月が綺麗だった
月が綺麗だった。
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今日はあまりよい1日ではなかった。
一昨日から食欲はないし、気づいたら月のものが始まっていて。ホルモンバランス、というやつが乱れて、体がしんどかった。
あまり、自分では認識しないようにしていたが、今日の私が元気がなかった。まあ、いつもがありすぎだ、と言われればそれまでだが。
1週間ほど前から、鼻詰まりがひどく、鼻詰まりがひどいが故に鼻呼吸ができず、寝ている間に喉乾いて痛みと共に目が覚める。そんな日々を過ごしていた。
今日に至っては、毎朝のうがいができそうにないくらい、口の上が腫れているような感覚があった。
鼻詰まりがひどいからか、耳に膜が張っているような、そんな感覚もあった。というか今もある。飛行機に乗っている時の、トンネルに入った時のアレだ。
昨日、楽天から何かハガキが届いていると思ったら使用していたクレジットカードの入金ができていない、いわゆる催告書だった。慌てた、割には冷静だったような気もするが。普段からお金を使いすぎないようにしている私は、ショッピングをする口座とお給与が振り込まれる口座を別にしていて、毎月25日が近づけば口座を確認して入金を繰り返していた。
気向いたら9月を迎えて、8月分を忘れていたのが話の結末だった。急いで今日、コンビニ支払い。手数料の220円と自分が憎い。
今日は久しぶりにバイトに復帰する日だった。お金が必要だったから、他の人の分も変わって、バイトが終われば教習所に行くはずだった。
バイトが終わる30分ほど前に気づいた。バイトの時間を勘違いしていて、教習所の技能に間に合わないこと、4950円の欠席支払いをしなければならないこと。
普段なら驚くくらい、慌てるだろうが。なにせ元気のない省エネモードの私は意外と冷静だった。
「今すぐ欠席の連絡を入れなくちゃ」
「あぁでもバイト中だからだめか。」
「30分早く抜けさせてもらえないかな。」
「今は授業中だから無理だな。」
久しぶりに会う生徒、かわいい子。彼の話に相槌を打ちながら、そんなことを考え、潔く4950円を払おうと諦めた。
ショックだ、頑張って働いた今日の賃金と欠席代金が同じだなんて。いい勉強代だ、と思うしかなかった。いつも迎えに来てくれる父に、事のあらましと心を慰めるために歩いて帰る、とだけ伝えた。
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バイトが終わり、急いで電話番号を探す。繋がった、「あの、19:10〜から技能を予約している○○と申しますが…」担当の者がいないので後でかけ直します、とお決まりのフレーズ。
数分後、電話が鳴る。スケジュールを確認するためにスマホをスピーカーにすると、いつもの教習所の先生の声がした。アルバイトの時間を勘違いしていた、と理由を伝えるとハハハ!と笑った後「今日のはキャンセルってことにしておくよ。料金がかからないようにね」と。
嬉しかった。驚いた。どうして?なんで?いいの?
人の優しさに触れた。理由はわからなかったが、お金を払わずに済んだことにとても安堵した。現実じゃないように感じた。
想定とは反して、晴れ晴れとした気持ちで歩く帰り道。
一度素通りした通り道をなんとなく、振り返った。月がいた。いつもより、なんとなく大きくて、輝きが強い、月がいた。
思わず足を止める。よくよく周りを見れば、私の他にもカップルや30代くらいの夫婦らしき人たちがいた。みんなが、月を見て、カメラをむけていた。ひそひそと、申し訳なさ程度に話す彼らは月への敬意を表している、そう思った。
あまりにも綺麗だったから。
雨が降っている、という彼に見せたくなった。綺麗でしょ、と気持ちを共有したくなった。そのくらい、美しく、圧倒された。
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今日はいい一日にじゃなかった。だけど、
人の優しさに触れた、月が綺麗だった。
普段だったら見れないはずだった。何かに巡り合わされたのか。
今日は、いい一日だった。