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恋愛相談



「私、好きな人がいるの。」

制服のスカートに熱を宿し細い髪の隙間から僕を見つめた。
その流れる目に何を期待しているのか。
なぜ僕なのか、それを聞く口さえも動かそうとせず手の中にあるペンを離した。
あぁまた始まった。終わりのないその話は退屈で
僕の中にとどめることができなかった。

僕は恋愛という言葉が使えない。
「好き」だの「恋」だの口には出せない。
経験がないわけではないが人に話せるほど
器用ではない。
いわば僕は社会的に無力だ。


そんな僕を前に「友達がね」と彼女は淡々と話す。目の前の彼女はまさに咲いたばかりのピンクのチューリップのようだ。柔らかい花弁をそっと守ってあげたくなるような少女だった。
そんな彼女は時に僕を誘惑する。
僕は自分の目の前で制服のボタンをゆっくりとほどかれている気分になった。
その時の彼女が1番女に見えたのを覚えている。

そんな話も一周、二週となれば察しの悪い僕でもわかった。
彼女が欲しているのもは僕の中にあると。


初めて見たのは後ろ姿だった。初めて話したのは前髪越しだった。
だが
僕を頭から爪先まで褒める彼女の目には想像もつかないくらい輝いた僕がいることをみて取れた。
きっと彼女は正直な人なのだろう。

僕に放つ言葉一つひとつが
一人称=「私」になっていた。

僕は片目を閉じた。 みないふりをした。

この僕の手により読み進められるこの夢物語な本を閉じる気はない。

だって僕は無力だから。

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