ショートエッセイ「学校の怪談とベートーヴェン」
とある本を紹介する代わりに、数分で読める身近なエッセイを用意してみました。気になる方はぜひ参考文献の本を読んでみてください。
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常光『学校の怪談』=口承伝承としての「学校の怪談」を収集し、まとめたもの
⇒2000~2001年にアニメ化され、第4話「死者からの鎮魂歌(レクイエム)エリーゼ」で音楽室の怪談が取り上げられる
第4話「死者からの鎮魂歌(レクイエム)エリーゼ」の概要
主人公の宮ノ下さつきがある日、誰もいない音楽室から演奏される≪エリーゼのために≫を最初から最後まで聞いてしまう。その後、友人から音楽室の霊の話を聞き、①3回聞くと聞いた人は無くなる、②回数を追うごとに演奏速度が遅くなり、3回目の最後の楽章はこれでもかというほどゆっくり演奏されるという2つの特徴を知る。その話を聞いた日から、さつきは音楽室に近付かないようにするが、自宅にいるときにテレビ・ラジカセ・オルゴールなどで音楽室の霊が演奏する≪エリーゼのために≫を聞いてしまい、あと1回聞くと呪いが完成するという状況になり、友人たちとともに霊の封印に向かう。音楽室で霊と対峙し、メトロノームを使って封印する。
音楽室は特別教室であり、非日常の空間と言え、怪談が形成されやすい環境。
音楽室の怪談の2系統
①誰もいない音楽室のピアノの音(演奏されていたり、滴る血で鳴ったりする)
②壁に貼ってある作曲家の絵に関するもので、ベートーヴェンの目が動いたり、作曲家が涙を流したりする
⇒2つの系統をまとめたのが先のアニメの原作となっている
アニメに出てきた特徴を考察。
(1)3回聞くと呪われる
≪エリーゼのためには≫はABACADAというロンド形式を取っている。ABA-C-ADAの複合三部形式となっており、3つという要素をそもそも持つ。そのことから、3つで完成という点では親和性が高い。なお、標準的な演奏時間が約3分であり、3という数字が付きまとう作品と言え、「3」という回数が生まれたのか。
(2)3回目の最後の楽章はこれでもかというほどゆっくり
ベートーヴェンの曲は最終楽章が最も重要なものであり、ベートーヴェン以前の作曲家との大きな違いと言える。その点を結果的に反映してか、3回目の最終楽章が強調されている
(3) メトロノームを使って封印する
「ベートーヴェンのメトロノーム記号の背景にある音楽観(中略)テンポ観」(渡辺、p.182)が存在し、ベートーヴェンの「メトロノームへの傾倒ぶりを知る」こともできるように、メトロノームの誕生した時期(1816年)とベートーヴェンの晩年は一致しており、メトロノームとの親和性も高い。しかも、演奏が遅くなるということは、元のテンポとは異なっており、それをメトロノームという一定のテンポを正確に示す道具で正している?
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特にまとめはありませんが、本を読むことでちょっと面白い考察もできるということを体験してもらえたら幸いです。
参考文献
常光徹『学校の怪談 口承文芸の展開と諸相』京都:ミネルヴァ書房、1993年。
渡辺裕『西洋音楽演奏史論序説 ベートーヴェン ピアノ・ソナタの演奏史研究』春秋社、2001年。
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