QWERTY配列をやめろ、とは言ったが
前にわたしは「QWERTY配列をやめろ」と言った。
この記事でわたしはQWERTYがクソである旨をさんざん書いた。
そしたらなんと、薙刀式の作者である大岡氏にこの記事を拾っていただいてしまった。ありがたいことです。
実際、QWERTYはおおむねクソだ。
ただ、「QWERTY配列をやめろ」の記事内では、勢いを重視したから、かなり過激にQWERTYをこき下ろした記事になってしまった。
わたしはなんだかんだ環境の都合でいまでもQWERTY+ロウスタッガードを使う機会がときどきある。
いまわたしはメインのキーボードの配列をEucalyn配列から大西配列に移行している最中で、e-typingのスコアがまだ110程度という有様なので、なんならQWERTYがいま一番速く打てる配列になっている。
そういう状況なのもあってか、いまわたしはQWERTYにも一定の有用性を認めざるをえない、という気持ちにさせられている。屈辱的だ。
というわけで、今回は「我々はQWERTYやロウスタッガードとどう向き合うべきか?」ということについて考えを書いていこうかと思う。よろしく。
さてまず第一に、この前も書いたが、
QWERTYはロウスタッガードとの相性が悪くない
ということだ。
そうだな、そういえばわたしはロウスタッガードもこき下ろしていた。だがじつはQWERTYほど酷評していない。文章をよく読んだ人ならふたつの記事のちょっとした温度差に気づいたかもしれない。気づいてなくてもいい。
ロウスタッガードは、ホームポジションを忠実に守る打鍵、標準運指と相性が悪い。が、その微妙な横ずれのおかげで標準運指を少し崩した打鍵がしやすいのだ。ホームポジションへの引力がさほど強くないので、ホームポジション外への拡張のハードルが相対的に低い、とも言える。ズルしやすいということだ。
そういうロウスタッガードの特性に魅力を感じて、色々試したあとロウスタッガードに戻ってくる人もいる。前回の記事でもそれでよいとわたしは言った。
「人間が道具に合わせるのではなく、道具が人間に合わせるべきだ」というエルゴノミクスの思想は確かにもっともではあるが、しかしそれはいささか人間の適応能力を軽視しているとも取れる。
人間に合わせた道具は、どうしても「その道具が想定している人間」の範囲でしか快適に使えない。人体の構造上もっとも楽できるように、という設計は、つまりは人体の構造上楽できる範囲しか使わない、ということでもある。限界がある。
だが人間の適応能力は自身が思っているよりも高く、訓練を重ねれば人間離れした領域に到達することも可能だ。
……そう、人間に合わせた道具では、人間離れした領域では戦えないのだ。
熟練していけば、いずれ「楽」「わかりやすさ」を捨ててでも速度向上や局所的な最適化を優先したくなる人が出てくる。
守破離の離である。
それにロウスタッガードは向いているのだ。そんなロウスタッガードとQWERTYの相性が悪くない以上、QWERTYに一定の優位性があるというのは認める必要がある。
が、当然ロウスタッガードにおいてもQWERTYよりよい配列が存在するのは自明なので、これをもってQWERTYがよいと言うつもりは毛頭ない。あってたまるか。
そして、他にもある。
Eucalyn配列や大西配列などで採用されている、母音を片手側に集めることによる左右交互打鍵はべつに最適解ではない、ということだ。
実際QWERTYでは一部の文字列に限定したとき、たまに片手で異常に打ちやすい組み合わせに遭遇する。
適切な例が思いつかないが、
おそらく「教員採用試験」とかはQWERTYで打ちやすい部類なのではないだろうか?
指や位置の順番によっては片手の方が打ちやすいし、左右交互打鍵は特に高速になってくると左右の同期がとりにくく順番を間違えてしまうことが増えてきがちだ。
適切な片手連続が一定数出現する配列の方が良いという考え方ができ、その点においてはむしろQWERTYに優位性がある。
当然ながらこの観点においてもQWERTYより優れた配列が存在するのは明らかであり、これをもってQWERTYをよしとするなど言語道断だが、しかしこの観点を含めて配列を評価する指標に乏しいのも現状、発展途上であるといえる。
完全に日本語入力に特化するならカナ入力という手段もあり、その場合もまたローマ字入力とは別の考え方が必要になるだろう。それこそ冒頭の大岡氏による薙刀式などがあるので興味のある人はそちらもどうぞ。
さてこの2点を踏まえてQWERTY+ロウスタッガードを捉え直してみる。
わかるのは、上級者向け、ということだ。
QWERTYはロウスタッガードの利点を局所的に引き出せているし、そしてやはり局所的には高効率な部分がある。
しかしやはり疲れるし、道具のほうに人間が合わせるという、適応能力を前提にした構造は万人にはおすすめできない。
それにいくら局所的にいいところがあると言っても、人間の適応を前提にしたとしてももっといい配列があるだろう。
QWERTYがゴミであるという前提を覆せるほどでほないが、もしかしたら磨けば光る原石、なのかもしれないというぐらいで今回の結論としたい。
ほとんどの人間はニュータイプではないので、エルゴノミクスに配慮した配置や配列を使うべきだ。競技レベルのタイプ速度を追求するとか、もしくはお前がキーボードオタクや配列オタクなら、ロウスタッガードを含むさまざまな配置や配列を色々試して、なんなら自分で作ってみたりしてもいいと思うが、別にオタクでもない一般人はおとなしくローマ字向け配列+カラムスタッガードにしておけ。
人間の指を考えて作られた配列と配置に素直に乗っておくんだ。わかったか?タイピングのプロでないのなら、安全装置に従え。
普通に日常利用する分なら、本来は200打鍵/分も出ればじゅうぶんなのだ。300あれば困ることはない。400出れば「そうとう速い」領域だ。そこから先は「標準運指で楽にタイプできること」のほうが重要だ。
局所的に標準運指を崩すとか、そもそも楽さを捨ててでも速度に振りたいとか、そういうことを考えるのは、タイピングや配列が趣味のやつだけでいい。
QWERTY+ロウスタッガードは上級者向けだ。キーボードやタイピングのことをよく知っているやつが自己責任で使うべき配列だ。
イキってMT車に乗るよりAT車にしろ。そういうことだ。
わたしか?わたしはな、そんなにタイピングが得意じゃないんだ。QWERTYでもEucalynでも320打鍵/分あたりが限度だったからな。だからおとなしくエルゴノミクスに従うよ。配列オタクでもないしな。
そうだ、これは報告なのだが、
わたしはいま「手首を動かさないと打てない位置にキーを置くべきでない」という思想のもと、オリジナルのキーボードを設計•製作して使っている。
自作キーボード界隈から見ると別に珍しくもない左右分離カラムスタッガード40%キーボードだがね。
とりあえずこれをベースに配列のテンプレートなどを作ってみたいと考えている。
頒布も視野に入れている。
カラムスタッガードとローマ字向け配列を導入するハードルをなるだけ下げたいという目的のもと作っている。エルゴノミクスの観点を詰めようとするともっとやるべきことが残っているが、コストを抑えて多くの人が手に取りやすくすることを重視しているつもりだ。
わたしは自作キーボードの、いやそもそも工学の素人なので有識者には意見をいただけるとありがたいです。
それで、進捗があったらまたここで記事にするかもしれないので、楽しみにしていててくれ。
それでは、お約束の。
QWERTY+ロウスタッガードをやめろ。