裁判の傍聴


2022年9月28日、人生で初めて裁判の傍聴に行ってきた。
大学のゼミ活動の一環として、先生が少しだけ関わったという裁判の判決を見に行ったのだ。

始まる一時間ほど前に裁判所で先生・同級生と合流。そこで同級生から今から見る裁判の事件名を教えてもらった。

私はその事件名を見たときピンときた。

この事件、知ってる。

被害者名や事件の概要を見る前にするっと出てきた言葉に同級生は驚いたようだった。

事件は私たちがまだ幼かった十年以上前のものではあるが、犯人が捕まったのは数年前。それでも犯人が捕まったということ自体にとても驚いた記憶はしっかりと残っている。

私が事件名を聞いてピンと来たのはその事件が身近で起こったものだったからだった。
小学生のころの生活圏のスーパーの入り口にずっと置いてあった立て看板。被害者の名前と事件の概要はずっと記憶に残っていた。

初めての裁判傍聴にしては重い事件だっただろう。それでも私はこの縁を偶然とは思えなかった。


傍聴席に入るとまず目に入ったのはよくニュース映像で見る法廷のつくり。そして右手側に見えるパテーションだった。
それだけでわかってしまった。
ご遺族が来られる、と。

しばらくして裁判官が入ってくる。立ち上がり一礼してまた座る。これは基本やることだと事前に先生から聞いていた。
しばらくすると犯人が刑務官二人と入ってきた。一見しただけではわからないくらい普通の男だったと思う。

それでも腰縄と手錠が見える状態で物々しく囲まれている様子はなにか恐ろしい感じがあった。
法廷では腰縄と手錠は外されるらしく、その点についてはとても驚いた。

その後パテーションが動かされ、入り口から隠されてご遺族が入ってきたことで人がそろって、時間になると開廷した。

裁判の内容は法律用語も多く聞き取りにくいものが多かった。ただし犯人側が否認していること、それを裁判官側がはねていることは何となくわかった。
最初に結論が述べられて裁判は始まった。
その後述べられていく事件の概要と、ところどころ入ってくる地名が私の中の記憶をゆする。知っている地名、地理関係がある程度わかるが故にどちらに進んだのか何となく予想してしまい、想像以上にしっかり頭を使ったように思う。
弁護士側の反論に細かく答えながら事件を追っていったため時間がかなりかかった。パテーションの裏で遺族は何を思うのだろうか。

犯人は終始静かに裁判官の話を聞き、最後に控訴・上告といった不服申し立てができる旨を伝え裁判は閉廷。
不服を申し立てることなくご遺族の戦いがここで終わることを祈らずにはいられなかった。

親が返ってきた後、傍聴の感想を聞いてきたのだが、さすがに少し口篭もらずにはいられなかった。
それでも見てきた裁判の事件名を伝えると、母は「うそでしょ…」と言いながら当時のことを少しだけこぼした。

事件の場所と近かった我が家にも警察が来たし、空にはヘリコプターが多く飛び交い、物々しい雰囲気だったという。

当時まだ幼稚園にも行ってなかった私はさすがに覚えてないが、大きな事件だったためいろいろと大変だったようだった。

姉もそう大きいときの事件ではなく、当時のことを覚えていたわけではないし事件名ではわかっていなかった。それでもスーパーの看板のという言葉と被害者名で途端どの事件の裁判の傍聴に行ったのか分かったらしい。

それほど覚えているくらい印象的だった。
不思議な縁を感じながら感想を言った少し後、ローカルニュースで弁護士側が不服申し立てを行ったことを知った。

まだ終わらないのだとわかった。
法廷の様子からも長い戦いが終わるとは思えなかったが、それでも終わってほしいと思っていた。

それでもあと少しで決着はつくだろう。
幼いことから身近にあった大きな事件の戦いが終わる日が一刻も早く来ることを願った。

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