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休日、女性になれますか?コスプレ活動できますか? -序章-

※この物語はフィクションです。実際に登場する団体や人物とは一切関係がございません。


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今もっとも若者の間で話題になっているバンドがあった。YouTubeの急上昇ランキングに学生のオリジナルバンドが入ることは異例であった。
TikTokも飛ぶ鳥を落とす勢いで動画が作られ続けている。

P.I.N.K.という学生バンドだ。
特徴的なのは全員曲ごとに何かしらのコスプレをしていることだ。
今の時代、楽曲の精度もさることながら容姿など視覚的な情報が重要になる。そこが若者にウケたのだろう。

しかも、ベースヴォーカルの有希真は女性にしか見えない。外見は女性だが声は高く音が伸びやかに突き抜ける歌声をしている。
女性らしい繊細さと男性らしい力強い突き抜けた歌声を持ち合わせ、ベースはオールラウンドにこなし空間を作り上げる。


「今日もボクたちの配信を見てくれてありがとう!」

………
「ふぅ、なんとか終わった。」

「おお!一昨日の動画150万再生行ってるね!?」

「ここまで有名になってしまうと、ココスタに気軽に参加できなくなるね……」

「あはは、みんなコス、したいよねー。」

「僕は正直、リーシャがそこまでコスにハマるとは思わなかったからびっくりだよ」

「言えてるー!私はほら、元々配信者やってたからすんなり入れたけどね、リーシャは美人だからな〜、羨ましいよ」

「優希には負けるよ……」

「だーかーらー、優希は男の子だから!比べる必要ないない!」


これは、バラバラな個性がコスプレによって一つになる、その奇跡を描いた物語である。


………

夏も佳境に入り、バテかけていた。事実、何人かは講義を欠席するのが目立つようになってきた。

僕は今、平日は普通の情報工学部生をしている新入生だ。

ようやく大学に慣れてきた頃。試験も終わりが見えてきて、夏休みに突入しかけていた。

普段は外見に無頓着、身長もそれほど高くない。ただ、高校時代運動部だったおかげで身は引き締まっているが細身な方だ。

一見するとどこにでもいる角ぶち眼鏡の理系の大学生のようだ。ただ、僕には秘密がある。

「うーーんっと、今日の"こっちのアカウント"は……」

「フォロワーがまた増えた……少しバズったからかな。引用リツイートがいっぱいついてる……」

『えっ!?優希ちゃん男の子!?全然わかんなかった!肌白つ!』
『私より可愛い、メイクどうしてるんだろう』
『優希ちゃんなら全然アリ』
『元がイケメンなんだろうなー!』

………

そう、僕は女装をメインとして活動するコスプレイヤーだ。学内では知られていない、自分だけの秘密……のはずだった。

僕は大学でテニス部を辞めた。身長が高くなかったし、何より日焼けをしてしまうことを嫌ったのだ。
その代わり、音楽サークルに入ってベースをすることになった。

一通り楽器パートの基礎練習の終わりが見え、先輩の指導から独立し、学年が近い者同士でバンドを組むことになった。

本当はギターをやりたかったが、ギターは人数が多い上に最近の音楽ではベースやシンセの方が重宝される。
女子と間違われることが多々あるが実は男子である自分は珍しい存在であることはSNSのフォロワーの数で自覚していて、需要と供給を考えた結果、この楽器を選択することになった。

「それではサークル内2023年度第1期バンドメンバーを発表する。実力や相性を考慮した上でのものだ。仲良くバンドをしてくれると嬉しい。」
部長の河野先輩が貫禄ある声でサークル内スタジオに声を響かせた。

「ベースボーカル 優希真」
「は、はい!ヴォーカルもやるんですね……」
「お前は音楽経験者だからな。この中で最も余裕がありそうだったから歌を歌ってもらう。本来はギターの役目なんだが、ギターはクセが強くてな……」
「歌はできないってことですか?」
「それは本人から聞いてくれ。次、リードギター、星空美鈴」

「はい!!はーーーい!!星空美鈴です!!」

星空美鈴という少女を見た。コスプレイベントで美少女は見慣れているが、それでも一際目立つ白い肌に、どうやらハーフのようで目が青い。
見た目は女子高生そのもののようで、Yシャツにチェックのスカートを常に着ている。
しかし胸が大きいことがその服装も相まって目のやりどころに困る。ブラも少し透けている。
そもそも大学一年生は少し前まで高校生だったから違和感がないのだが、これなら女子高生と間違えられそうだ。

コスプレイヤー視点ではカラコンが要らないのは羨ましい、と思うが、そういう問題ではない。音楽をやりにきているわけだから、人間関係が重要だ。

「星空と優希はここの席に座ってくれ。次にドラムを発表する。」

「あ、はい……」
「はいっ⭐︎」

「ドラム 麗霞(リーシャ)以上だ。3ピースバンドだがお前たちは実力はあるはずだ。すまないが頑張ってくれ」

「わかりました……」

リーシャと来たか、と思ったのは率直な感想だ。
名前の通りリーシャは中国人で、星空美鈴とは対極的に、どちらかというと大人っぽく見える。

彼女は同じ学部なので度々講義を受けていて、交流は少しあるものの、見た目通り落ち着いており会話は弾まない。

ただしドラムに関しては天性の才能があり、現状2バスという高度な技術を使えるのはサークル内でも彼女しかいない。はっきり言ってその業界ではプロを狙えるだろう。

ということでバンドメンバーが揃った。

「よろしくね!美鈴でいいよ!」
「優希です。よろしくお願いしま……するよ。」
「……リーシャです。よろしく。」

「リーダーをまず決めないと……」
と僕が言った。

「推薦だけど、僕はリーシャが1番いいと思う。最も技術あるし」
「……私、まだ日本語も慣れてなくてコミュニケーションが苦手だから……」
「はいはーい!じゃあ私がやります!」

ああ、よかった。バンドリーダーまで任されたらコスイベどころじゃない。ヴォーカルは特に負担がかかる。
リーダーにならなくてよかった、と僕は心底安堵した。

「それよりさー……優希くん、ちょっと話したいことがあるんだけどサ………少しこっち来てくれない?」

「う、うん、いいけど……」

サークルスタジオの奥の方に美鈴に連れて行かれた。美鈴はスマホを取り出しておもむろにこう言った。

「これ、君だよね。フォロワー2万人の、優希さん」

「…………えっ、なんで知ってるの……?」

僕はまるで低スペックPCが高度な処理を任されたかのように凍りついた。
僕の運命の歯車はここから一気に回り始めるとは、この時はまだわからなかった。

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