窓を開ければ

決め手は、こいのぼりだった。

はじめて部屋を借りたのは11年前、京都で。
神奈川で生まれ育った私が、会社に入って、配属が京都になった。
4月は東京で研修をして、GW明けに新居に移り住む。

もともと、マンションのチラシなどを見たり、
間取りを見たり、なんならオープンルームを見たりするのも好き。
学生時代には、一人暮らしの友達の家をあちこち行きまくり、
いつかは「私も一人暮らし!」と思っていたので、
家探しはとても楽しかった。

なんとなくネットで検索した不動産屋さんに連絡して、
滞在1日で家を決めるために事前にいろいろ送ってもらって、
1日でひたすらに家を見せてもらった。

学生時代に京都に行ったことはあったけど、
まさか自分がここに住むという目線はなかったので、
不動産屋さんが物件をまわるあいだにガイドしてくれた京都の町並みは、
とてもいい情報がたくさんあった。
(残念ながら今となっては覚えていない)

で、6~7軒まわった、最後の家。(だったと思う)
そこまで見た家は、どれも”不可”はなかったけど、
最後の家に入って、うーん、ここも悪くないなぁと思っていた時。

3Fの部屋の南向きのベランダから、窓の外を見下ろすと…
大きな庭に、こいのぼり。
こいのぼりが泳いでいたのではない。

こいのぼりを作っているようにみえた。
広げたこいのぼりに、
数人で絵(といっていいのかわからないが)を描いていて
それを結びつける、みたいなことをやっている人たちが、3~4人いた。
天気のよい4月末、とてもいい光景だった。

私と一緒に家を見ていた母は、
さすが職人の町京都だ!と騒ぎ立て、私もそのように思っていた。
味のあるいわゆる京町屋の庭に広がるこいのぼり。
なんと”京都らしい”生活ではないか!
結局、ここに即決した。

4年後、東京転勤となり、この部屋を後にすることになった。
結局、こいのぼりを見たのは、内見をした1回だけだった。

実は、私の家の前の京町家と大きな庭がなんなのか、
引っ越してから1年後、テレビを見て知ることになった。
京都では有名なとある劇団の密着を見ていると、
(最近では東京でもよく見る、様々に活動されている)

活動小屋で、劇団メンバーがよなよな台本を作ったり、
美術セットや小道具などを作っている様子が紹介されていた。
で、庭での撮影の様子の背景には、
間違いなく私の住んでいたマンションが映っていた。

なので、いつも窓を開ければ、
こいのぼりだけでない、様々なセットが並んでいた。
一面真っ赤な板が天日干しされていたり、
タオルがたくさん干されていたり、など。

窓を開けると、
こんどは何を企んでいるのだろう、という楽しみがあって、
それを見ながら、洗濯物を干すのが、あの部屋での一番の思い出だ。

その後、2回引っ越して、今は3軒目の1Kマンションに住んでいる。
部屋の中のレイアウトは、自分で作りだしたもの。
窓を開けて見える景色を、
いわゆる”借景”に過ごした生活が、それぞれに、とても思い出深い。

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