魔法の言葉
12月2日(土)
朝、ちょっと寝坊する。
朝のぜんぶに「おはよう!」とあいさつする。
カカオにご飯をあげる。
修一郎の食事を用意してから、ウーちゃんとルーちゃんにエサをあげて水を換える。
灯油さやさんがやってきた。
修一郎が起きてきた。食事を出す。
今日は出かける予定。3点めの絵はまだ完成していないけれど。
そして またまた、ごはんさんに活躍してもらう。
修一郎の亡き父親は木彫刻家だった。
主に楠の間伐材を利用して、立像のだるまさん「遠賀だるま」を彫っていた。彫刻家になった初期の頃は抽象彫刻を手がけていた。
とてもユニークで優しい人だった。
その大きな抽象彫刻を、夏から少しずつ譲り渡している。大事にしてくださる方々の元へ届いていて、とてもうれしい。
それを ごはんさんが運んでくれている。汗が流れ落ちるような夏の日も、寒くなったこの頃も、もくもくと運んでくれる。彫刻をする前の大きくて重い丸太なども運んでもらった。
今日は大きな衝立を数枚運んでもらうことになっている。
本当は、一昨日で作画が完了している予定だった。でも、〆切を延ばしてもらったので、ちょうど息抜きにもなる。絵を描くのが大好きで、がんばるのも好きだけれど、楽しくがんばることが大事だと思う。楽しくがんばれると、いいものができる。
ということで、今日も ごはんさんの力をお借りする。大きくて重い衝立を、片手に1枚ずつ抱えて サクサク歩いてゆく。
修一郎が、
「遅くなるようだったら連絡してな。ごはんさんによろしく。気をつけて。」と言って見送ってくれた。
パジャマさんが通りかかる。
「片付けですか?」
「はい、ごはんさんが運んでくれているんです。」と、私。
「さっき、運んでるの見えました。すごいですね。」と、パジャマさん。
「ねぇ〜。」と、私。
朝は寒かったけれど、お昼過ぎは ぽかぽかの陽射しだ。また厚着をしてしまった。もこもこの上着を脱いで
しゅっぱーつ!
無事 運びおわり、あれこれ用事をする。
その途中、以前連れていってくれた小さくてきれいなダムの道を通ってくれた。
ダムまでの景色もとてもきれい。山道の木々が色鮮やかに紅葉している。赤、橙色、黄色、金色、茶色、黄緑、緑。さまざまな色で織りなされた1枚のタペストリーのよう。うっとりする。陽射しを浴びてキラキラ眩く輝いている。なんて美しいんだろう。ずっと窓から景色を眺める。「わぁ、きれい…。」と、30回くらい言ったと思う。
ダムの水面が見えてきた。青と緑のグラデーションがきれい。この辺りは山が深く自然が豊かで、きもちが すーっと透明になる感じがする。自分で来るのは難しいので、こうやって連れてきてもらえるのが、とてもありがたいな。と思う。
そのあと、あのとびきりおいしい山つきのお米も買いに連れていってくれた。
用事をすべて済ませ帰路に着く。
途中、ちょっとしたことがあった。その話をしているとき、ごはんさんが
「ありがとうって、やっぱりいい言葉だと思う。魔法の言葉だ。」と、言った。
「うん、そうだね。」と、私もうなずいた。そして、それは素敵な魔法だ。と、思った。
帰りにお買い物をする。修一郎へのお土産、夜食用のおいなりさん。おいしそうな どら焼きを見つけた ごはんさんが、
「これ、境さんに買いましょうよ。」と言ってくれた。
残念ながら乳製品が入っていたので、どら焼きはあきらめた。
家に帰ると修一郎は寝ていた。
カカオが すりすりしてきた。
ご飯をあげる。ぱくぱく食べる。
ウーちゃんとルーちゃんに「ただいま〜。」と言う。
「あっ、みるみる!おかえり〜!」と言っている。ような気がした。
簡単に夕食の支度をする。
修一郎が起きてきた。
「早かったんだね。」と、言った。
今日あったことを話す。「よかったね。」と言ってくれた。
朝、上がらなかった腕が上がるようになっていた。今日、作画と家事を休んだからかな。と思った。よかった。これでまた、楽しく追い込みをがんばれる。
夜、庭に出る。
オリオン座がわが家の上で優しく輝いている。夜中を過ぎると くっきりしてくるのかもしれない。ひんやりとした空気。家々の橙色の灯り。木々のシルエット。水面のように見えるクローバー畑。夜のぜんぶに「おやすみ」と言う。
カカオはいつもの籐の椅子でクークー眠っている。
今日もいい一日だった。