ネアンデルタール人全史ー第二章ー
コンビを組んでから約1週間後の夕方、僕らはネアンデルタール人の家にいた。
ネアンデルタール人の部屋の入り口にギターが置いてあったのを見つけた。
「ギター弾けんの?」と聞いてみた。
ネアンデルタール人は「たいして弾けんよ」と言った。
僕は「なんか弾いてよ」と言ってみた。
ネアンデルタール人は「うわそういうやついるわ」と言った。
出会って間もないし、嫌そうだったので、それ以上要求することはやめた。
プライドが高いと思った。
ギターを弾けると思われたいので、玄関にギターを置く。
でも弾いてよと頼まれると、下手だと思われたくないので断る。
相方との関係性をどのようなものにしていくかを考えていた僕は、ネアンデルタール人のプライドの高さを見て、とりあえず自分がボケというかプレイヤー的な立ち位置を目指すことにした。
ネアンデルタール人の家で少し話をした後、僕はpairsのプロフィール写真にできるかっこいい写真を撮りたいから付き合って欲しいことを伝えてネアンデルタール人を難波の街に連れ出した。
道頓堀で10円パンを売ってる店を見つけた。
僕は「買いたいけどなー。現金9円しかもってへん。9円パンやったら買うねんけどな」と言った。
ネアンデルタール人は「10円パンって10円で売ってるってことじゃないよ。ていうか持ち金少なすぎない?」と言った。
ネアンデルタール人は人にツッコミを入れることにあんまり抵抗とか恥じらいは感じないらしく、それを嬉しいと思った。
10円パンを食べてるところを写真に撮ってプロフィール画像にするのはなんかベタすぎるみたいな理由でそこで写真を撮ることはやめた。
その後も難波近辺のいろんな場所を歩いたが、いい写真が撮れそうな場所が見つからなかった。
どうやったらかっこいい写真が撮れるのかと2人で考えて2つの案が出た。
一つはりんご。
場所なんかどこでもよくて、りんごを齧って斜め上向いときゃかっこよく見えるんじゃないか、という話になった。
二つ目は土手。
土手に行って長い草的なものを咥えて、足を組んで寝っ転がってさえいれば完璧ちゃうか、となった。
難波に土手はないので必然的に前者となった。
僕らは曽右衛門町のキャッチのお兄さんに、夜11時頃、八百屋はこの辺にあるかを尋ねた。
場所も聞く相手も時間もおかしい僕たちに、キャッチのお兄さんは親切に八百屋へ案内してくれた。
あるんかい。
八百屋には青いリンゴしか店頭に並んでなかった。
キャッチのお兄さんは、僕らの代わりに事情を説明し、赤いりんごを求めていることを八百屋に伝えた。
八百屋は、店の奥に赤いりんごはあるにはあるが、時期的に質が低いことと、値段が高いことを教えてくれた。
キャッチのお兄さんは、どうしても赤いりんごが欲しいことを再度伝えた。
キャッチのお兄さんの方が僕らより赤いりんごを求めていた。
結局僕らは赤いりんごを買うことができた。
当時は、なんて親身なキャッチのお兄さんなんだ、と2人で話していたが、今振り返るとキャッチのお兄さんと八百屋はグルだったのかもしれないなと思った。
腹立ってきたな。死ね。
僕は、関係性を深めるための一つのイベントとして、写真を撮りにいくことを提案しただけなので、ほんとはマッチングアプリとかりんごの色とかどうでも良かった。
いや、モテたいし女の子とセックスはしたいけど。
その後は道頓堀の川の側でりんごを齧りながら写真をとった。
何度齧ってもかっこいい写真は撮れず、それを繰り返しているうちにりんごが芯だけになってしまったのでやめた。
帰り道、路上ミュージシャンがいるのを見つけ、ネアンデルタール人が声をかけた。
即興で弾き語りをしてくれるということだったので、ネアンデルタール人がandymoriの「city lights」を歌って欲しいと伝えた。
路上ミュージシャンはうろ覚えだったので耳コピでの演奏ができず謝ってきた。
路上ミュージシャンが「他になんかないですか?」と僕に聞いてきたので、「世界に一つだけの花」をお願いした。
サビだけとかではなく1番をフルで演奏してくれた。
後でネアンデルタール人に「なんで世界にひとつだけの花?」と言われた。
僕は「好きやねん」と言った。
ネアンデルタール人に「逆に失礼だよ」と言われた。
そこから僕らは、相手ができそうなことを振ること、できなさそうなことを振ること、微妙なラインを振ること、すなわち他人に何かを振るとはお笑いの現場においてどういうことを意味するのか、ということについて話したりすることはなく、NSCの女の子があげてたインスタのエロい写真について語りながら帰った。
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