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最期の晩餐
「もし今日で世界が終わるとしたら、最後に何を食べたい?」
会話のとっかかり的にこの手の質問をするヤツは、つまらない人間だなと思う。
私は自他ともに認める、筋金入りの食いしん坊だ。
一週間の献立を考えて買い出しに行くとか、つくりおきの常備菜で食卓を整えるということが全然できない。お腹が空いたタイミングで、ああ、いまこれが食べたい!と感じるものを身体に取り込みたいのだ。一週間どころか、数時間先の自分の気持ちさえつかめないのに、あらかじめメニューを決めておくなんて到底無理な話だ。
だから、最期の晩餐に何を選ぶかと聞かれても、答えることができない。その時食べたいと思ったものが、どうか首尾よく手に入るものでありますようにと願うのみだ。
ただなんとなく、本当にもし自分が死ぬタイミングが分かっていたとしたら、人生の終わりに味わいたいと思うものは、贅沢な品や奇をてらった料理ではなく、普段食べ慣れた、身体にしみじみと染み入るような食べ物ではないかなあ。
昆布にたっぷりのカツオで贅沢に出汁をひいて、お豆腐と青ねぎだけ入れたシンプルな味噌汁だとか、炊きたてのツヤツヤしたお米に、ぷるんとした黄身を光らせて鎮座する生卵、とかそういう感じの。月並みだけど、ああ日本人に生まれて良かった!みたいな。そういうごはんで人生を締めくくることができたら、もうそれで十分な気がする。
いつ死ぬかなんて誰にも分からないから、私の人生において、食べたいものを食べたい時に逃さず食べるということはとても重要だ。
何を食べるにしても、たとえその後うっかり死んでしまったとしても、それが最期の晩餐にふさわしかったと言えるようにしたい、そんな気持ちでいつも食に向き合っていたいと思う。
さて、今日の夜はなにを食べようかな。
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