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AIを使った囲碁学習の注意点


【要約】

  • AIが示す手は、AIの強さを前提とした最善手であり、必ずしも学習者に適した手ではない

  • 棋風や実力によって、AIの示す手が効果的に使えるかどうかが変わってくる

  • プロ棋士による指導の価値は、学習者の個性に合わせた適切なアドバイスができる点で依然として高い

  • 初級者がAIの手をそのまま真似ることは逆効果になる可能性がある

  • 現時点では、AIツールは個人に最適化されたアドバイスを提供できる段階には至っていない

【本文】

この放送は、プロ棋士40年、囲碁サロンと
子供囲碁道場を運営している三村智保が
囲碁の情報をサクッとお伝えする番組です。

AIの登場により囲碁の世界は大きく
変わりました。2016年から約8年が経ち、
私は初期の頃からAIを使った学習を
続けてきました。

多くの棋士が試行錯誤をして、どうやって
AIを理解し、取り入れられるか苦心して
います。今はアマチュアの皆さんも
AIを使う方が多いと思います。

これから囲碁を強くなりたい子供たちが、
どのようにAIを使えば力を伸ばせるのか。
指導者の目から私はいつもこれを
考えています。

まず重要なのは、AIが示す手というのは、
AIが打った時に一番得になる良い手
だということです。

皆さんも「これは無理だな」と思う時が
あるでしょう。AIがこの手が一番いいと
示しても、意味が分からなかったり、
使いこなせるか不安になったりします。
これはプロの私たちも同じです。

AIの示す手は、AIの強さがあって
初めて使いこなせる手なのです。

例えばプロレスや格闘技で例えると、
筋肉ムキムキで身長2メートルぐらいある人が
使うと有利になる技があります。
その技を6歳の子供が使っても
全く有利にはなりません。

AIのパワーと私たちのパワーには
それくらいの差があります。先の読みの
広さと深さによって、打つべき手、
勝ちやすい手は変わってきます。

その人の棋風によって使いこなせる
パターンと使いこなせないパターンが
あります。模様を張って攻めるのが
好きなタイプの人が、地を取って
しのぐタイプの手を勧められても、
その人の得意分野ではありません。

プロ棋士は毎日AIを使って学習を
していますから、自分とAIの示す手との
ギャップにも慣れています。
何を取り入れ、何を取り入れないか、
その取捨選択もできるようになって
きています。

しかし、初段や5段の方など、これから
AIを使って学びたいという方は
注意が必要です。どの手を取り入れる
べきか、判断を誤ると全くマイナスに
なってしまうこともあります。

一番良いのは、自分より強い人が
それを解釈して、「これはあなたには
合わないよ」「これがお勧めだよ」と
アドバイスしてくれることです。

そのため、現在でもプロ棋士に習う
価値は十分にあります。私たちは
あなたの棋風に合わせたアドバイスを
することができます。

AIだけを使って独学で囲碁を学ぶ方は、
自分に合っているかどうか、使いこなせる
かどうかを十分に考えてください。

分かりやすい定石であれば、AIの示す手を
覚えて使うことは問題ありませんが、
難しい読みを必要とする場面では
注意が必要です。

例えば、模様を張って序盤に低く地を取り、
相手の模様に後から入って生きる手は、
7段以上の強さがないと使いこなせません。
初段の人がこれを試みると、殺されて
負けてしまう可能性が高いのです。

これはAlphaGo ZeroとAlphaGo Master
の対局でも見られた違いです。
人間の棋譜から学習したMasterは
模様を張る勢力重視、一方Zero
は実利主義でしのぎが非常に
うまかったのです。

この違いは趙治勲先生と武宮先生の
対局のような、模様としのぎの碁に
似ています。しかし、アマ初段の人が
その打ち方をそのまま真似すると、
全く勝てなくなってしまうでしょう。

自分に合った手を取り入れることは
簡単ではありません。AIを使った
学習方法については、まだ結論は
出ていません。

将来的には、AIツールも進歩して、
個人に合わせたアドバイスをして
くれるようになるかもしれません。
自分の棋譜を100枚程度入力すれば、
それを解釈して最適なアドバイスを
提供するようなアプリが登場する
可能性もあります。

しかし現時点では、そこまでの
機能を持ったツールの登場は
まだ先になりそうです。


この記事は「三村九段のミム囲碁ラジオ」
第73回の書き起こしです。
音声での視聴はこちら


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