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『開幕前夜』第5話「水のまどろみ」
わちは、
北方を守護する水神を頂く娘。
祷は「禱」の略字。
御神にささげる台座の象形。
供物はわち自身じゃ。
捧華のお父上のしおりに出会うまで、
わちは、
御神に早く召される日がくればいいのにとさえ、
思っていたち。
心を、蝕まれ、蹂躙され、唯一の理解者にまで裏切られ、
差別される他者との関わり。
心は泣き叫んでも、
誰もわちの昏がりを、本当には理解できない。
そんな毎日の中で、
こひなた先生の、普通学園のしおりに出会った。
わちの尊敬する、
偉大な漫画家のご作品を、
こひなた先生は、
わちの理解と、
全然違う切り口で悠々と泳いでいる……、
亀みたいな方じゃったち。
本当の事は、
偉大なアーティストにしか、
わからないち。
じゃが、
わちには、
透き通る、
綺麗な綺麗な雪の結晶が、
す
と、
とけて、
心に大海が流れ込み、
御神様の神託と、
わちの祈りが通じ合った。
わちは水のまどろみ。
自由な夢の在り処は、
無数にあるのじゃと。
わちは普通学園の入学を、
早くからわち自身で選び取り、
普通の椅子に座る事ができる様になったち。
わちは無限の広がりを覚え、
自身でもわかる程、
御力を貸し与えられる様に。
捧華との、
初めましての、
やどりのみこと。
わち、正直少し残念だったち。
“久遠之焔”結びし、
こひなた先生達のお子さんが、
こんなにまだ幼いなんて……。
じゃから、
先生への御恩返しに、
せめてのお守りを、
感謝を込めて持参して、
突然お邪魔してしまいました。
ところがじゃ、
捧華を一目見て、
瞬時にわちは戦慄したち。
勝負事の要は心理戦。
絶対に思ってはいけない事。
わちは勝てない。
まるで、
士別れし三日後の事じゃ。
わちは、
近接戦は苦手じゃち。
わちは“支援”、
“守護”の能力に特化しているからだち。
月輪が在るべき様。
じゃからこそ、
わちは武者の震え感じて。
わちはわちの、
日輪を選ばせて頂いたち。
この二度目の邂逅こそ、
宿命じゃと。
捧華と共に在り、
その輝き失いし時まで、
と。
わちには惚れたら、
惚れ通す気概がある。
わちの唯一の理解者にもちこぉとる。
わちは、
わちには、
おまえだけじゃ。
捧華?
食らいついて離さんから、
陽の光でわちの事輝かせて。
祈りの一念と女の勘。
合わせれば、
無敵じゃ。
こひなた先生の、
早水家の、
捧華を……、
だれかをしんらいできるかをためすのに、
いちばんいいほうほうは、
あたりまえのようにしんらいしてみることです。