耳型とシェル、何から教えたらいいの!?#045
原稿執筆している4月現在、当社に初めて新卒の言語聴覚士が入社してくれました。(ありがとう、G藤さん、これから一緒にいい仕事をしましょう)
夢と希望と少しの不安を抱えて補聴器の業界に飛び込んでくれた若者たちを、心から祝福し、歓迎したいと思います。
希望を持った新人さんに、もしくは人手不足を嘆いていた職場の先輩にとって、現実的なお話しですが基本的に新卒の新人が即戦力になるとは限りません。
補聴器店にしろ医療機関にしろ、新入社員を受け入れる側は、よちよち歩きの新人を、現場で戦力になる人材に育てる必要があります。
多くの健全な組織で新人育成がどうなっているかというと、社内全体の教育を担当する講師役と合わせて、現場で個別の指導に当たる教育担当を決めていると思います。
現場での教育担当は、上司から「おい、大塚君。君ももう一人前なんだから、今度入社する新人STに色々教えておけ」なんて言われて、公式非公式に任命されるのです。
白羽の矢が立ちやすいのは、プレイヤーとして一人前になったけど管理職にはまだ早い、くらいの人でしょうか。
教育担当を任されると、自分の業務知識やスキルだけでなく、教え方や新人の行動に対するフィードバックなど、色々な課題が出てきます。
僕が初めて後輩を教えたころのことを思い出すと短気で不親切だったと思います。補聴器の知識も少なく、あまり良い先輩ではなかったな、と恥ずかしい限りです。
何より良くなかったのは、新人に任せるはずの仕事を黙って見ていることができず、自分が介入して手を出してしまい、自分がプレイヤーとして動いてしまったこと。
新人には「僕がやるから見ておいて」「今のはXXってことだよ」と簡単な説明をして、はい、おしまい。同じ症例があった時には「この間、説明したでしょー」などと言っておりました。
こんないい加減な教え方をしていると、どうなるかというと、新人の成長がとても遅くなります。新人の戦力化が遅れるとどうなるでしょう。
病院でも企業でも「一人を追加で配属した。人件費も増えている」として、部署全体の仕事量は平気で増やしてくるのです。
新人を育成する時は、組織が許容する期間内で、何かしらの戦力になってくれないと、先輩はもちろん部署全体の仕事量がどんどん増えて苦しくなってしまいます。
逆に言えば、もしあなたが新人の教育を任されたら(期待されているんだな)と思って、期間内にキッチリ仕上げる心構えで取り組むと、所属部署、自分、新人の3者ともが幸せになれるでしょう。
補聴器の技能を教える時の制約
先ほど、私の恥ずかしい過去の失敗で「新人に仕事を任せるつもりだった」と書きました。実は、この考えが失敗の元でした。
僕が新人だったころは、色々な仕事を任されて、必死に勉強して覚えて実践するというスタイルだったので、経験学習(Experiential learning)を過信していたのです。
後輩を初めて教えることになった時に考えたことは
「補聴器の調整環境は家に無いから練習できないなー。僕の調整の横について見ているのが勉強になるよね」
「接客は経験で覚えるものだしね。自分で経験しないと」
「音響や聴覚の基本のキの書籍って、あまり無いんだよねー。メーカーに頼めばいいか」
というものでした。
補聴器の技能を座学で教えるのって難しいと、最初からチャレンジさえしませんでした。
しかし座学や基礎の教育を怠って経験の機会だけを新人に与えても、新人の成長が遅く、いつまでたっても自分が楽にならない状態がつづき「どうも経験至上主義だと人材は育たないらしい」と、数年かけて気付きました。
新人に与える自習課題を作ってみよう
やはり業務上の経験を積ませる前に、基本的な知識の習得は必要です。また教育途中のスタッフに経験を積ませる場合は、クライアントへ迷惑をかけず、先輩の負担が増えない方法を考えるべきです。新人の横に先輩がずっとついているわけにいきません。
これらを踏まえて作った教え方は次のようなものです。
接客接遇について
まず社外研修を利用してロープレ付きの社会人基礎研修を受講させておく。地域の商工会議所や都道府県の中小企業振興の担当部署は、新社会人研修などを格安で開催してくれている。
実際にクライアントとの会話に入るときは、アシスタントとして世間話やお悩みの完全な聞き役、アシスタントが話すことは補聴器の一般論だけに絞る。
知識不足から間違った発言をすることはありえるので、影響が小さくなるよう、新人の立場を明確にするために「アシスタントG藤」などと書いた名札をつけさせる。音響や聴覚について
今は認定補聴器技能者の第一期がeラーニングになっているので、3ヶ月程度を目安にすべて受講させて、章ごとにレポートを書かせる。余談ですが、昔は第一期の講座は時期が夏ころに指定された四泊五日の出張研修だけでした。時期が合えばいいのですが、他の時期に入社した人に基礎知識を教えるのは本当に苦労したものでした。補聴器フィッティングソフトの操作について
古いものでいいのでパソコン、補聴器デモ器、接続装置を3つセットで新人に渡す。接続装置に不足があれば、型落ちでいいのでメーカーから借りる。課題としては、聴力や主訴などの事例をいくつか用意しておき、事例に沿って補聴器の音を作らせる。
※この段階では、ソフトウェアの画面の見方や操作の習得が主旨なので、実耳と画面の差異については言及しない。後日、調整した補聴器は、特性器が空いている時に特性器を測らせて、レポート提出させる。レポートに対するフィードバックのみ対面で行い、その時にソフトウェア操作の感想、調整の意図、ソフトウェア画面と特性の差異についての新人の見解を聞き取る。
こういった学び方を新人に伝えておくと、新人が一人で自習できることが増えます。先輩が横についていなくてもいい時間が増えるので、教育担当者は他の仕事を並行して進められるようになります。
また接客の中の一部分でも、本人に任せると「これは自分の仕事」と思えるようになります。その中で、より高度な仕事へつながる経験も少しずつ蓄積されていきます。多くの場合、補聴器店で働きたい人は、目の前のクライアントの役に立ちたいわけですから、本人のモチベーションにもつながります。
さて残るのが聴力測定と、今日の本題である耳型採取やシェルの評価です。
これまでも補聴器マガジンでは、耳型採取とシェルについて何回か記事を書いてきました。過去にご紹介したのは理論や実践の話でしたから、今回はトレーニング方法を主題にしてみたいと思います。
本題:耳型採取の教育&トレーニング
当然のことですが、いきなりクライアントの耳で耳型採取を経験させるわけにはいきません。練習が必要です。
補聴器店によっては、奇特な先輩が練習のために耳を貸すことがあるかも知れません。
その時「絶対、安全にやれよ!」というのが先輩の心の声だと思います。不安な気持ち、よく分かります。
当社では、新人向けの耳型採取の社内最終試験というものがありまして、内容は「会長もしくは社長(僕)の耳で耳型採取して、圧力、深さ、クラックなど、すべての要素で合格をもらう」というものです。
正直、試験に耳を貸すときはいつも怖いです。
そもそも十数年前は社内試験だけでなく、新人の練習にも耳を貸していました。本当に怖かったので、何とか耳を使わないで安全な練習が出来ないかと真剣に考えたものが、ここからご紹介するトレーニング方法です。
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