斎藤美奈子『挑発する少女小説』河出新書
斎藤さんが少女小説を読む姿はなんとなく想像しにくいが、でも少女時代には読んでいたそうです。好きだった少女小説は『若草物語』と『あしながおじさん』だったとのこと。(わたしは『赤毛のアン』が一番だったかな。訊かれてないけど。)
斎藤美奈子といえばわたしにとっては『妊娠小説』で、男性作家が作品内で妊娠を扱うときのいい加減さをバサバサ切って捨てる痛快さがたまらなかったが、この『挑発する少女小説』は予想外にソフトだった。対象が女だからかな。そして文体もどことなく少女小説じみて、想定読者は成人ではなく少女なのかなと思ったぐらいだ。
とはいえ、『アルプスの少女ハイジ』で歩けるようになったクララについて、クララは歩けるようにならなければいけないのか、車いすのままではダメなのかという疑問が出たり、『大草原の小さな家』で姉メアリ―が視力を失っても大学に進学して自立していく様子に注目したり、今日的な指摘がいろいろあって、なるほどと思った。ケストナーの『二人のロッテ』は親にふりまわされない、子どもの人権を描いているという主張だ。(作者ケストナーには愛人がたくさんいたという話は驚いた。)『アルプスの少女ハイジ』がフランクフルトに出たのは出稼ぎのようなもの。『赤毛のアン』は「生存をかけた就活小説」だったとのこと。そのほか、大人の男はプロットから排除される、両親がいない孤児が多い、など少女小説の基本ルールの解説も面白かった。
ただ、なんとなく不満が残るんだなぁ...。少年小説を扱った方が斎藤さんの切っ先がもっと鋭くなって面白くなったんじゃないだろうか。
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