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長男と大学受験の謎ルールを変えた話

昨年の暮れ、長男が大学のAO入試に合格し、早々に進路を決めてしまった。滑り止めから何から全滅して、3月も終わろうかという頃になって国立大学の後期日程で奇跡的に合格をもぎとった自分から見たら、あまりにも羨ましく腹立たしい進路の決定だったが、まあめでたいことだった。

なにせ子供の大学入試などやったことがないし、しかも長男はいわゆる学力全振りの一般入試ではまるで歯が立ちそうもない成績であったので、AO入試という(AOってなんの略?)ところから聞いたこともない制度のリサーチから始めたものだから、それはもうなんにもわからないところからのスタートであった。

しかも今年はコロナ禍で、試験の日程や方式も一日ごとに新しい情報が公式にアップされるような状態で、もう大学受験してるのか大学のWHATSNEWをなぞっているのかわからないような日々だった。(実際に「予定していた2次試験をやめて1次試験だけで合否を決めまーすてへ」みたいなことまで起きた)

そんななかで、ちょっとした入試のブレイクスルーに直面したので、それを記しておこうと思う。

「詳しくは高校の方針を確認してください」

今は進学塾で懇切丁寧に大学入試対策をしてくれる。

そこで、一通りの今年の傾向、勝利のための条件などを教えてくれたあとに、毎回必ず最後にこう付け加えられる。


「詳しくは、通っている高校の方針を確認してください」


つまりはこういうことだ。

大学の出願条件はもちろん大学が決めている。

しかし、その大学の出願のために必要な書類(調査書等)を用意する高校には、その学校ごとに「大学出願のポリシー」みたいなものがあり、それに沿った形でないと書類を用意してくれないから、進みたい大学が決まってきたら「そこにうちの高校は出願させてくれるか、確認してね」ということなのだ。

この点は、ぼくも塾の先生に質問した。

「なんで、大学の出願要件通りに出願できないなんてことが起きるんですか?」

「いやあ、そういう事になっちゃってるんですよね…」

塾の先生も苦笑するばっかりだった。

で、実際にぼくら家族はその問題に直面することになる。


併願の条件

大学入試は、出願のために満たす条件が決まっている。

もちろん大学ごとにその記述は大学の数だけあるが、今回受験しようとしていた割に志望度が高い大学(A、Bとする)のAO入試(総合型選抜、とよぶ)は、だいたいこんな記述があった。

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・本校を第一志望とすること。
・選考の辞退はできる。
・合格したら、入学を確約すること。

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あと、これらの大学とは違い、

「うちは、合格しても手続きはずっと先です(だから、その間に別の大学に行ってもらってもそれはそれでいいです)」

と定められた、Pという大学も受験するつもりでいた(これがいわゆる「併願OK」としている大学の記述)。


これをぼくらはこう読み解いた。

・複数のAO入試を併願していても、合格が複数にならないようにすればよく、選考の途中で(自分の中の)第一志望に合格すれば、それ以外の大学を辞退すれば良い

これがはっきりしたので、あとは受験と合格発表の日程をカレンダーに落とし込み「複数の合格を手にする」ことがないように、

ここが合格したらこっちはその時点で辞退する、ここは合格しても手続きしないでおいとく…などなど、細かい予定を立てていった。

受験校の内訳はこう。

※志望順:①A ②B ③P

※A、B…「合格したら入学を確約」 

 P…「併願可」

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描いたスケジュールは、時系列順にこんな感じ。

P大学 合格発表

A大学 合格発表

(A合格していたら、Bは辞退(受験しない)、Pも辞退(手続しない))

   B大学 入試

   A大学 入学手続

   B大学 合格発表

   (B合格していたら、Pは辞退(手続きしない))

       P大学 入学手続


で、これらのイメージが固まったので必要な調査書を学校に依頼したら、こんな答えが返ってきた。


「うちの学校では、合格したら入学を確約することになっている大学の受験は1校までと決まっている」


つまり、AとBの両方に出願するのは、うちの高校は認めませんよ、というのだ。

高校の説明はこうだ。

・辞退などをルール通りに行い、合格後入学を確約する大学への合格を1校のみに調整することについて、生徒に確約させることができない。

・万が一、合格ご入学を確約する大学に入学しないという事態が発生した場合、高校の体外的な評判が下がり、次年度以降の受験生に影響が出る

つまりこれは「高校生なんて信用ならん」と言っているわけだ。


相手が大切にしていることに訴えかける

とにかく親の方は、こんなしがらみで子どもの可能性を潰すわけには行かないと思っていたから、話し合って戦略を考えることにした。これから受験しようとしている大学が認めている手続を高校が認めないのは、意味がないと思ったからだ。

で、思いついたのが「相手が大切にしていることに訴えかける」ということだった。

高校に伝える交渉シナリオはこうだ。

・高校は、できるだけ多く優秀な大学への進学実績を上げたいのではないのではないのか。

・一人の生徒の志願校を削ることになるあなた達のルールは、あなた達高校にとってもマイナスになるだけではないのか。


実はぼくは、疑問を持ったルールに対峙するときに、よくこの手法を使う。

手本は、2004年サッカーアジアカップで、宮本恒靖がPKのサイド変更をレフェリーに申し出た場面の述懐だ。

記事を参考にしてもらえばわかると思うが、宮本はレフェリーにこう進言している。

「FIFAはフェアプレーを推奨している。この芝の状態は、推奨しているフェアな状態ではないのではないか」


この主張を紙にしたためて、加えて

「(確約ができないとか思ってるんだったら)何か一筆かけというなら書きますよ」

と付け足して、子どもに持たせようということになった。


でも、できることはとりあえずやったな、と胸をなでおろす暇もなく、ここから親子の不毛なバトルが始まることになる。



「いいよもう…そんなの”モンペ”じゃん」                         

前述の通り、親は最初からこの高校の姿勢に対して、異議を唱えて改善を促すつもりでいた。

ところが、当の受験する本人のほうが、そのやりとりに嫌気が差したようで「もういいよ~出願しなきゃいいんだろ」と言い出した。

まあ「そりゃあ、高校生男子なんだし、めんどくさいことはやりたくないよね。かっこよくきめたいよね」という子どもの気持ちは理解できた。

ただぼくは、そのての見栄にさほど意味はないことを知っていたし、折角のいい経験をしているとも思ったので、ここから子どもへの声かけのアプローチを少し変えることになる。


社会をちょっと変える経験が必要な理由

子どもは成長していくにつれ、この社会にいかに「謎ルール」があるかを知っていくものだと思う。

そのルールの多くは、今となってはなぜ存在するのか誰も説明できなかったり、関わる人たちが全員思考停止しているだけ、という事実も知ることになる。

今までルールの存在を疑うことなどなかったところから、少しずつその自我によって気づき始めるわけだ。

そして、ほんの少し周りの力を借りたり、別な事例を調べて見せてあげるだけで、閉ざされる必要もない可能性をちゃんと手にすることができることを、どこかで知っておいたほうがいいのだ。

だから、むくれる長男に「いいから(この手紙を)持っていけ。で、自分の選択肢を最大限に広げられるように、できることをしようぜ」と、よく焼けたカルビを取ってあげながら説いた、というわけだ。


結局ぼくらの主張は通り(校長を巻き込んで臨時の職員会議まで開くことになったらしい…それは申し訳なかった)、当初シナリオ通りに合格を手にすることになるという最高の結果が出たわけだが、個人的には、合格できたことよりも、その前のプロセスから今後の生き方のヒントをちょっとでも得ていてくれたらな、と思う。


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