"ティモ様"の煽りとリストバンドライトで操り人形化する観客たち(Ave Mujica 3rd LIVE「Veritas」)
10月13日、河口湖ステラシアターにてAve Mujica 3rd LIVE「Veritas」が開催された。「BanG Dream!」発のメタルバンド・Ave Mujicaは、2日にEP『ELEMENTS』をリリースしたばかり。今回のライブではEPに収録された新曲も初披露となった。
なお今回のライブでは、無線制御に対応したリストバンドライトが公式販売されたことも注目された。ステージ照明と連動する演出がなされたことと同時に、ライブ観戦時のマナーや作品コンセプトの徹底という意味でも重要な施策となった。つまり、音楽ジャンルによっては観戦時のペンライトなどの使い方をめぐって度々観客のマナーについての議論が生じるが、今回のオフィシャルグッズによって半強制的に「光り物」の制御が可能になり、たとえばバラード曲の間は一斉に消灯するなどして照明演出の強化と同時にオーディエンスのマナーの問題も解決したのである。
加えて、Ave Mujicaが「月の力によって人形に命が吹き込まれている」という設定を考えるうえでもこのグッズは意義深い。観客までも強制的に演出の一部として従えてしまうその光景は、まるでバンド発足者であるオブリビオニス/豊川祥子が、我々をも「操り人形」の一種として操作していたかのようだ。
今回の公式リストバンドライトは、単なる販促の域を超えて「メタルバンドのライブにおけるオーディエンスマナー」「作品コンセプトの徹底」を考えるうえで極めて大きな批評的意味を持った。
このような「演出」のもと、初の野外ステージにて、まさに月が登り始める時間帯に開催された今回のAve Mujicaのライブは、どのような結末を迎えたのか。
「Symbol I : △」「Symbol II : Air」——予想を裏切る怒涛の展開
1曲目に披露されたのは「素晴らしき世界 でも どこにもない場所」。同曲のSEは入場曲としても使われたが、これは6月・7月に開催された2nd LIVE「Quaerere Lumina」と同様の演出である。我々がまたAve Mujicaのマスカレードに帰還したことを思い出させてくれる、今後も恒例の演出となることが予想されるだろう。
しかし続いて演奏されたのは「Symbol I : △」。Ave Mujicaの楽曲としては最速BPMを誇る同曲、火柱の演出やシンガロングとともに会場のボルテージを一気に最高潮にまで引き上げるこの曲が、序盤のこのタイミングで披露されることはまったくの予想外で、最高の意味で予想を裏切られた。その後「Symbol II : Air」が連続して披露されたことは、このライブが「Symbol」シリーズ、つまり『ELEMENTS』収録曲の順になぞらえた世界観をもとに演出されていくことを宣言したかのようである。
ステージセットを生かす、舞踏を絡めた朗読劇を挟んで披露されたのは「神さま、バカ」「ふたつの月 ~Deep Into The Forest~」「暗黒天国」「Choir 'S' Choir」。これらはどれも活動初期から演奏されてきた楽曲で、序盤の観客の期待を裏切る展開とは対照的にこのバンドの安定感を示す流れとなった。
「Symbol III : ▽」—“ティモ様”の煽りから熱狂はピークに
むしろ会場の盛り上がりがピークに達したのは、その後の「Symbol III : ▽」「Mas?uerade Rhapsody Re?uest」「堕天」「Ave Mujica」の流れにおいてであろう。「Symbol III : ▽」は、2nd LIVEではクライマックスに初披露された楽曲。それが今回は全体のちょうど折り返しのタイミングで演奏されたことは、2nd LIVEのピークでさえもいまだ序奏に過ぎなかったことを示唆しているかのようである。
ピアノバラードである「Symbol III : ▽」に続き、オブリビオニス(高尾奏音)のピアノソロが披露される。圧倒的な技量でオーディエンスの度肝を抜いたかと思えば、息をつかせぬままキラーチューン「Mas?uerade Rhapsody Re?uest」が続いた。ブレイクダウンがオーディエンスのヘドバンを誘う、最も“ライブ映え”のする楽曲の一つだ。2サビ直後、ティモリス(岡田夢以)の煽りから展開した今回のヘドバンは、お立ち台に足をかける彼女に対して観客が屈服を表明していたかのようである。
そして「堕天」で頻出するシンガロングによってさらにオーディエンスの心を解放したタイミングで披露されたのが、セルフタイトルでもある「Ave Mujica」。これ以上ない瞬間に鳴らされたイントロのギターリフにオーディエンスは絶叫する。「ようこそ、Ave Mujicaの世界へ」。
「Symbol IV : Earth」——「Symbol」シリーズ完結から集大成としての「Ether」へ
続く朗読劇で示唆されていたのは「Symbol IV : Earth」の世界観だ。今回の初披露が予想されていた同楽曲への「焦らし」が、絶妙な緊張感として「Angel」のメッセージと混ざり合う。そしてデビュー曲「黒のバースデイ」によって、このライブの本番が始まるのはむしろこれからなのだと宣言されたかと思った矢先、満を持して演奏されたのが「Symbol IV : Earth」。
近年のポスコア/メタルコアファンを楽曲の完成度だけで唸らせるポテンシャルを秘めた同楽曲は、Ave Mujicaが声優バンドとしての域をとうに(最初から)超えていたことを決定づけただろう(初めて聴いたときは「Story of Hope」あたりのメタルバンドと間違えて再生したのかと思った)。ラスサビの直前、7弦ギターのタッピングをおこないながら歌唱するドロリス(佐々木李子)のパフォーマンスは見る者を唖然とさせたが、彼女のパフォーマンスの底知れなさは、それ自体がドロリスというキャラクターが持つパーソナリティの不明瞭さを表出してもいるだろう。
Ave Mujicaの楽曲は、リズムやサウンド面では近年のメタルファンへの嗜好に沿う音作りを目指しつつ、複雑すぎないギターの刻みフレーズがメタルリスナー以外への射程を広げ、佐々木李子のボーカルと高尾奏音のキーボードそれぞれの異常なテクニックが普遍的な「歌もの」の確立に向けられているところに、Diggy-MO'作詞における独特な言葉選びが独自の世界観を構築している、と整理できるだろう。このような多様な音楽性から、声優バンドとはかけ離れたコンテンポラリーな「メタル」らしさを突き詰めたのが「Symbol IV : Earth」であるとするなら、バンドとしての世界観の総決算となったのがクライマックスに披露されたであろう。
「Ether」でのツービートのドラムやブリッジミュートを絡めたギターの刻みは「Symbol I : △」「Mas?uerade Rhapsody Re?uest」などを想起させるとともに、ミドルテンポのパートではバラードのように歌い上げるドロリス、というようにこれまでのAve Mujicaの楽曲の集大成とも言える構成である。歌詞においては「一葉の銀河系」というDiggy-MO'でしかあり得ないフレーズによってボーカルパートが始まり、壮大な「宇宙」をテーマにした言葉が続く。まさに「エーテル=天」のもとに、「Symbol」シリーズそれぞれが司っていた四元素「火」「風」「水」「地」が包摂されるさまを描いたのが『ELEMENTS』である。
「Symbol」シリーズが展開してきた多様な音楽ジャンルに対して、「Ether」の持つ「包摂」のイメージのもとに一つの世界観が構築されてきた。この構図は、「Ave Mujicaの多様な楽曲群」に対する集大成としての「3rd LIVE『Veritas』」という関係に重なるだろう。
これらを物語作品(アニメ)の制作なしに運営してきたことは、Ave Mujicaが音楽興行だけでも十分なポテンシャルを発揮しうることの自信の現れだろうし、実際、それだけのクオリティを持っていることは否定しようがない。
テクニックとコンセプトメイクの徹底においては明らかに「次元」の違いをみせるAve Mujicaが、1月に控えるアニメ『Ave Mujica』放送開始後、「2.5次元」のメディアミックスプロジェクトとして近年の「大ガールズバンド時代」に何をもたらすか。アニメシーン・音楽シーン両者にとっての最重要論点として「Ave Mujicaのマスカレード」から目を離せない。
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