こころに傷を負った時、どう立ち直る? 臨床心理士が教える「回復への3ステップ」
今回は、みなみ先生(臨床心理士/公認心理師)に「回復のステップ、回復の課題、回復によってどう変わるか」について伺ってみました。
前回の記事では、「トラウマや心の傷の捉え方」についてお話をしました。
今回の後編では「回復のためのステップや変化」についてお話をしていこうと思います。
トラウマや心の傷からの回復には、今現在の身の安全や心の安心を確保する必要があります。
これを読んでいるあなたが、もしも性暴力や同意のない性交に遭った経験があったり再び被害に遭いそうな不安を感じている場合は、まずはあなたの安心・安全の確保をサポートをしてくれる人や機関と繋がることが大切です。*こちらの記事をご覧ください
あまり知られていない「回復への3ステップ」
今から説明をするものは、トラウマの回復の3ステップと言われているものです。あなたがもし、辛い体験から立ち直ろうとしている途中の時は、以下の3ステップを指標にされてみてください。
<ステップ 1> 安全・安心の確保
まずは今現在の安全・安心を確保する必要があります。被害による怪我や体調不良がある場合には、その治療も必要です。また、精神的に混乱しているかもしれません。
約40%の人が、被害直後に「痛みや感情を感じない」「妙に冷静だった」という“ちぐはぐな状態”を体験しています。そのときの状態によっては、回復の段階を踏むことを焦らず、まずは心身ともに落ち着けるようなサポートを受けてみましょう。
<ステップ 2> 再体験
心身ともに安定した生活を取り戻してからは、安心できる場所で心の傷について語ることで、「まだ不安はあるが、自分の体験や感じた気持ちを語り、受け止めてもらい、安心を感じられた」という体験を積み重ねていきます。友人や家族が対応できる場合もありますが、専門家を利用することもあります。これまでフタをしてきた感情を感じるようになるため、一時的な苦しさが生じることもあります。
<ステップ 3> 社会的再結合
受け止めてくれる他者や社会との信頼を回復して、孤立していた気持ちが繋がれるようになっていきます。生活や自分自身について自信を持てるようになり、信頼すべき相手を信頼し、そうでない人は信頼しない、と選べる力を持てるようになります。
上記の3ステップの他にも、被害に遭ったり、自分の尊厳を奪われる体験をすると、心の辛さだけでなく、頭が働かない・身体が拒否する…といった症状があらわれることもあります。そんな時は無理をせず、その時々の状態に合う対処をしましょう。
「トラウマの回復」とはなんなんだろう。
トラウマの臨床・研究者であるベッセル博士は、回復のための課題をこう述べています。
"自分の状態に圧倒されずに、自分が知っていることを知り、感じているものを感じるようになれること"
つまりトラウマの回復とは、心の傷の影響に振り回されるのではなく、「自分の主体が自分になる」ということです。
ベッセル博士は「それらは決まった方法や決まった順序で達成されるものではなく、様々な道を辿るもの」としています。あなたが自分の方法でトラウマを克服したり、専門機関を頼ったとしても、ひとりひとり「回復の道すじ」は違うのです。
「世界が色づいて見える」回復のその後
実際に「回復した」もしくは「回復の途中にある」と感じている方々へのインタビュー研究からは、
・「自分は悪くなかった」ことに気がついた。
・「被害によって人生が損なわれたわけではない、と感じられるようになった」
といった声がありました。
また、「自尊心」「主体性」「自分自身をコントロールできる感覚」を回復したり、「人を信用して関係性が築けるようになった」といった実感も見られました。
そして、回復を実感する時、
「世界が色づいて見えた」「世界の景色が変わって見えた」
「心が軽くなり、感情を感じるようになった」
という言う方もいらっしゃいました。
例えこころに深い傷を負ったとしても、私たちは絶望しなくて良いのです。回復を通じて、多くの人たちが自分の人生を認められるように変化しています。
おわりに
皆さんの知らないところで、回復を助けるための様々な研究が行われ、助けになるための準備をしている専門家がいます。
専門家は来談した方の状態を見極め、来談した方のご希望をうかがいながら、その時点で必要な支援を考えます。気になる方は是非、専門機関にお問い合わせください。
回復の道は人それぞれで、それは真っ直ぐにステップを上がっていくだけではなく、時に立ち止まったり、回り道をしたり、いろいろな経過をたどるものです。
現在、性暴力や同意のない性交の被害に遭い、心や身体のバランスを保てなくなっている方、世界が色を失くしているように感じている方にも、「心が軽くなる」「世界が色づいて見える」実感が訪れる時がくるかもしれません。
「自分の状態がわからない」「自分にカウンセリングが必要かわからない」という場合、その気持ちも一緒にご相談していただくことができます。ご検討いただければ幸いです。
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参考文献:「赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア」白川美也子著
「性暴力被害の実際 ー被害はどのように起き,どう回復するのかー」齋藤梓・大竹裕子編著
「身体はトラウマを記録するー脳・心・体のつながりと回復のための手法ー」ベッセル・ヴァン・デア・コーク著 柴田裕之訳
「性暴力被害者への支援ー臨床実践の現場からー」小西聖子・上田鼓編
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2021/4/29
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