実践!補聴器特性の測定と調整 ♯026
「最近、特性測定器って、使っていますか?」
補聴器業界に入ってきたばかりの人にとって、音場閾値を参考にした調整とか、REMによる調整とか、色々な情報が耳に入ってきて
「結局、どうしたらいいのー?」と頭を抱え混乱してしまうことがあるようです。
弊社のベテラン技能者も新人から「装用閾値と聴力と特性の関係がわかりませーん」と質問を受けると、答えに窮しております。
今回は3つの関係を整理しつつ、特性測定器の活用について考えていきたいと思います。
※今回の記事26号は、25号の続編になっています。本号がよく分からなかった方は25号と合わせてご覧ください。
補聴器の特性を測定する目的、おさらい
補聴器の特性を測定する目的は大きく分けて3つあります。
一つ目は、機械として正常に動作しているか、初期不良品ではないか、ひび割れや耳あかつまりなどの確認(作動確認、外観チェック)。
二つ目が、安全性の確認、最大出力とUCL、最大出力と音響外傷リスクの確認(安全確認)。
そして最後の三つ目が、調整状態の記録です。いわゆる5本線の利得または出力の記録です(個別確認)。
この3つの手順はとても大切です。忙しかったり、次のクライアントを待たせていると、つい作動確認、安全確認を省略してしまいたくなります。
しかし作動確認を省略して、補聴器を調整した後に故障が見つかったら時間の無駄になってしまいます。また安全確認を省略して、難聴が進行するリスクのある補聴器をお客様にお渡ししてはいけません。
個別確認の前に、作動確認と安全確認は欠かさず行っていきたいものです。
3つめの個別確認には、いわゆる特性5本線を測ることがあります。また、この他、REMと装用閾値という考え方もあります。それぞれ見ていきましょう。
特性5本線の意味
補聴器技能者は、ドクターへの報告書に、10dB単位で5つの入力音圧で特性を測定し、それを報告書に添付していると思います。
しかし特性5本線の意味が分からないと悩んでいる人は少なくありません。
そもそも特性5本線ってなんなの?
特性図の5本線は、ノンリニアな補聴器が登場しはじめた時代、入力音圧ごとの特性を表現するために考案されたものです。
昔々、リニア補聴器の時代には、5本の特性は必要なかったのです。リニア補聴器なら入力音圧が変わっても、利得は基本的に同じですから60dB入力と90dB入力の2本だけで良かったわけです。
現在のノンリニアな補聴器は、小さい入力音の利得、大きい入力音の利得、その間の入力音の利得、それぞれ利得が違っているので、全部の記録が必要と考えたわけですね。
しかし5本線を測定すると分かりますが、どこに合わせて調整するのが正解なのか迷ってしまいます。
特性5本線はノンリニア補聴器が登場した後の考え方である
適切な装用閾値に合わせるとおっしゃるベテランさんは、少なくありません。
音場で装用閾値を測定し、1000Hzを中心に両肩下がりのゆるやかな山型に・・・という調整方法。僕自身、REMによるフィッティングを覚える前、補聴器の調整を学び始めた新人の頃は、装用閾値による調整をしていた時期があります。
この方法で調整すると、すぐに気付く問題なのですが、装用閾値による調整で、狙った数値が得られなかったとき、どこをどう直せばいいのかが分かりません。
装用閾値が下がり過ぎていた(聞こえすぎていた)時は、どうしたらいいでしょうか?
ソフト利得、ノーマル利得、ラウド利得という3つのうち、ソフト利得だけを小さくするのでしょうか?3つ同時に小さくするべきでしょうか?
仮にソフトの利得だけを下げて、装用閾値を整えた場合、圧縮比が下がることは確実ですが、距離1メートル程度の話声は入力音圧で60dB~70dBほどですから、ここの聞こえがどう変わるかは分からないままです。
装用閾値が上がっている(聞こえていないはずの)時に、クライアントから「うるさい!」と言われてしまったらどうでしょうか?
ラウド利得やMPOが過剰なのかも知れませんが、装用閾値はヒントを与えてくれるでしょうか。
それでもノンリニア補聴器を装用閾値で調整すると、どんなことが起こるのか・・・
UCLに合わせて、ラウドの音だけ抑えて、ソフトとノーマルの利得はリニアに設定することになり、それってつまり20年前のアナログ補聴器と一緒じゃない?ということになったり
メーカー推奨の圧縮比をまるごと鵜呑みにして信じて、周波数別の利得は上げ下げするけど、ソフト、ノーマル、ラウドはそのままにするよ!となり、それならメーカー処方式を丸ごと信じた方が良いのでは?混ぜると危険!ということが起こります。
なぜこんなワケが分からないことになってしまうかと言うと
装用閾値による調整はリニア補聴器しか存在しない時代に考案された考え方だからです。
一回、これにハマってしまうと抜け出すのに、とっても苦労します。
ノンリニア世代・デジタルネイティブな若い人たちには、もっと柔軟にそしてベイシックな方法がおすすめです。
特性5本線の記録と装用閾値による調整、この二つは時代も想定されている補聴器もまったく食い違っており、基本的には相性が悪いのです。
最適な音を”鼓膜”に届けよう!
補聴器の役割は究極的にはコミュニケーションの改善ですが、もっと具体的な役割は、言葉が聞き取りやすい音を鼓膜に届けること。
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