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Day3 まな板の鯉になる!(前編)

患者経験から考える第4回。
ある地方都市のマラソン大会に参加する途中で、転んで足首を骨折。
救急車で運ばれた病院に入院して手術を受けることになりました。その続きです。

まな板に乗る準備

前日の21時から絶食。緊張で眠れないかと思いきや、ぐっすり眠れました。怪我する前日までの慢性睡眠不足と疲労感を一気に取り戻すかのような、完璧な睡眠でした。

朝の検温で微熱ありでしたが、主治医の回診で手術は決行に。食事もないので、朝から手術の準備をしていきます。

手術衣(脇にスナップがついていて、着脱がしやすい)に着替え、爪を切り、時計や指輪を外し、手術する足にペンで◯印を付け、反対の足には血栓予防のための着圧靴下を履いたりと、ちょこちょこと細かい準備があります。ひとつひとつ進める度に、いよいよ・・と実感が湧いてきます。

面会はスマホ越し

実は、前日(怪我の翌日)に、家族がパソコンなど仕事道具を持って来てくれました。この病院は面会禁止。仕方なく家族とはスマホの画面越しでやりとり。すぐそこに存在があるのに、会えないもどかしさったらないですね。

家族が持ってきてくれた帆布製の手提げカバンが、看護師さんの手で運ばれて目の前に差し出された時、ふわっと家の匂いが漂った気がしました。

次の瞬間、懐かしさと嬉しさがないまぜになった感情がぶわっと溢れ出るのを感じました。入院して初めて生の感情に触れた気がして、「あぁ私、緊張してたんだ」と、ようやく自分の感情を自覚しました。

看護師さんに手術の時間に家族が来るか聞かれて、「昨日来てくれたので、今日は来ない」と伝えました。私は、1人で手術室へ向かうことになりました。

胃袋は空っぽ。でも…

13時からは絶飲になり、胃袋を空っぽにします。ところで、変な話、この地に来てから、お通じがなかったんです。日曜日の朝、怪我をしてすぐに牽引でベッドに括りつけられてしまったので、トイレに行けず。

気持ち悪さを抱えつつも、流石にベッド上では用を足すことができず、そのまま手術に突入することに。担当看護師さんに相談すると、「下剤を飲んでオペの最中に漏れるよりはいいわよ」とのこと。なるほど。

いざ、出陣!

少し押し気味で、手術室から呼ばれたとのことで、いざ出陣。ベッドのままで移動します。「がんばろねー」「大丈夫やからね」と病棟看護師に声をかけてもらって手術室へ移動。廊下を通過しながら、ドラマだとここで家族に見送られるのよね、とか思いながら、天井の電気をぼんやり眺めていました。手術室の入口で看護師が交代。

まず、自分で名前を言って本人確認。看護師さんに「緊張しますよね」「手術は初めてですか」と話しかけられて、答えようと声を発した瞬間に感情の蓋が取れて、声が震えて涙が…。自分でもびっくり。「アウェイの場所で入院して、ひとりで心細くて。大丈夫ってわかってるんですけど」と言うのが精一杯でした。

でも、声に出すことで「あぁ、私は心細かったし、不安だったんだね。」と自分の感情を理解できたし、手術室のスタッフは、私をサポートしてくれる味方なんだと、頭ではなく感情で理解できて、少しリラックスしました。

ここでもし、声をかけられることなく無言で手術の準備が始まったり、看護師同士で仕事の話をしていたりしたら、おそらく私は蚊帳の外に置かれた気持ちになって、ますます緊張と恐怖心が強くなっただろうな・・と思うのです。

「まな板の鯉」の出来上がり

手術室は室温が低くて寒いんです。病棟から運ばれてきたベッドから、4人掛かりで手術台に移動。患者は薄着なので、あっという間に寒さで震えが出てきました。手術室の看護師は、テキパキと準備作業をしながら、常に言葉でいま何をしようとしているのか説明をしてくれます。

「手を動かしますよー」「背中を固定しますね」とか。なので、何をされるかわからない不安はなかったかな。寒さ対策に、暖かくて軽いカバーを掛けてくれました。これも隔世の感。

主治医のA先生と補助の医師が入室。聞き慣れた声がするだけでも安心します。右側を上にして、手足や胴体をぐいぐい固定されながら、私は内心、「ここの看護師さんは、手術室が職場。毎日違う患者が次々運ばれてくるけど、患者の多くは手術は初体験でスタッフとも初対面。

患者の心細さとか緊張感を受け止めながら、手はどんどん動かすってすごいなあ。プロだなあ。まだ声はお若いように思うけど・・」などと感心しているうちに、いろんな計器が取り付けられて、「まな板の鯉」が出来上がりました。

30年ぶりの腰椎麻酔

大まかな手順と予定時間3時間を告げられて、麻酔へ。30年以上前に開腹手術を受けた時の腰椎麻酔は、ほんとに痛くて、その時の恐怖心がいまだに残っていました。

同室の人に話したら、「そんなに痛くなかったよ」と教えてくれて。実際、耐えられる痛みでした。何事にも先達は、あらまほしきこと。そして、医療の発展ってすごい。

前日に、主治医から「意識がはっきりある状態で受けるか、少し眠くなる薬を使う方がいいか、考えといて」と言われていました。始まる前に再度確認されましたが、手術への好奇心が勝って、目覚めたまま進行することに。

麻酔されていると頭でわかっていても、意識がある状態で体にメスを入れられるのは、想像するのも恐ろしい…。アイスノンを使って、麻酔の効き具合を3回チェックする間にすっかり無感覚に。医師「今どうですか」私「何も感じません」医師「もう始まっていますよ」ということで、手術がスタートしました。

長くなりそうなので、今日はここまで。
次回は、手術の続き。オペ中に観察したこと、自分の意識の状態も記録しようと思います。

これまでのバックナンバー
万が一読みたくなった場合、コチラからどうぞ。

患者経験から考える第1回

患者経験から考える第2回

患者経験から考える第3回


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