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出る杭は、めった打ち-いつになったら宿に着けるの!?-

スリランカ旅の中盤。古都キャンディから鉄道に6時間半ほどゆられて、エッラという小さな町へ。

そこは1年中、気候が爽やかで雨もあまり降らない紅茶の産地。近年、欧米人の間でめちゃくちゃ人気が高まっているというエリアだ。
私のドイツ人の友達も、リピート訪問するほどこのエッラにハマっていたので、今回は私も足を延ばしてみることにした。

ドアを開け放して乗る、名物鉄道で移動

列車から降り立つと、なんと駅のホームに何人ものトゥクトゥク運転手が待ち構えていて(トゥクトゥクは改札の外に停めてから、構内に入ってきている)、張り切って声をかけてくる。

エッラのトゥクトゥク料金は高い、と聞いていたので、客引きするドライバーたちとは目を合わせずに、配車アプリのPickMe(ピックミー)を使って宿までのトゥクトゥクを依頼した。

その様子を見ていた客引き中のおじさんが、ニコニコしながら寄って来て「PickMeで配車依頼したんでしょ?ここではPickMeは使えないよ」と。

は?何を言ってんの、このおじさん?今ちゃんとアプリの地図上で一台、向かって来てるっての。
とあきれながら無視をして、PickMeのトゥクトゥクを待つ。

しかし、私のPickMeドライバーときたら、駅に来てくれれば良いだけなのに、道に迷っているのか近くをウロウロし続けている様子。待っても待っても、なぜか来ない。
エッラが高原地帯であるとは言え、ここは南国スリランカ。屋根のない炎天下で待ち続けているのは、そろそろキツイ…

頃合いを見計らったかのように、さっきのニコニコ顔のおじさんが「来ないでしょ?俺のトゥクトゥクに乗るしかないよ」と声を掛けてきた。
何だか気に入らなかったものの、配車されたはずのトゥクトゥクは来そうもないので、仕方なくおじさんのトゥクトゥクに乗車することに。
事前に値段交渉をすると、PickMeが配車しようとしている金額よりはちょっと高めになったけど、妥協するしかない。

紅茶畑を縫って宿へ向かう

宿に着いてからも、
なぜアプリ上では配車されたのにドライバーが来なかったんだろう?そしてニコニコおじさんの「ここではPickMeは使えないよ」という発言は何だったんだろう??
と不思議で、宿のオーナーに事の顛末を話してみた。そうしたら驚きの事実が。

なんとエッラでは、PickMe登録をしていないトゥクトゥクドライバーたちが、寄ってたかってPickMe登録済みドライバーの邪魔をしているらしいのだ。だから、私のドライバーは駅のそばまで来ていたのに、それ以上は近寄れなかったのだろうと。

アプリ配車だと当然のことながら一律の料金設定であり、その安心感から利用者も増える。しかしアプリの活用は、利用者もドライバーもスマホなどのタブレットを持っていないと、もちろんできない。
ではタブレットを持っておらず、PickMeに登録できないドライバーたちはどうなるのか?

”PickMeに登録済みのトゥクトゥク” にお客さんはどんどん取られてしまうし、アプリ上で価格の相場もオープンになってしまっているから、観光客にも料金をふっかけにくくなる。つまり、彼らの商売にはダメージしかない。

そんな事情から、とりあえずはPickMeで動いているトゥクトゥクドライバーをみんなで攻撃しているのだそう。「トゥクトゥクの価格安定化を阻止するための自警団」を結成しているような状態なのだ。観光客にとっては悪の自警団(泣)。

スマホは世の中をとてつもなく便利にしているし、私のような女ひとり旅を様々な不便や危険から守ってもくれる。
しかし、スマホのあるなしで「食べていける人」と「食べていけない人」を生むほどの変化が生まれていること知った。

そしてエッラでは、その最新ツールを手に入れて活用しようとする人たちが、結果として同業者から敵視され、不当な扱いを受けているらしい。おそらく他にも同様の事態が発生しているエリアはいくつもあるんだろうな。

みんなが一律にテクノロジーの恩恵を受けていければ、それに越したことはないけれど、過渡期って絶対に格差や摩擦を生むものなのだろうと思う。

爆速でテクノロジーが進化していっている今、ひとつの過渡期が終わるとともにまた新たな過渡期が生まれ続けており、数年後の世界の予測さえつきにくくなっている。もはや、万年、過渡期状態。

社会学者や脳科学者たちが予言する、さまざまな近未来の顛末には好奇心が搔き立てられるけれど、これまでにない柔軟さと不安定さで波打つ世の中に生きているなあ、と感じることもある。

話を戻すと、「とりあえず、みんなに公平にスマホを!」
などと言いたいわけではなくて、スリランカののどかな高原地帯に降り立った途端に、スマホやアプリが人々を激しく翻弄している、という事実に出会ったことをお伝えしたかった。

しかし日本ではおそらくこの認識の変換は得られないだろうと思うので、やっぱり旅って刺激的。

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