じなわけよ。スキの反対は無関心って言うでしょ。喧嘩することと、好きなことって矛盾しないんだよ」
「……ふぅん」
ナナは得意げに笑って言う。
わたしはやっぱりナナの横顔を見ながら、そういえばわたしとナナは喧嘩したことないなとか、ボンヤリとそんなことを考えていた。
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