夢と雨
夢の中ではいつも風が吹いている。
たいていが、向かい風だ。
薄ぼんやりと戻っていく意識の中で、寒いから風が吹く夢を見るのだろうかと考える。
けれども、目が覚めても、風は吹いていないし、寒くもない。
何だろうなぁ、と思いながら、夢を反芻する。
そしてウトウトと、再び眠りにつく。
続きが気になる夢なら、どうかそのまま。
夢日記をつけたことがある。
驚いた。
寝るのは大好きなのに、大概が悪夢なのだ。
スリッパに潜む虫
天井から降ってくる蛇
戦闘機に乗って何かを攻撃している自分
地下鉄に乗って何かから逃げている自分
寝る楽しみを失くすのは辛かった。
自分の深層心理を知りたいという欲には、ひとまず、蓋をした。今はその時期じゃない。
そういうところが、時々自分で嫌になる。
私は、表面に出さないようにしているが、かなりの負けず嫌いだ。
けれども、全ての勝負に勝つことは、困難だ。
だから、私は平和主義になった。
負け戦に耐えるくらいなら、勝つ喜びを放棄した方がましだ。
私もずいぶん丸くなったし、負けて勝つ、清濁併せ呑む、などの概念も一応は理解できるようになった。
私に内在する嵐に気づかずに、私を見くびり、攻撃してくる輩がいる。困ったことだ。
完膚なきまでに叩き潰してやろうか。
私は戦い方を忘れていないだろうか。
そこに愛は存在しない。
私の手をわずらわせるほどのことでもない。
愚者は愚者のまま朽ち果てるがよい。
呪いのような遠吠えをしつつ、剣を磨く。
負けたくないなら、上手くやり過ごすのだ 。
正しさの所在は問題じゃないのだ。
上手く嘘をつくためには自分の嘘を覚えておくことだ、とエデンの東に書いてあった。
そんな面倒なことはしたくないので、私は極力嘘をつかないようにしている。
そのつもりもなく孤高となって
馴れ合うには正直すぎて
仲間を探すつもりが、道場破りになってしまう。
ああ、もう潮時だ。
立ち去るべきは私だ。
そんな嘆きを、雨は洗い流してくれる。
もう今日は戦わなくていいのだと。
私がかわりに泣いてあげるからと。
分かっている、どこからどこまでも気のせいだ。
だからこそ、ひっそりと傘を外し、雨に打たれる。
この世界は嫌いじゃない。
戦えばそこは戦場だし、
楽園にも遊園地にもなる。
ああ、お願いだから邪魔しないで、
私を許さなくていいから。
包帯のような嘘を見破る私は
いずれ姥捨山に眠るのだろうか。
戯れに傷をつけたところで
遠巻きに腫れ物扱いされるだけ
愛されたいと叫ぶ方がまだましなのに
毒を吐きすぎて目眩がする。
吹けば飛ぶような軽薄さは
いっそ清々しいほどだ。
安寧の地を望まない自由だってあるのだ。
君の笑顔が見れて幸せ
そんな気持ちも嘘じゃないから
とりあえず何か食べて寝ようか、
積もる話はそれからだ。