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『OD!i』第63話「公衆電話②」
お昼休み、
eとEのクラスメイト達でお食事です♪
雁野先生と川瀬先生はいらっしゃいません。
「いただきます」
お食事の中で、
特に眼を引くのは、鯵(あじ)の開きにきんぴらごぼう♪
このごぼうは、きっと新ごぼうだ。
柔らかくて食べやすい♪ よく噛んでよく噛んで……、
「ごちそうさまでした」
………………
…………
……
今日はもう帰っていいそうですが、
皆さん食後からかのんびりとしてます。
皆さんだってこれからのお時間、ご予定があるはずです。
今の内に尋ねておかないといけない質問を、
あたしはできるだけ丁寧に投じます。
「あの皆さん……、あたしって今まで母に髪を切ってもらった事しかないので、理容室も美容室も行った事がないんです。どなたかおススメの場所を教えてもらえませんか?」
「早水のお母さん凄いな。わいさは男だから理容室……床屋だな。髭も多少生えてきたからなおさらな。男性は理容室で女性は美容室という印象だ。美容室は髭やお肌の産毛は剃ってもらえないだろ? 確か法律上で?」
とそこに、
「一人称は申します。現在の美容所は法律が変わり、女性の顔剃りなら可能です、と」
杏莉子の言葉に誠悟さんが入る、
「つまり髭は法律上ダメなんですね。吾は髭を剃っていただくのと、あの適度な温度のタオルを、顔にのせられるのはたまらなく好きでして、本来外出は嫌いなのですが、床屋にはその愉しみがあります」
あーわかるわかる♪
的な、
一部の男性陣の一体感を覚えながら、
え? え? つまりあたしは女性ですから美容室に行けばいいの?
それでもなんだか誠悟さんの言葉には理容室の魅力を感じる。
「捧華さん、貴女に丁度いいお店を紹介しましょう。今日この後時間があるなら、あたくしもそろそろ変わりつつある髪型と髪質の教えを、そこで近々に受けるつもりでしたから。どうかしら?」
清夜花さんがあたしを誘ってくれている?
これはもう……!
行くっきゃない♪
「はい! 清夜花さん、喜んで♪」
その後少ししてから、皆さんと解散しました。
………………
…………
……
あたしは今、弥那町の公衆電話から、
菜楽荘、お家へ電話しています。
清夜花さんに待ってもらっているのですから、
お金も掛かるし、テキパキと終わらせないと!
三回目の呼び出し音で、
お母さんが出てくれました。
「はい、早水です」
「お母さん、捧華だよ」
「捧華どうした? なにか急いでるの?」
お母さんはお父さんと違って察しがいい。
「うん。あたし今日理美容室デビューで、お店を紹介してくれる人を待たせてるの」
「人って、男の子か?」
「素敵な女性って意味」
「なら、安心した。学園に行く前の約束は守ってくれたから、コンちゃんとポップちゃんの誕生日の時の警告は解いてやる。お店でいただくレシートは取っておいて、夏休みには帰ってきて見せてくれよ。捧華は私に似たんだから、おめかしすりゃそれなりなんだよ」
「お父さんはお母さんは世界一の美人って言ってるけど?」
「奴は目も頭もオカシイから……、」
さぁ、どうぞ♪
「私が居て上げないとダメなんだよっ」
お決まりの台詞でござい♪
………………
…………
……
「清夜花さん、待たせてすみません」
「いいえ。では行きましょう」
清夜花さんと二人で出掛けられる日が、
こんなに早く来るなんて。
すぐに話し掛けられる話題が思いつかなくて、
三分程目的地まで無言が続きました。
先に沈黙を破ったのは、
「ねぇ捧華さん? もしよかったらあたくしにも愛称を考えてくれないかしら?」
清夜花さんからのなんとも魅惑的な願いでした。
しかしあたしは戸惑います。
本当に清夜花さんに何があったんでしょう。
突き離されたと思ったら、こんなにも、引き寄せられる。
「……そう、伝わっていたわよね。あたくしはね? 学園に来るまで、貴女が嫌い……いいえ、憎んでいたの」
……やっぱり、
しかし……憎悪まで向けられているとまでは気付けませんでした。
「あたしがあの日公園で、清夜花さん達に、何か無礼を働いたからでしょうか?」
彼女は首をやんわり横に振る。
「違うわ。原因の発火は、貴女への嫉妬。そこから全否定(にくしみ)だけの空をあたくし自身が勝手に勘違いを起こして、苦しんでいただけ。分かっていたとは思うけれど、貴女と向き合う事を意識的に避けてきてたのよ」
それでも今は、と彼女の声音は凛と鳴る。
「それを受容した上で、世界を全肯定(いつくしみ)したい、様々なもの達に、近付き五感で触れ合い覚えたいの。あたくしは学園に来てから遠くからは、ずっと貴女を見ていた。だから貴女があたくしを受容してくれる人だと知ってる。清(さやか)なんて勿体無い、ズルい人間なの、あたくしは」
ねぇ……お父さん? やっぱり人はわかりあえない方が、
幸せを感じやすいのかもしれないね。
あたし、清夜花さんの仰っている意味がほとんど分からない。
分からないのに、あたし今自分が自然な笑顔してるって分かるんだよ。
だから……こそ、真剣にもなる。
「あたしは清夜花さんの事、清夜花って呼びたい。そして、あたしも捧華って呼んでもらいたい。…………ダメ?」
お互いにしばらく立ち止まって見つめ合い沈黙する。
目は逸らさない。
見てもらうんだ。
この清か夜の一輪の美しい花に。
あたしの君へと捧ぐ華を。
一秒が永いとさえ思える緊張感…………、気が遠くなる。
ふたたび、
動き始めたのも、
また彼女でした。
あたしは何処かしらの精神的倦怠がどっと押し寄せ、
歩き出した彼女の背中を見送るしかない。
そんなあたしを呼ぶ彼女、
「どうしたの? 行くわよ捧華?」
鼓膜を震わす言葉ひとつで疲労も吹き飛び気力を取り戻します!
「うん! 今行くよ清夜花」
今日という一日はまだまだ終わらない。
これよりの師(せんせい)は清夜花。
目的地は理美容室「………… ……」で御座居ます。
あたしがたんぽぽむすめなら、
かのじょはさしずめすみれむすめ。
はなばなのしゅぞくたち。