火は「食べる」のか?「吹く」のか?
8年くらい前になるだろうか。
ローマをイタリア人の友人と夜遅く歩いていると、狭い路地に沿った小さい広場で、大道芸をしていた。
男性が火を吹いていた。
それを見て、友人が苦々しい顔で「Mangiafuoco」と言った。その語彙はわたしにはなかったけれど、日本語で言うところの「火を吹く人」だろうというのはわかった。
健康オタクのその友人は、火を吹く芸をすることの健康被害をそれからわたしにとうとうと述べていたが、わたしの頭の中ではmangiafuoco(マンジャフオーコ)という言葉のほうがひっかかっていた。
イタリア語でmanngiare(マンジャーレ)は、一般的な「食べる」という意味の動詞で、fuoco(フオーコ)は「火」を意味する名詞である。
でも、その芸をしている人は、明らかに火を吹いているのであって、食べてるんじゃないもんな~と心の中で思っていたのだが。
あらためて数日前にそのことを思い出して、ちょっとYoutubeなどでmangiafuocoで検索してみた。
もしかしたら芸風の違いかもなあ、と思った。
私のイメージの火を吹く大道芸は、口からぼーっっ!と勢いよく炎を吹いているだけの感じ。
でも、Youtubeで見たmangiafuocoの中には、炎がついたたいまつのようなものを、体にぬる~っとすべらせるようにおしあてたり、舌で炎をなめるようなしぐさをする。ちょっとセクシー。
日本では火を吹く大道芸は、どちらかというとこども向きなイメージだったが、炎と戯れ、炎を敵としないしぐさはそれはそれで美しい。
そうなると、その人は本当に火を食べることもできるのかも・・・と思った。
「火を吹く」のは、体の内から外に炎を吐き出す行為。
「火を食べる」のは、体の内に炎をとりこむ行為。
見方が違うけど、それによってイメージもずいぶん変わるなあ、と思ったことだった。
※ちなみに、イタリアの作家カルロ・コッローディ原作のピノッキオの中に出てくる人形劇一座の座長の怖いおじさんの名前はMangiafuocoです。