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『OD!i』第54話「愚者もしくはヴァース‐コーラス②」
自室のテレビで調べた天気予報では、
降水確率の極めて低い曇天の中、
今あたしの目の前には、
ライヴ喫茶、解輪(かいわ)が御座居ます。
時刻はまだ開店前。
気持ちを落ち着ける為に、
大切な鉢巻の日の丸を右手でさすり、
平常心を念頭に、
いざ、急な階段を上り、
「準備中」の扉をノックし、
店員さんに内側から開けていただくと、
まさかの人物が……、
………………
…………
……
なんとなく目をやる店内の店員さんの中には、
白いバンダナキャップの一途尾氏。
東側のレジ付近には、
読書会での店長と思しき人物と、
あと、
三尾氏です……。
「はっ、……早水!? 何しに此処へ? もしかして、早水もアルバイト希望か?」
も?
そういえば三尾氏はアルバイトに迷っていらっしゃったな……。
「はい……。三尾氏は、もう決断されたのですね」
「ああ、此処以外ねぇってぐらい惹かれちまってる。早水は様子見か? ダチだからって譲るつもりはないぞ」
ダチって……友だち?
三尾氏は、そこまであたしの事を気に掛けてくれていたんだ。
凄く……嬉しいっ!
そこに低音にしてよく通る声音が、
「ああ、早水くん、ようやく来たね。店長の小津(おづ)です。早水くんの事は、ご兄姉(きょうだい)から伺っているよ。履歴書ももう受け取っている。三尾くんの事も知っている事だし、店の奥で、一緒に面接してしまおう」
コンお兄ちゃんとポップお姉ちゃんが?
あと……履歴書ってなんでしょう?
様々な疑問を抱いたまま。
今から面接と呼ばれるものを、
して頂ける運びとなりました。
………………
…………
……
店の厨房のさらに奥のささやかなお部屋に、
三尾氏と並んで座ると、
やはり三尾氏は逞しいお身体をしていると、感想を持ちます。
しかし、少し逞し過ぎて、
並んで座るには、小さなあたしにはやや窮屈でした。
「和歌市へ来て、まだ日が浅く驚く事が多いであろう君達だから、最初に、憶えていて損は無い事を伝えておく。――もしかしたらもう知っているかもしれないが、ここは異能(ちから)を持っていない人達の方が少数だ。君達自身は、自分自身で学園生活を選んだつもりかもしれないが、学園を、和歌市を知るという時点で、大半の者が、学園やこの場所に必要があって喚ばれた者達なんだ。その中には、異能が浄化され、普通に門の外の日本での生活に戻れる者もいれば、和歌市に骨を埋める者もいる。つまり、君達は此処では普通って事だ」
「……やはり、そうですか……、ですが、そんな事学園では一言も教えてもらえませんでした」
そう三尾氏が告げると、
「社会(アルバイト)に出る事を選んだ君達への、人生の先輩からの忠告(サービス)とでも思ってくれればいい。いつまでかは分からないが、ここで働く事になった時、仕えてもらう者の身としてのね。痛い目を見るのは、決して悪い事じゃないが、分を弁えて、回避できるならより好い」
店長のお言葉をしっかりと受け止めてから、
「さぁ尋ねよう。君達はこの店で何がしたい? 何ができる? 何を照らす?」
本格的な面接の始まりです。
ちいとかめいよとかさ、たいしていみなくない?
ぼくにたいせつなのはきみをおもって、
ここにいるよっていちぐうをてらすこと。