#それでもスポーツで生きていく・#25
~各論【第2章】
スポーツの『自治』から『自主経営』へ
『自主経営』(セルフ・マネジメント)とは
今回の投稿で25回目。全部で何回とは決めていないのですが、半分、もしくは3分の1、4分の1という区切りなのかもしれませんし、この投稿を機に一度小休止を頂くかもしれません。( 毎日元気に書き続けられるかもしれません。)
前回の投稿の最後で、「全体性(ホールネス)」を持ち込む、とか、当章のタイトルに「自主経営」というような言葉を使っているのですが、これらはいずれも、『ティール組織 マネジメントの概念を覆す次世代型組織の出現』という書籍からの引用です。
今回の投稿では、ここで挙げられている『自主経営』(セルフ・マネジメント)という概念を中心に概要を纏め、『自治』に苦しむスポーツ界の現在に、明るい未来を描く切っ掛けのようなものを、なんとか書き綴れたらと考えています。
『自主経営』とは何か
この概念は、『ティール組織』の著者であるフレデリック・ラルー氏が、近年成果を挙げている組織(彼はそれを「進化型組織」と呼んでいる)に共通する特徴として挙げた「三つの突破口(ブレイクスルー)」の1番目に掲げたものです。
進化型(ティール)組織が開く三つの突破口(ブレイクスルー)
自主経営(セルフ・マネジメント)
進化型(ティール)組織は効果的に機能するための鍵を見つけ出した。大組織にあっても、階層やコンセンサスに頼ることなく、仲間との関係性のなかで動くシステムである。
全体性(ホールネス)
職場に行くときは、狭い「専門家」としての自己をまとい、もう一つの自分の顔はドアの外に置いておけー組織とは、そこで働く人々に常にそういうことを期待する場所だった。(中略) 進化型組織は、私たちの精神的な全体性(ホールネス)が呼び起こされ、自分をさらけ出して職場に来ようとさせるような、一貫した慣行を実践している。
存在目的(エボリューショナリー・パーパス)
進化型組織はそれ自身の生命と方向性を持っていると見られている。組織のメンバーは将来を予言し、統制しようとするのではなく、組織が将来どうなりたいのか、どのような目的を達成したいのかに耳を傾け、理解する場に招かれる。
(引用 : ティール組織 マネジメントの概念を覆す次世代型組織の出現, 第II部第1章 三つの突破口と比喩, pp92-93 )
『自主経営』(セルフ・マネジメント)が成されている組織では、社長や管理職からの指示命令系統はなく、メンバーの信頼に基づき、独自のルールや仕組みによって組織運営を行うスタイルが取られている、とフレデリック・ラルーは言うのです。
当書の第II部・第2章では、自主経営組織の特徴について、以下のように纏められています。
自主経営チーム
オランダで地域看護を行うビュートゾルフの例をもとに、10~12名の少人数チームをベースに組織運営がなされ、驚くべき成果を挙げている。
上司の不在
ビュートゾルフには上司(管理職)がいない。チーム全員が看護師で、チームごとに発生する管理業務にも取り組んでいる
ミドル・マネジメントが存在しない
ビュートゾルフには管理職はいないが、意思決定権を持たず、育成が役割の地域コーチがいる。
必要最小限のスタッフ機能
進化型組織ではスタッフ機能を極力小さく抑えている。現場から要請があった場合に限って行動を起こす。
経営陣はなく、ミーティングもほとんどない
チームごとのミーティング以外に組織のトップにはミーティングがない。
仲間からの圧力による自主規制
組織間の人員調整や予算要請などは、仲間からの圧力(ピア・プレッシャー)による自主規制が働き、問題は除去される。
統制ではなく信頼
進化型組織にはミドル・マネジメントがなく、スタッフ機能もほとんど存在しないため、相互信頼による統制が効いている。
( 出典 : ティール組織 マネジメントの概念を覆す次世代型組織の出現, 第II部 第2章 自主経営/組織構造, pp.107-163 )
概ねこれまでのマネジメントの概念と真逆をいくような概念ですが、近年世界中でこうした考えの組織が人を集め、会社の規模の大小や種別を問わず成果を挙げていると言うのです。
中小企業体であるスポーツ組織
私の連載の3回目でスポーツ組織に関する文章を書いたのですが、概ねスポーツ組織は、どんなに華々しく見えるプロスポーツの世界を覗いてみても、すべてが中小企業の規模だったりします。
第1章から章題を「スポーツの『存在目的』に耳を傾ける旅」と、『ティール組織』の概念を下敷きにして、持論を書き綴っているのですが、そもそもが大企業体でないスポーツ界ゆえに、『ティール組織』的な「現場の主体性をベースにした組織運営」に、僕は可能性を見出だしているのです。
『ティール組織』導入のプロセスと課題
この進化型組織の導入においては、
1. 組織の透明化 (パフォーマンスや給料等含めたあらゆる情報の透明化)
2. 意思決定プロセスの権限委譲 (個人の意思決定を尊重しながらも組織のフィードバックも届く)
3. 人事プロセスの明確化 (採用・退職、給料決定のプロセスが独自に明確化)
以上が成されており、メンバー全員が主体的に関われる状態が実現されることが重要です。
(参考記事: ティール組織とは?3つのエッセンスの基本を実務的に丁寧に解説!https://nol-blog.com/what_is_teal_organization/ )
スポーツ界においては、大企業体は少ないため、こうした組織形態の導入も考え方次第だとは思うのですが、伝統的に上下関係を重視する体育会的な体質が、こうした現場重視の組織形態の導入にあたってはネックになりそうなイメージもあります。
試論的に『ティール組織』の考え方を論じてみましたが、スポーツ界の末端に関わる職員や大勢のボランティアの方々が、将来のスポーツ界を担う主役となれるような組織運営について、考えを巡らせてみました。
私が暮らす町では、ラグビーW杯の開催が目前に迫ってきており、市街地にもその予兆が少しずつ目に見えるようになってきました。
ここ半月ほどで色々な変化を目撃することになりそうですので、このnoteでも、スポーツを愛する皆様に変化の様子をお届けできれば、と考えております。
スポーツエッセイスト
岡田浩志