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『OD!i』第57話「独裁の両眼①」
今朝一番の出来事は、
きるくが自動で起動し、
luv(ラヴ)-lab(ラブ)-Phone(フォン)、
llPで、
雁野先生からの複数同時通話が行われた事でした。
大切なお知らせは、
今週の金曜日に、身体測定というものがあるそうで、
ラプラスの魔があるから時間はあまり取らないそうですが、
もうひとつ、
それに合わせてあたし達全員のDNA採取も行うとの事です。
「われは人あらざる者だが、そのラプラスの魔はわれにも有効なのか?」
神守森氏の発言で、
皆さんに束の間の静寂の時が流れます。
それと同時にEのクラスにもきるくが、
渡されている事が、あたしにも分かりました。
「オイラだって厳密に言えば、門の外の国々の多くの人間とは、明らかに違う存在さ。少し言葉が通じて、相手を思いやりたい気持ちを持っているなら、それを人間と定義したっていいさ。みんな宇宙の一部さ、自然の一部さ、それだけ弁えておければ謙虚に生きられる。全知の魔なんて泣ける程有難い存在だと思わねーか? 全てを知ってるだけで、全能の悪魔なんてきーた事ねーしよ? 全てを知る事ができると仮説を立てられる存在を、人や人ならざる者がもしも出会えたとしても、オイラ達に向けて話せる言葉は一語たりともねーのさ。学園のラプラスの魔はただの比喩でしかない。だが、今の学園はそこにこそ魔というものの存在へ、感謝と敬意を払っているんだ。今はオイラや川瀬先生を、信じてもらうしかないな」
神守森氏の心は計り知れませんが、
「雁野先生、さしあたって得心はした。われはお二方に従おう」
「逢真さまがご納得するのでしたら、麻も従います」
素早く同意の反応を返す七卜聖氏。
神守森氏が人間ではない事にわずかに驚きましたが、平常心。
そして、神守森氏は悪い事をする存在には見えません。
刃で人を殺める者、刃で人の為に物を創造する者。
誰かの為であり、自分の為。
“情けは人の為ならず”。
道具は人を殺さない。
つまり何事も、
それぞれの存在の持つ意志こそが、
大切にしなければいけない事なんだ。
そこに
「早水? 個人的におまえに会ってどうしても話がしたい。いきなりで頭下げるしかねぇけど……、できたら今日時間つくってくんねぇかな?」
う……、できたら今日初めての、
伸びてきたあたしの髪の為の、
理容室もしくは美容室へ行きたかったのですが……、
菜楽荘ではなんでも器用なお母さんが切ってくれていたから。
ある意味寮生活での憧れの夢のひとつなん……、
ですが!
ここで受けねば女がすたる!
「良いですよ。時間と場所はどうしましょう?」
「助かる。マラニックの帰りで、駅前にあった喫茶店でどうだ? わかるか?」
「ああ、ワニさんの看板がロゴマークの喫茶店ですね」
「おう、突然だから準備に時間がかかるだろ? 午後の二時に待ち合わせな、俺は先に席とっとく」
「ふん。わらわも裏切り次はわらわの友だちに鞍替えか?」
あたしの心中が凍りつきました。
恵喜烏帽子氏が友だちを裏切る人とは思えない。
しかし祷の辛辣さは、
二人に以前何かがあった事だけは感じられる。
そこに雁野先生の平板なお言葉、
「きるくは痴話喧嘩させる為に作ったんじゃねーぞ。お前ら三人は青春してろ。他なんかねーか?」
五秒から十秒程の間、
皆さんの微細で様々な呼吸音だけが、
何処かしら複雑な心地よさで聞こえてきて、
雁野先生が告げます。
「それじゃー解散」
かこ、げんざい、みらい。
あなたがたいせつなのはどれ?
ひとつになんてえらべっこないか。