43歳、航空業界から映像フリーランスへ
才能もセンスもない。
それでも映像業界でフリーランスを目指せるのだろうか。
そんな不安を抱いている駆け出しクリエイターさんは多いのではないでしょうか。
しかし、その問いを「それは思い込みかもしれません」とバッサリ切ってくれたのが、岡本梨奈さん(以下、Rinaさん)。
Rinaさんはmimosa1期キャリアコース卒業後、mimosaアシスタントを経て、この春フリーランスデビューを果たしました。
そんな彼女とお話ししていると、どうやら彼女自身はそんなに自信がないみたい。でも、すごく楽しそう。
今回は、Rinaさんの未経験からフリーランスになるまでの足取りを追いながら、動画制作を仕事にする秘訣に迫りました。
副業を経て、フリーランスへ
-Rinaさん、まずはフリーランスデビューおめでとうございます!
ありがとうございます。でも、実は…会社を退職したのがこの春で、1年程前から兼業制度を利用し、副業として動画制作を始めていました。と言うのも、私は航空会社に勤めていましたが、コロナが発生し出勤日が減りました。その間、独学で動画編集を学び、副業としてYouTubeチャンネルの動画編集を担当。週に2本のペースで納品していましたね。
ただ、やっぱりスキルの限界を感じ、mimosa1期キャリアコースに進みました。今までスルーしてきたPremiere Proの基礎からAfter Effectsの新しいスキル、また動画のクオリティを上げるポイント、SNSの運用やブランディングについてを学びました。
今まで「動画を編集すること」にしか視野が向いていませんでしたが、ドキュメンタリーという新しいジャンルに出会い、撮影やディレクションの面白さを知りました。単純にスキルを伸ばしたいという気持ち以上に、もっと映像の深い部分に関わっていきたいという気持ちが芽生えましたね。
売上20万円の壁
-mimosaキャリアコース卒業後、仕事はどのように変化しましたか?
「映像の分野で働きたい」と強く思う一方で、強い自信はありませんでした。ちょうどその頃、講師のあさひさんに個別相談できる機会があり、フリーランスとして食べていくことを相談しました。
その中で、独立するとなると「生活費や保険などを逆算して、月20万円は売上として欲しいよね」という話が上がり、mimosaに入る前の副収入が月7万円前後だったのでヤバいなと。動画の楽しさにのめり込む一方で、お仕事をつくっていく厳しさも痛感しました。
mimosa初のアシスタントへ
-キャリアコース卒業後はどのように過ごされたのですか?
とにかく「もっとスキルアップしたい」という気持ちが強かったので、mimosaのイベントやアシスタント募集があると、片っ端から参加しました。
ミュージカルMVティザー制作
mimosa代表のしおりさんが、ブロードウェイ俳優である高橋リーザさんと共同で監督を務めた『I Choose Joy』というMVのインスタ用リールとティザーをmimosaの卒業生で制作しました。
私はティザー制作を担当。ミュージカルや映画の予告編をたくさん観て構成を考えたり。リーザさんにオンラインでインタビューをさせていただいたり。もともとブロードウェイミュージカルが大好きで、リーザさんの舞台も何度か観ていたので「映像 x 好き x 得意(英語)」が初めて実現した作品でした。
-Rinaさんといえば、mimosa初のアシスタントで、お仕事発注率はナンバーワンと伺っています。
ありがたいことに、11月からmimosaのアシスタントとして業務契約させていただきました。
ドキュメンタリー「リリナージュ×夢プロジェクト」
しおりさんが監督をつとめる「リリナージュ x 夢プロジェクト」 というドキュメンタリー作品の編集アシスタントをしました。
選抜されたメンバー6名は毎日自撮りで動画を撮影していただいたのですが、私はその中の2名の担当として、動画の文字起こしと抜き作業をしました。抜き作業とは、ドキュメンタリーに盛り込んだ方がよいと思われる部分をピックアップしスプレッドシートに記入。そして動画をまとめる作業です。
途中、北海道のロケでは撮影もさせていただきました。ただ、自分の担当だった方の発表で号泣してしまって。泣きながら撮影するのはプロとしては失格なのでは…と恥ずかしく思っていたんですが、カメラマンの方に「心が動いた瞬間だからそれでいい。自分が監督になった時には、そういう部分を軸にして作品を作っていいんですよ。」とアドバイスをいただいて。作品づくりの芯となる考え方に触れたような気がしました。
-その後、Rinaさんはドキュメンタリーの予告編を担当されていますよね。
6名×半年間の膨大な素材を確認し、重要なところをピックアップ。それを組み立ててドキュメンタリー作品へ導く作品に仕上げなければなりません。
もう、3歳児のように声を上げて泣きました。どこから編集していいかわからず途方に暮れてしまって。
でも、「ここを突破できれば、どんな作品も作っていけるはず!」と自分を奮い立たせて。しおりさん、あさひさん、一緒にプロジェクトに携わったmimosa同期にたくさんアドバイスもらい無事に完成しました。
-これをきっかけに、リリナージュさんのサロン向けマッサージ動画も撮影されたとか。
積極的に現場に入っていたことが評価され、アシスタントとしてではなく一人のビデオグラファーとしてお仕事をいただく機会をいただきました。この時初めて1人で撮影〜編集を担当。これまでとは全く緊張感が違いました。
2カメ体制、ピンマイク使用、俯瞰撮影を1人でやるのは初めての経験でしたが、事前にmimosaの講師陣にレクチャーを受け撮影に臨みました。完成した動画はクライアントさんにとても喜んでいただき、本当にうれしかったです。
日比谷フェスティバル〜15本のMV撮影〜
-日比谷フェスティバル「NEXTアーティスト」のMV撮影は、アシスタントとしての集大成のようでしたね
MV撮影前から、日比谷フェスティバルのオンラインミーティングに参加しました。宮本亞門さんをはじめ、多くの芸能人の方が参加されており、作品作りとはまた別の緊張感がありました。
まず、オンラインMTGのダイジェスト動画の編集を担当しました。抜き作業はリリナージュの経験もありスムーズにできました。しかし編集でつまずき、あさひさんに助けていただきました。この頃、まだまだ「mimosaの生徒」という感覚が自分の中から抜けてなかったんですよね。1人のクリエイターとして、プロの自覚を持たなければと思い直しました。
-MVの撮影は、アシスタントリーダーとして2週間で15現場もされたとか。
生の現場は学ぶことばかりで。例えば、監督であるしおりさんの表現方法のひき出しの多さと言ったら驚きの連続で。アーティストの一人の村松稔之さんの撮影では、画廊の狭い空間の中で表現方法が限られると思いきや、照明の明暗を巧みに使用したり。
一方、ピアニスト・松尾優さんは、何もない広いオフィスフロアでの撮影で。そんな心配をよそに、窓から差し込む光を利用した撮影が始まると、アーティストさんもどんどん盛り上がって演奏してくださって。同じ場所で撮影しても、ディレクターによってここまで作品が変わるのかということを目の当たりにしました。
また、15現場すべてのメインカメラを担当したあさひさん。ディレクターに撮り方の提案をどんどんしていたり。一番体力の限界を感じていたはずなのに、帰宅後もパソコンと睨めっこしていたり。プロとしての仕事ぶりを間近で見て、こんなふうに自分も頑張らないとなって。
-ダンスのMVの編集もされていましたよね。
そうそう、当初私は編集には携わらない予定でした。しかし、ある晩しおりさんが「一本編集してみる?」って声をかけてくださって。アシスタント経験の集大成としてこの大役を任されたと感じ、少しでも実力を認めてもらえたような嬉しさが込み上げました。
-インサート映像が重なり合う表現から、かのけんさんらしさを感じました。
このような映像が重なる表現はおかしくないのかな?なんて初めは迷ったんですが、ピアニスト・石井琢磨さんのMVで重なる表現が使われていて、自信を持ってこの表現ができました。
また、かのけんさん自身がK-POP好きで、「ダンスにもその要素が盛り込まれている」と、ダンスインストラクターをしているmimosa同期にアドバイスをもらいました。そこで、私もK-POPアイドルのMVを見まくり、特にアップテンポの部分の編集はそれらを参考にしましたね。
稼ぐより大切なこと
-アシスタント卒業後、フリーランスになったRinaさん。なぜ、大好きだった航空業界を去る決断ができたのですか。
1年間の休職を経て、最後はフリーになる決断をしました。「目の前の人の役に立ちたい」という思いを天秤にかけると、よりクリエイターの方が実現できると感じて。ただ、航空業界で働いていることは誇りだったし、本当に大好きな職場だったのでそれだけは心残りでした。
アシスタント業務のおかげで売上目標は達成しましたが、まだそれだけで食べていく自信は正直ありません。もちろん稼いでいくことも大切ですが、それ以上に「動画制作を通して、大切なメッセージを伝えることは尊い」ということを忘れずに、これからのクリエイター人生を歩みたいです。
自分を生かす「楽しい」という気持ち
-ここまでインタビューをしていて「ものすごく努力されたんだろうな」と思う一方で、「楽しい」というワードを連発していて。本当に「楽しい!」という気持ちだけで、ここまでやってこれるものですか?
う〜ん、努力というか…楽しくしている自分が、一番自分らしいというか。私は一生懸命やりすぎると、それだけしか見えなくなって、変に緊張したり、萎縮しちゃう癖があって。
-確かに、リラックスした状態の方が、その人自身のパフォーマンスが上がるとも言われていますよね。
かつて働いていた航空会社は仕事柄、ミスの許されない緊張感がありました。でも、業務は過酷だけど、職場のみんなで「頑張ろう!」と、楽しく支え合いながらやっていく雰囲気のおかげで、その仕事が大好きになりました。
また、Celebrate Asian Joyでリーザさんを調べる中で「一生懸命やり過ぎていた時はオーディションに受からなかったけど、1ヵ月リフレッシュ休暇をとったら、大型ミュージカルのオーディションに受かった」と言うのを読み、あ、やっぱりそれでいいんだと思えて。
だから、私はこれからも「楽しい」という気持ちに素直でいたいし、壁にぶつかったら「どうやったら楽しんで乗り越えられるか」を考えてステップアップしていきたいですね。
「悲観は気分、楽観は意思」という言葉があるように、彼女の目の前のことを楽しめる才能は、今までの人生経験で培った努力の証だと感じました。
きっと冒頭で「才能やセンスがなくても、映像フリーランスになれる」と言い切った背景には、彼女が見てきたプロの現場で、全員が努力して作品作りに励む姿が脳裏に焼き付いていたからでしょう。つまり、それらは後天的に努力でどうにでもなるということ。
ただ、彼女自身が「努力している」とは微塵も思っていないところがまた、彼女の人の良さであり、努力は夢中に敵わない姿そのものでした。
【取材・文=渡邉茜(mimosa2期生)】
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