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世界遺産[国立公園編]
今回は「国立公園」を取り上げます。世界遺産で国立公園というと何となく自然遺産っぽいイメージがあるのですが、文化遺産も散見される気がします。そこで、実際はどうなのか調べてみました。
遺産名に「国立公園」(「国立歴史文化公園」など、間に別の言葉が挟まれているものも含みます)がつく遺産を地域別にあげてみると以下の通りになります。
なお、遺産名の頭に、文化遺産であれば●を、複合遺産であれば★を付しています。自然遺産の場合は無印です。
①アジア
●『廬山国立公園』(中華人民共和国)
『三清山国立公園』(中華人民共和国)
『プエルト・プリンセサ地下河川国立公園』(フィリピン共和国)
『フォン・ニャ-ケ・バン国立公園』(ベトナム社会主義共和国)
『グヌン・ムル国立公園』(マレーシア)
●『ニア国立公園の洞窟群の考古学的遺産』(マレーシア)
『ロレンツ国立公園』(インドネシア共和国)
『ウジュン・クロン国立公園』(インドネシア共和国)
『コモド国立公園』(インドネシア共和国)
『サガルマータ国立公園』(ネパール連邦民主共和国)
『チトワン国立公園』(ネパール連邦民主共和国)
★『カンチェンジュンガ国立公園』(インド)
『ナンダ・デヴィ国立公園と花の谷国立公園』(インド)
『グレート・ヒマラヤ国立公園保護地区』(インド)
『スンダルバンス国立公園』(インド)
『ケオラデオ国立公園』(インド)
『カジランガ国立公園』(インド)
●『国立歴史文化公園“メルヴ”』(トルクメニスタン)
『タジキスタン国立公園(パミールの山脈)』(タジキスタン共和国)
★『ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石群』(トルコ共和国)
●『マサダ国立公園』(イスラエル国)
アジアの世界遺産で、遺産名に「国立公園」がつく遺産は21件あり、そのうち、文化遺産が4件、複合遺産が2件、残り15件が自然遺産でした。
文化遺産4件について見ると、『廬山国立公園』は景勝地であると同時に、李白や杜甫などの詩人が詩を詠んだり、浄土教の発祥の地であったりという文化的な側面をもっています。『ニア国立公園の洞窟群の考古学的遺産』は公園内の洞窟の中に、東南アジアで最古の人類の活動の痕跡が残っているといった考古学的に重要な遺跡です。『国立歴史文化公園“メルヴ”』は「歴史文化」の名の通り、シルクロードのオアシス都市として栄え、イスラム教、ゾロアスター教、キリスト教の遺構とともに、世界最西端の仏教遺跡が存在することでも知られています。『マサダ国立公園』は岩山の上に紀元前後の要塞遺跡が残っていると同時にユダヤ人の悲劇を伝える遺跡でもあります。
また、複合遺産2件について見ると、『カンチェンジュンガ国立公園』は、植物や渓谷、湖や氷河などの豊かな自然とともに、当地での原住民の神話などの文化的価値が認められています。『ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石群』は、奇岩が林立する中に、洞窟聖堂や洞窟修道院が点在する地となっています。
②アフリカ
『サンガネブ海洋国立公園とドゥンゴナブ湾-ムッカワル島海洋国立公園』(スーダン共和国)
『イシュケル国立公園』(チュニジア共和国)
『シミエン国立公園』(エチオピア連邦民主共和国)
『バレ山脈国立公園』(エチオピア連邦民主共和国)
『ケニア山国立公園と自然林』(ケニア共和国)
『トゥルカナ湖国立公園群』(ケニア共和国)
『ルウェンゾリ山地国立公園』(ウガンダ共和国)
『ブウィンディ原生国立公園』(ウガンダ共和国)
『キリマンジャロ国立公園』(タンザニア連合共和国)
『セレンゲティ国立公園』(タンザニア連合共和国)
『ニュングウエ国立公園』(ルワンダ共和国)
『W-アルリ-ペンジャーリ国立公園』(ニジェール共和国及びベナン共和国及びブルキナファソ)
『バン・ダルガン国立公園』(モーリタニア・イスラム共和国)
『ニョコロ・コバ国立公園』(セネガル共和国)
『コモエ国立公園』(コートジボワール共和国)
『タイ国立公園』(コートジボワール共和国)
『マノヴォ -グンダ・サン・フローリス国立公園』(中央アフリカ共和国)
『イヴィンド国立公園』(ガボン共和国)
『マラウイ湖国立公園』(マラウイ共和国)
『サロンガ国立公園』(コンゴ民主共和国)
『ガランバ国立公園』(コンゴ民主共和国)
『カフジ・ビエガ国立公園』(コンゴ民主共和国)
『ヴィルンガ国立公園』(コンゴ民主共和国)
『マナ・プールズ国立公園、サピとチュウォールの自然保護区』(ジンバブエ共和国)
アフリカの世界遺産で、遺産名に「国立公園」がつく遺産は24件あり、なんとそのすべてが自然遺産でした。アフリカらしいといえばアフリカらしいですね。
世界遺産検定で「以下の4つの遺産のうち、複合遺産(あるいは文化遺産)はどれか」といった問題が出て、すべて「国立公園」がつく遺産だった場合、アフリカの遺産であることがわかれば除外することができます。
③アメリカ
●『ランス・オー・メドー国立歴史公園』(カナダ)
『カナディアン・ロッキー山脈国立公園群』(カナダ)
→「群」の中には、バンフ、ジャスパー、ヨーホー、クートネーの4つの国立公園が含まれている
『ナハニ国立公園』(カナダ)
『グロス・モーン国立公園』(カナダ)
『ミグアシャ国立公園』(カナダ)
『ウッド・バッファロー国立公園』(カナダ)
『アラスカ・カナダ国境地帯の山岳国立公園群:クルアニ、ランゲル・セント・エライアス、グレイシャー・ベイ、タッシェンシニ・アルセク』(アメリカ合衆国及びカナダ)
●『メサ・ヴェルデ国立公園』(アメリカ合衆国)
『ヨセミテ国立公園』(アメリカ合衆国)
『レッドウッド国立・州立公園群』(アメリカ合衆国)
『マンモス・ケーブ国立公園』(アメリカ合衆国)
『カールズバッド洞窟群国立公園』(アメリカ合衆国)
『グランド・キャニオン国立公園』(アメリカ合衆国)
『イエローストーン国立公園』(アメリカ合衆国)
『ハワイ火山国立公園』(アメリカ合衆国)
『エヴァーグレーズ国立公園』(アメリカ合衆国)
『オリンピック国立公園』(アメリカ合衆国)
『グレート・スモーキー山脈国立公園』(アメリカ合衆国)
●『パレンケの古代都市と国立公園』(メキシコ合衆国)
●『タカリク・アバフ国立考古公園』(グアテマラ共和国)
★『ティカル国立公園』(グアテマラ共和国)
『ココス島国立公園』(コスタリカ共和国)
『タラマンカ山脈地帯:ラ・アミスタ自然保護区群とラ・アミスタ国立公園』(コスタリカ共和国及びパナマ共和国)
『ダリエン国立公園』(パナマ共和国)
『コイバ国立公園と特別海洋保護区』(パナマ共和国)
『グランマ号上陸記念国立公園』(キューバ共和国)
『アレハンドロ・デ・フンボルト国立公園』(キューバ共和国)
●『ハイチの国立歴史公園:シタデル、サン・スーシ宮、ラミエ地区』(ハイチ共和国)
●『ブリムストーン・ヒル要塞国立公園』(セント・クリストファー・ネーヴィス)
『モルヌ・トロワ・ピトン国立公園』(ドミニカ国)
●『ティエラデントロ国立考古公園』(コロンビア共和国)
★『チリビケテ国立公園:ジャガー崇拝の地』(コロンビア共和国)
『ロス・カティオス国立公園』(コロンビア共和国)
『カナイマ国立公園』(ベネズエラ・ボリバル共和国)
『サンガイ国立公園』(エクアドル共和国)
★『リオ・アビセオ国立公園』(ペルー共和国)
『ウアスカラン国立公園』(ペルー共和国)
『マヌー国立公園』(ペルー共和国)
『ノエル・ケンプ・メルカード国立公園』(ボリビア多民族国)
●『ラパ・ニュイ国立公園』(チリ共和国)
●『セラ・ダ・カピバラ国立公園』(ブラジル連邦共和国)
『セラード自然保護地域群:ヴェアデイロス平原国立公園とエマス国立公園』(ブラジル連邦共和国)
『レンソイス・マラニャンセス国立公園』(ブラジル連邦共和国)
『イグアス国立公園』(アルゼンチン共和国/ブラジル連邦共和国)
『ロス・アレルセス国立公園』(アルゼンチン共和国)
『ロス・グラシアレス国立公園』(アルゼンチン共和国)
アメリカの世界遺産で、遺産名に「国立公園」がつく遺産は47件あり(『イグアス国立公園』はアルゼンチンとブラジルで別々の遺産なので2件として数えています)、そのうち、文化遺産が9件、複合遺産が3件、残り35件が自然遺産でした。
とにかく数が多いのと、その中で比較的文化遺産が多いのが目につきます。1978年に最初の世界遺産12件が誕生しましたが、そのうち、アメリカ合衆国とカナダの遺産として登録された4件がすべてこの中に入っていて、そのうち2件が文化遺産というところもその象徴といえるかもしれません。
複合遺産の3件について見ると、『ティカル国立公園』は、マヤ文明最大級の神殿都市遺跡が残されているのと同時に、公園内には中央アメリカ最大規模の熱帯雨林が残されています。また、『チリビケテ国立公園:ジャガー崇拝の地』は、コロンビア国内で最も広い自然保護地域であると同時に、紀元前2万年前からの岩絵が見られる岩窟住居が残されています。そして、『リオ・アビセオ国立公園』は、原始時代そのままの自然が残されているのと同時に、インカ以前に築かれたと推測される住居遺跡が点在しています。
④ヨーロッパ
●『シングヴェトリル国立公園』(アイスランド共和国)
『ヴァトナヨークトル国立公園:火山と氷河がつくるダイナミックな自然』(アイスランド共和国)
●『チレント・ディアノ渓谷国立公園及び遺跡群と修道院』(イタリア共和国)
『テイデ国立公園』(スペイン)
『ガラホナイ国立公園』(スペイン)
『ドニャーナ国立公園』(スペイン)
●『ホルトバージ国立公園:プスタ(大平原)』(ハンガリー)
『プリトヴィツェ湖群国立公園』(クロアチア共和国)
『ピリン国立公園』(ブルガリア共和国)
『ドゥルミトル国立公園』(モンテネグロ)
アメリカとは対照的に、ヨーロッパの世界遺産で、遺産名に「国立公園」がつく遺産は10件しかなく、文化遺産が3件、残り7件が自然遺産でした。
文化遺産3件について見ると、『シングヴェトリル国立公園』は、自然豊かな中に、世界最古の議会(「アルシング」と呼ばれる全島集会)の遺構が残されており、文化的景観としての価値が認められています。『チレント・ディアノ渓谷国立公園及び遺跡群と修道院』は、断崖や岩礁が点在する入り組んだ海岸線や美しい渓谷を有する公園内に、紀元前に建設された植民都市の遺跡などが残されています。『ホルトバージ国立公園:プスタ(大平原)』は、ドナウ川流域のプスタと呼ばれる大平原の一角に、2,000年以上にわたる伝統的な牧畜利用の痕跡が残されており、文化的景観の価値が認められています。
⑤オセアニア
★『ウルル、カタ・ジュタ国立公園』(オーストラリア連邦)
★『カカドゥ国立公園』(オーストラリア連邦)
『パーヌルル国立公園』(オーストラリア連邦)
★『トンガリロ国立公園』(ニュージーランド)
オセアニアの世界遺産で、遺産名に「国立公園」がつく遺産は、全体の遺産数が少ないこともあり、4件しかありませんが、そのうち自然遺産が1件で、残り3件が複合遺産でした。
こうしたことから、世界遺産検定で「以下のオセアニアにある4つの遺産のうち、複合遺産でないものはどれか」といった問題が出て、選択肢が上の4つの遺産だった場合、即答することができます。
以上、遺産名に「国立公園」がつく遺産をあげてみました。
現在、世界遺産に登録されている1,223件の内、地域ごとにばらつきはありますが、遺産名に「国立公園」がつく遺産は106件で、その内訳を見ると、次の通りとなりました。
自然遺産 82件
複合遺産 8件
文化遺産 16件
当然のことながら自然遺産が多いのですが、そこそこ複合遺産と文化遺産も含まれており、ほぼ想定の範囲内で、イメージ通りの結果となりました。
⑥世界遺産名以外
⑥と⑦は上記以外のものについて調べたものになります。まずは、遺産名に「国立公園」は含まれていないけれども、遺産に関連する項目として「国立公園」が出てくる主なものを挙げると以下の通りです。
「ナガルホーレ国立公園」
→『西ガーツ山脈』(インド)
⇒この遺産には、ナガルホーレ国立公園が含まれている
「スンダルバンス国立公園」
→『シュンドルボン』(バングラデシュ人民共和国)
⇒この遺産の登録範囲は、世界遺産『スンダルバンス国立公園』(インド)に隣接している
「カラハリ・ゲムスボック国立公園」
→●『コマニの文化的景観』(南アフリカ共和国)
⇒この遺産は、「カラハリ・ゲムスボック国立公園」を含んでいる
「チジュカ国立公園」
→●『リオ・デ・ジャネイロ:山と海に囲まれたカリオカの景観』(ブラジル連邦共和国)
⇒この遺産は、「チジュカ国立公園」を含んでいる
「ボカイナ山脈国立公園」
→★『パラチーとグランジ島:文化と生物多様性』(ブラジル連邦共和国)
⇒この遺産は、「ボカイナ山脈国立公園」を含んでいる
「パスコアル国立公園」
→『ディスカヴァリー・コースト大西洋沿岸森林保護区群』(ブラジル連邦共和国)
⇒この遺産は、「パスコアル国立公園」を含んでいる(この「パスコアル国立公園」は、ポルトガル人が初めてブラジルに上陸した地とされている)
「アオラキ/マウント・クック国立公園」
→『テ・ワヒポウナム』(ニュージーランド)
⇒この遺産は、「アオラキ/マウント・クック国立公園」を含んでいる
「ブルー・マウンテンズ国立公園」
→『ブルー・マウンテンズ地域』(オーストラリア連邦)
⇒この遺産は、「ブルー・マウンテンズ国立公園」を含んでいる
「クレイドル・マウンテン-セント・クレア・レイク国立公園」
→★『タスマニア原生地帯』(オーストラリア連邦)
⇒この遺産は、「クレイドル・マウンテン-セント・クレア・レイク国立公園」を含んでいる
「ツィンギー・ド・ベマラハ国立公園」
→『アンドレファナ乾燥林群』(マダガスカル共和国)
⇒この遺産は、当初「ツィンギー・ド・ベマラハ国立公園」(登録当時は「国立公園」ではなく「厳正自然保護区」)単体で登録され、その後登録範囲を拡大し、現在の遺産名となっている
「レユニオン国立公園」
→『レユニオン島:峻峰と圏谷、その外縁』(フランス共和国)
⇒この遺産は、「レユニオン国立公園」の中心地域が登録されている
「ホートン・プレインズ国立公園」
→『スリランカ中央高地』(スリランカ民主社会主義共和国)
⇒この遺産は、「ホートン・プレインズ国立公園」を含んでいる
⑦日本
最後に日本の遺産について見ると、遺産名に「国立公園」が入っているものはありません。ただ、環境省のHPのなかに「日本の国立公園一覧」というのが載っていて、世界遺産については、「世界遺産」という表記がされています。それらをみると以下の通りになっています。
自然遺産
・「屋久島国立公園」→『屋久島』
・「知床国立公園」→『知床』
・「小笠原国立公園」→『小笠原諸島』
・「奄美群島国立公園」、「やんばる国立公園」、「西表石垣国立公園」→『奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島』
文化遺産
・「瀬戸内海国立公園」→『厳島神社』
・「日光国立公園」→『日光の社寺』
・「吉野熊野国立公園」→『紀伊山地の霊場と参詣道』
・「富士箱根伊豆国立公園」→『富士山-信仰の対象と芸術の源泉』
あくまでも「世界遺産地域を含む国立公園」ということで、国立公園がそのまま世界遺産というわけではないのですが、自然遺産ばかりではなく、文化遺産もあって、それらがいずれも信仰と関わりの深い遺産であるというのが特徴的だなと感じました。
今回は以上です。次回は、「アジアの王・皇帝」を取り上げる予定です。