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倒産法判例百選 No.16「破産管財人の第三者性(2)」
1. 本判例の解説
【判例タイトル】破産管財人の第三者性(2)
【判例番号】最高裁昭和58年3月22日第三小法廷判決(昭和57年(オ)第973号)
【事案の概要】
A社は昭和55年10月15日に破産宣告を受け、Xが破産管財人に選任されたが、それに先立ちA社はZとの間で売掛代金債権を停止条件付きで譲渡する契約を締結していた。具体的には、A社が営業を継続しない決議をしたなどの場合に、A社が現在有している売掛代金債権および将来取得する売掛代金債権をZが譲り受けるというものであり、昭和55年10月4日ごろにその停止条件が成就したため、同月6日までにY1らに対する売掛代金債権をZが取得したと主張された。もっとも、A社名義でY1らに簡易書留郵便で送付された債権譲渡通知書には確定日付が付されていなかった。
破産管財人Xは、Y1らを被告として売掛代金の支払を求める訴えを提起したところ、Zは独立当事者参加をして自らが債権を取得していると主張し、Y1らに支払を求めた。しかし、原審は破産管財人を民法467条2項がいう「債務者以外の第三者」ととらえ、破産宣告前に対抗要件を具備しなければ譲渡の効力を管財人に主張できないとしてZの請求を棄却した。Zはこの判断を不服として上告したが、最高裁も破産管財人を対抗要件の必要な「第三者」として位置づけ、Zによる債権譲渡の対抗要件が欠如している以上、破産管財人Xに対して譲渡の効力を対抗できないと判断してZの上告を棄却した。
問題のあったところ
本件の主要な争点は、破産宣告(現在の破産手続開始決定)前に債務者から指名債権を譲り受けた者が、破産管財人に対しても民法467条2項所定の対抗要件を満たしていなければ譲渡の効力を主張できないかという点であった。すなわち、破産手続開始によりA社の財産を管理・処分する地位を得た破産管財人が、強制執行手続における差押債権者と同様に債権そのものについて「正当な利益を有する第三者」にあたるとみるかどうかが問題となった。
【論証パターン】
破産管財人は破産法の定めにより破産者の財産管理処分権を包括的に引き継ぐと同時に、破産債権者全体の利益を代表し、個別執行手続でいう差押債権者と同視される地位にも立つと解される。そのため、破産管財人は民法467条2項にいう「債務者以外の第三者」として扱われることになり、債権の譲受人が破産管財人に対して債権譲渡を対抗するためには、破産手続開始決定(旧法における破産宣告)より前に確定日付のある証書による通知や承諾、または債権譲渡登記などの適法な公示方法を備えておかなければならない。
2.ショート問題
【問題】
A社は事業活動の継続が困難な状況となった際に、自社が有している売掛代金債権をZへ譲渡する契約を結んでいた。実際にA社が事実上営業を停止したため、Zは譲渡効力が生じたと主張して、各取引先(Y1ら)に簡易書留郵便で譲渡通知を送付した。しかしその後、A社について破産手続開始決定がなされ、破産管財人Xが選任された。ZがA社の有する債権を正当に取得したと主張したのに対し、Xは「破産宣告前に確定日付のある通知をしていない以上、Zは破産管財人たる自分に対して債権譲渡を対抗できない」として争っている。Zの主張は認められるだろうか。
【解答例】
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