「産まれちゃうよ」
人にはきっと一生忘れない言葉、というものがあると思う。
私にとってその言葉のひとつがこれだ。
ようやっと産休に入った頃のこと。
まだ正期産に入っていないのに、やたらとお腹が張ってしまう。40代の高齢出産、もとからの運動不足もあり、体力は限界。それなのにイヤイヤ期真っ盛りの上の子の保育園から、15時のお迎えを指示されてしまった。
あまりにも辛くて、夫の送り迎えを許可してもらうために診断書を書いてもらえないかと妊婦健診で相談したら、今から入院と言われた。予想以上でびっくりした。甘かった、そこまでとは思っていなかった。
えっといっぺん家に帰っていいですか、みたいなことを聞いたら、
「産まれちゃうよ?」
と言われた。
すとん。
そうだ、まだ正期産じゃない。
肺がまだちゃんと育っていない。
今の医学だと、おそらく死にはしない。でも、介入しないと死んでしまうのだ。
まだ産まない方がいい。
私の都合など二の次三の次だ。
そう、私は晴れてドクターストップという名の葵の御紋を手に入れたのだ。
2週間の安静のための入院。
語弊を恐れずに言うなら、パラダイスだった。
3食昼寝つき。
こんなにゆっくり眠ったのは、いったい何年ぶりだろう。
もちろん、点滴は邪魔だし薬の副作用で手は震えるし動悸もする。
逆に言えば書き物ができないからDVDを見たり本を読んだりスマホをいじるしかすることができないのだ。
控えめに言って天国。
もちろん、夫には負担をしいてしまった。でも短縮した頚管は私が頑張っても長くできない。いや、逆に私が頑張ったから短くなってしまったんだ。40代妊婦に無理させるとこうなることを世の中はもっと知って対策を練るべきだ。
そんな発言をするから妊婦さまって言われるんだろうな。
えっと、何が言いたいかと言うと、40代でも出産している人がいるから大丈夫とは思わない方がいいよ、という話です。異論は認めます。
図書館で借りていたオズの魔法使いのDVDとミニマリストの本をお供に、私は2週間をベッドの上で過ごした。
楽しかった。
もちろん、色んな人や状況があるし、哀しい結果になってしまうこともある。出産とはそういうものだ。
「産まれちゃうよ」
しょうがないわねぇ全くもう、といった表情でこう言ってのけた先生は、とってもカッコよかったです。一生ついていくって思いました。(ついていってないけど)
先生、どうもありがとうございました。
無理をしてしんどくなっちゃった時、先生の言葉を思い出します。
「今から入院(休みなさい)ね。」
はい、そうします。