多様性のリアル、暗黙知
営業担当だった20代の頃、出張先でよく上司と一緒に喫茶店に入った。当時、会社に女性の営業は皆無で、先輩や同僚の営業マンは私を腫れ物のように扱っていた。そんな中、ボクトツで直球タイプの上司は、私を男性社員と同じように厳しく育てようと決めて接してくれたので有り難かった。オフィスでは営業・マーケティングスキルをOJTで学び、出張中には、上司が話してくれる経験や仕事のコツや知識を自然に吸収することができた。
暗黙知(先輩の経験基づく仕事のコツや知識)を伝授してもらうことは、仕事のスキルを上げるために必要だ。以前は、喫茶店や飲み会などのボーイズクラブで対面で学ぶしかなかったが、最近は、暗黙知を形式知化する取り組み「ナレッジマネジメント」が行うのがトレンドになっている。ベテラン社員の退職により事業を安定的に継続できなくなるというリスクや、若い世代は「先輩社員の背中を見て覚える」と言った昔ながらの非効率な教育方法に疑問を持つ傾向も強いため、会社としても取り組むインセンティブが働くようになったからだ。自身が務める会社が、「ナレッジマネジメント」に取り組んでいるかどうか確認してほしい。取り組んでいなければ、昔のように喫茶店や飲み会に顔を出し、先輩から聞き出すしかない。
知識は、同じ企業の内部においてより容易に移転できる組織的近接性という、行動経済学の概念がある。また、組織によって形成されたルーチンや慣行が、知識の移転学習を促すとみなされる制度的近接性は、文化的慣習、価値の共有、共通言語などによって規定される。地理的近接性は、現代社会においては直線距離よりコネクティビティーかもしれないが、同じ企業内であっても、別の場所に位置する本社と子会社の距離は存在し、それぞれに文化を形成していく。(水野、立見、2007)
既存の慣行や飲み会・ゴルフなどの集まりによらない知識の移転は、自然には起こり得ない。変革はデザインしアクションしなくては起こり得ないのだ。ここに日本企業の多様性が進まない理由がある。男性から男性への知識の移転を、男性から多様な人たちへと流れを変えるためには、グランドデザインとアクションが必要だ。または、慣行としがらみのない全く新しいビジネスエリアで、暗黙知を形成する側に回るかの、どちらかだ。
水野真彦、立見淳哉(2007):認知的近接性、イノベーション、産業集積の多様化、https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DBh0300301.pdf
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