真イカのパプリカソースに寄せる小夜曲(セレナーデ)
この記事をたまたま見つけた時、未知の『真イカのパプリカソース』というメニューがそれはもう、ものすごく気になった。
どんな料理なんだろう。そうだ今すぐサイゼ行こう!とまではならないけど、できることなら終わる前に食べてみたい。
それから数日が経ち、頭の中から『真イカのパプリカソース』のことがそろそろ消えかけていた私の目に、唐突に緑の看板が飛び込んできた。予定があるしお腹はそんなに空いてないし、でサクッと夕食を済ませたかったその日の私たち母娘に、サイゼという選択肢がピタッとハマった。
席に着き、ドキドキしながらメニューブックを開くと、そこにまだ『真イカのパプリカソース』は、いた。
おお、間に合って良かった!
何度も訪れて同じようにコレを開いてきたはずなのに、なぜかこれまで一度も私の目に留まることはなかったメニュー。同じカテゴリで隣に並んでいたセロリのピクルスとともにオーダーしてみた。
ああ、これはもう、完全にデカンタの白ワインがエスコートするべき淑女たちじゃあないか。
しかし哀しいかな、そんな日に限って車で来てしまった愚かな私は、無理やり喉の奥に炭酸水を流し込み思考を麻痺させる。
まもなく運ばれてきた『真イカのパプリカソース』は、オイルのドレスを身に纏い、パプリカのビジューをところどころに散りばめながら、静かにキラキラと輝いていた。
柔らかく程よい酸味と心地よい歯ごたえで、ビシッとタキシードでキメた白ワイン様とはもちろんだが、ジーンズに白シャツをサラッと羽織っただけのソーダくんや、素足に革靴でカーディガンを肩掛けしたブドーニリモーネ氏と並んでも違和感がない。
つまり誰とでも相性ピッタリなのだ。
さらに、ファミレスの定番フライドポテトなどと違って、飢えたこどもたちをなんとか落ち着かせておきつつも、メインの存在を決して侵略することのない、控えめなスターターとしてのポジショニングも十分に満たしている。
どうしてもっと早く出逢わなかったのだろう。貴女に。
不倫男の常套句みたいなセリフをつい口走ってしまうくらい、彼女は魅力的な存在だった。
そのままでも十分最後まで美味しく味わうことができたのだけど、人間というのはどうしようもなく欲深い生き物で、彼女ひとりでは飽き足らず、スターの卵がひしめくサイゼチームの誰かとコラボさせてみたくなった。
たらこソースシシリー風。
ミラノ風ドリアという不動のセンターに阻まれ、決して華々しく取り上げられることはないものの、人気投票では必ず上位に入ってくる、安定の初期メンバーである。
このコラボはエモい。
美味しいのだけど、終盤どうしてもちょっと飽きが来てしまうシシリーさんのバタくささを、真イカちゃんがサッパリとした酸味でいい感じに中和して、気分も新たにリセットしてくれる、まさに息ピッタリのコンビなのだ。
これはぜひ、試してみてほしい。
あとどれくらい、貴女といられるのだろう。
いつかまた、どこかで会えるかな。
淡い期待を込めつつ、サイゼをあとにした。
さよならだけど さよならじゃない 明日も心 平気 元気
思い出だけど 思い出じゃない 記念のリボン 君にあげよう
きっときっとここで会おうよ
ーーーーー
本日のBGM
『さよならだけどさよならじゃない』 やまだかつてないWink