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『OD!i』第60話「汝の敵を知れ①」
恵喜烏帽子氏との一日から次の日。
マラニックまで、あたしは祷と一言も話せなかった。
しかし、マラニックが始まり、
共に2km程に差し掛かろうという時、
「捧華? 昨日は感情的になってすまんかったち」
祷が頭を下げてきた。
ただ今はわずかな事情を知ってしまっているから、
祷のその行為はあたしをより切なくさせるものでしかなかった……。
「ううん。いいよ祷。あたし気にしてない。女の子は体調も精神衛生管理も、男の子よりずっと大変なんだぞって、お母さんが言ってたし、あたしみたいなガサツな女子だって、毎日ご機嫌だなんていきっこない」
「ちち♪ わちの友は、心が広い♪ じゃが……聞いていいか?」
祷の声音は曇っている。
だからこそ……、
「うん♪ もちろん」
あたしは明るく努めた。
「み……御門の奴とはどんな話をしたち?」
正直に答える訳にはいきにくい。
恵喜烏帽子氏の胸いっぱいの祷への想い。
彼がまだ独りで祷の為に能力を行使している事。
力を持つ組織に恵喜烏帽子氏には監視がついている事。
ここは大事な局面です。
あたしは自然な笑みをこぼした風に、
仮面をかぶってみせる。
「えぼしーには祷がとっても大切な女性なんだってさ。だからよく一緒に居るあたしがどんな人間か確かめたかったみたい」
「……え、えぼしーじゃと? それは御門のあだ名か?」
即席にしてはよく思いつくなあたし。
えぼしー……ちょっと気持ち悪さもあるけれど。
「そ、あたし達はもう友だちになったんだよ。お互いがお互いに友だちとしての興味しかないって分かってるからね♪」
そしてね、と続けるあたし。
「祷を大切にしてくれるなら、早水も『ついでに』大切にしてやるってさ? 祷、大切にされてんのね?」
するとみるみる内に、
祷とのペースが離れてゆく。
あたしは間違っていたのかもしれない。
話し過ぎたのかもしれない。
だけど、祷も辛かったに決まってるけれど、
あたしはえぼしーが……、……辛過ぎるよ。
発言に後悔を覚えても、もう取り返せない。
祷? あたし立ち止まらないよ。
あたしは一度だけ振り返り、
祷の表情までは確かめられなかったけれど、
堪りかねたかに祷は自身を抱きしめて、
唇がほんの少し、
気の所為かもしれないけど、
「馬鹿者め……」と、
動いた気がした。
………………
…………
……
到着し、お昼を皆さんで摂り。
感謝。
それから、フィールドアスレチックをまわり、
各人終えストレッチをし、
杏莉子の出した、これからのミーティングが行われます。
「一人称は申します。現在一人称が必要としている人材の件を、と。一人目は、あたしの思考を理解し、誤りがあれば訂正を、より好い案があれば、それを提案してくれる人物。二人目は、俯瞰から他者とのコミュニケーション能力を、あえて塞いでいる一人称とは違う。だれもが話しかけやすく、皆さんのスケジュール管理を正確に把握し、なおかつ一人称に対しても、親しくしてくれていて、ほうれんそうのできる人物。そして、この以上二名は女性である事を望んでいます。あとは、もう二名、こちらは、男性側の視点で一人称に、相談や提案をしてくれる人二名。一人称との計画Aを共に行って下さる方は、どうか挙手をお願いします」
早速挙手されたのは清夜花さんです。
「歌坂さんとなら喜んでご一緒させてもらいますわ。貴女の俯瞰を貫く姿勢は美しいですし、人間が本当に主観から自由になれるかの考察にもなる。ですから、あたくしにとっても有益なものになると判断しました。あたくしは遠慮はしませんよ?」
ふたりは以前の読書会の様に数瞬、
視線を交わし合いますが、
烈しいものではなく、
認め合う者同士のお互いへの関心へと変わってみえます。
「姫がお入りになるのであれば、それがしも男性の視点でお力になりとう御座居ます」
即座に清夜花さんが、
「虎頼さん、姫はよしてくださいと何度言ったら解るのです。あたくしにはその様な言葉は勿体無い」
「……で、ですが、それがしには……」
戸惑う流天氏に、
もの柔らかな声音の清夜花さん。
「皆が動き始め変わろうとしているのです。仲間へと。貴方らしくで構いませんが、いずれはあたくしの、貴方へ何れ程感謝しているかを分かって欲しいと想っています」
お変わりに……いえ、変わった、彼女、清夜花さんは、大きく。
そこへ絶妙に挙手するのは誠悟氏。
「問題ないでしょうが万が一。吾が入れば不誠実は皆しにくいでしょう。よろしければ吾にも参加させてください」
確かに誠悟氏以上の見張り役はいませんね♪
そんなあたしにウィンクする誠悟氏。
やりやすくてやりにくい……確かに。
その後に杏莉子は告げる。
「後は連結調整役の女性一名です。どなたかいませんか?」
途端にせーこーとえぼしー。
「いや、一人しかいねぇだろ?」
「うん恵喜烏帽子、わいさもそう思う」
二人の視線の先を皆さんが追って、
その向こうには…………、
あたしが居ました。
てきをしれっていわれたら、
まっさきにぼくをどうにかしないとね。
さいしょのてきで、さいしょのみかたなんだからさ。