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『開幕前夜』第3話「君死にたまふことなかれ」
明日、
あたしは菜楽荘を出て、
旅立つ。
お父さんとの実戦で、
感情を揺らす事は、
時に死に繋がる事を覚えました。
死は、
くもりなきまなこがあれば、
そこここにありふれている。
橋の上から川を覗くと、
引き込まれそうになる感覚とか。
自分の意志を折られた時。
まぶたをぱちくりさせる事だって、
一種の死とさえ今は言える。
だから大丈夫。
同じ分だけ。
生もまたありふれているんだ。
あたしは結局は死なない。
神仏はいつでもあたしを、
完璧完全にたずさえて下さっている。
それに精神の死は、
死ねば死ぬほど、
より強靭な精神力を獲得できるチャンスにもなる。
記憶を忘却の彼方に渡す時が来ても、
「あたしは、永遠を歩くんです」
そうお父さんに伝えたら、
自然に髪を愛し撫で、
こう言ってくれたんです。
「捧華はもう立派な、『OLiner(ラヴライナー)』だ」って……。
きっとその言葉の意味は宿題なんだって想い、
それ以上は尋ねません。
ですが、
お父さんは自身の魔法“第四の壁”について、
多少の事を話してくれた。
あたしは、「何故今そんな事を?」と思いましたが、
お父さん曰く、
「捧華が座頭としてやっていく中で、知っておいてもらった方が、僕も創りやすいからね」
という事……、なにそれ?
結局“第四の壁”の触りだけでしたが、
要は、視方の点の幅を広げられるというのが、
“第四の壁”の利点のひとつと覚えました。
例えば、あたしが文字である可能性の上で、
「あたしを読んでいただき、有難う御座居ます」と、
一見メタな発言をしても、そういう世界は確実に在る事を信じられれば、
あたしは文字の枠から、少しだけ外れられる訳で御座居ます。
さぁ、
明日は早い。
もう寝ないと……。
お父さんお母さんお兄ちゃんお姉ちゃん。
凛音ちゃん、ごめんなさい。
行かせてくれて有難う。
支酉神社の皆様。
菜楽荘の皆様。
菜楽町。
いつも、有難う御座居ます。
あたし もっともっと成長するね。
おやすみなさい……。
………………
…………
……
彼は言う、
「おはよう捧華君」
優しく穏やかな口調で、
「君のお陰で、やっと悪い夢から解放された」
彼はハンサムなのに、
鼻から血を流していて……、
どこか絵空事……、
……夢……なの?
ホントなの?
周りを覚えると、
たくさんの桜の花びらが、
桜花絢爛。
白、薄紅、濃紅に、
包まれる様に舞い踊られて、
……気が付くと、
彼と手を繋いでいます。
それから……、
水たまりの上を裸足で、
じゃぶじゃぶやってるあたし達。
彼はさらにこう告げます。
「小生も、悪しきとおぼしきものと戦うよ。何度倒れたとしても。どれだけの涙を流したとしても。小生は、君が居てくれれば立ち上がれる」
夢現の中、
まさかに直感が閃く、
この方があたしの仕えるべき……、
君だ。
その出逢いが、
あたしを途端に臆病にさせる。
「あたし……、離れたくないっ!」
……ですから、
君にも望み……、
……どんなに滑稽に見えても、
縋りさえするっ……、
「どうか、君も、死なないでっ!!」
………………
…………
……
なぜなら、
そう……、
きっと……、
あたしは……君を……、
愛しているから。
とまどえばとまどうほど、
それはあいしているということなの。
わすれないで、あいすることを、あいされていることを。