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金山が世界遺産になるとき

コカリナコンサート 

 佐渡・相川に「北沢選鉱場跡」と呼ばれている場所がある。佐渡金山がにぎわっていた時代の選鉱・精錬施設の跡だ。朽ちたコンクリートの構造物がかつての面影をしのばせている。

 その構造物の手前は広い草っぱらになっている。2008年10月15日、その草っぱらを会場に、コカリナ奏者・黒坂黒太郎さん(妻の矢口周美(かねみ)さんによる歌と伴奏)のコンサートがもたれたので出かけてきた。

 コンクリートの廃墟を背景にして仮設のステージが組まれていた。客が地面に座れるようにステージの前には大きなブルーシートが敷かれ、その外側に折りたたみ椅子が並べられていた。私と妻は早めに会場に着いたが、すでにブルーシートも折りたたみ椅子も夜露にぬれていた。夜の野外コンサートにはすでに遅い季節になっていた。

 コカリナというのは木でできたオカリナ。ハンガリーの民族楽器だそうだ。私は初めてその音色を聞いた。黒坂さんは自分で楽器を作る。年間百二十近いステージをこなしながら、近年は中越地震被災地の支援活動もしてこられた。

被爆樹

 コンサートの中で黒坂さんは被爆樹から作ったコカリナを紹介された。広島で被爆し、高校生が保存していた被爆樹から、依頼を受けて作成したという。

 被爆樹というものの存在を知らされたのも私にとっては初めてだ。ヒロシマの原爆の証人であるコカリナ――小さな楽器から「あなたは真剣に生きているか」という声が聞こえてくるように思える。もし私が演奏者だとしたら、そのコカリナを奏でる勇気があるだろうか。

 そのコカリナで黒坂さんは「鳥の歌」を演奏された。夜の寒さをこらえながら聴衆はその音に聴きいった。

世界遺産

 「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」二度の世界大戦の反省にたってユネスコ憲章は宣言した。一方、佐渡金山とその周辺地域をユネスコの世界遺産に登録しようという運動が佐渡で進められている。世界遺産というのは「人類共通の宝物。」人類が共通の宝物を本当に大切にするなら世界から戦争はなくなる。

 広島の原爆ドームは1996年に世界遺産に登録された。では人類はヒロシマから十分に学び、ヒロシマは人類共通の体験になっただろうか。ヒロシマを人類共通の体験としてゆくことができるかどうかは、今を生きている私たちの不断の努力にかかっている、と私は思う。

そして佐渡

 日本が朝鮮半島を植民地支配した40年の間に、佐渡金山で朝鮮半島出身の二千人近い労働者たちが働いたという。昨今、年金記録のことでマスコミがにぎわったが、あの労働者たちの年金はどうなっているのだろうか。

 金山の歴史を振り返るとき、金山が人類共通の宝物となるには、朝鮮半島の人々に対しての償いに向けての働きかけを、どれほど佐渡島民が、誠実に進めてゆけるか、ということに関係しているように思う。

 もし、そのことが可能なら、やがて、佐渡金山が真の意味での人類共通の宝物、世界遺産となってゆくにちがいない。

 黒坂さんの「鳥の歌」を聴きながらカザルスの言葉を思い起こす。「私の生まれ故郷カタロニアの鳥はピース、ピース(平和、平和)と鳴くのです。」月の光に照らし出されるコンクリートの壁に、原爆を記憶するコカリナの音がこだましていた。

(『佐渡だより』51号、2009年3月15日発行)

参考文献

広瀬貞三「佐渡鉱山と朝鮮人労働者(1939~1945)」、新潟国際情報大学 情報文化学部 紀要



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