小説「界」藤沢周より

小説「界」藤沢周より

miminashi02
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月岡

それでも、芒の穂がはらんでいた

光に想いがゆく

これ程に様々な記憶がよぎっては、

自分でもわからぬ不思議な溜息をついて

いるというのに

結局はさきほど道端で見かけたばかりの

芒の穂の靡きを思い出して

虚ろな穏やかさを覚えている。

少しは潔くなったのか。

それとも鈍重になっただけか。

唐突に50年ぶりに訪れた山里の地で、

当時とまったく変わらない硫黄の

においが鼻先にふくらんだ途端、

幼い時の記憶が次々と開いてきたのだ。

祖母の手の赤金色に変色した指輪。

月岡動物園の円形型の鑑が見た

20メートルを超えるニシキヘビ。

父に置き去りにされた温泉宿の一夜。

そして、頭の奥の闇に蠢く男女の輪

郭?、、、


豊岡新潟東港ICからクルマで


20分ほど。

稲刈り後の、枯れ寂びた田んぼの


広がりの中をひたすら五頭連峰に

向かって走り、

導かれるように

月岡温泉の古く地味な旅館の


一つにいた。

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miminashi02
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