みずうみを、たたむ。
薄青いみずうみの際に、両手をそっと潜らせて、ゆっくりと握って引き寄せる。寄せた分をぱたんと前に倒し、輪になった部分を再び握る。からだを反らすようにして、引き寄せては、たたんでいく。
広い湖畔には、わたしと同じようにみずうみをたたむ者が幾人かいるらしい。が、辺りは白く霞んでいて、姿かたちは定かではない。誰もが無言で、水音もしない。背後に広がる森もしんとして、鳥のさえずりも聞こえない。
半透明の薄青い幕のようなみずうみは、思いのほか丈夫に出来ていて、ちぎれることもない。滑らかではあるけれど、厚みもある。それなのに、何度引き寄せてたたんでも、嵩高くなることはない。たたまれたみずうみは常に一定の大きさで、目の前に横たわっている。
反物のように、たたむほどに大きく重くなれば手応えがあるものの、重ねるたびに溶けていくかのようなみずうみは、「たたんでいる」という確かさがない。どれくらい繰り返せば終わるのか、たたむ者の数は足りているのか。
そんな思いを見透かすかのように、ふいに雲が割れ、光が降りそそぐ。明るんだみずうみに目をこらせば、遙か向こうに果てが見える。みずうみの果てが、光を散らしながら近づいてくる。
握る手に力をこめて、引き寄せる。できるだけ波立たぬよう、水平に腕を引く。少しずつ、少しずつ近づく果てを眺めながら、静かにゆっくりと、みずうみをたたむ。
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