すごい空だった
10月23日(水)
ガタン。カチャカチャ。
目が覚める。植木屋さんがやってきたんだ。
むくりと起き上がる。
植木屋さんは突然やってくる。
電話をして曖昧に日程を決めて、ある日突然 ぱちん ぱちん と音がしはじめる。
エプロンをかぶって外へ出る。
朝のぜんぶに「おはよう!」と、あいさつをする。
「おはようございます。今日、風強いですけど大丈夫ですか?」と、私。
「大丈夫。」と、植木屋さんが笑顔で言った。
「今回、思いきって私の背の高さくらいで切ってほしいんです。」と、言ってみた。
「だめ。そしたら木が枯れる。」と、植木屋さん。
「あー。枯れますか…。」と、私。
「そんなことしたらいかん。」と、植木屋さんが きっぱりと言った。
「はい。じゃ、いつも通りでお願いします。」と、お任せした。
きゅうりさんたちには植木でとても迷惑をかけている。
わが家のお隣って大変だなぁといつも思う。にも関わらず、きゅうりさんもバナナさんも「隣が みるちゃんで本当によかった。」と言ってくれる。仏さまなのだろうか。
きゅうりさん側の通路に枝が突き出し、葉っぱや花は落ち、平屋の屋根まで届く木のてっぺんにスズメバチが巣を作り、その状況が L字型に結構な距離続く。
私には手に負えないので、突き出した枝は手折って、落ちた葉っぱもこちらに投げ入れておいてください。と、お願いしてある。
自分で細い枝を切ってみようと試みたこともある。
腕がぶるぶる震えて、枝切り鋏を カラーンと地面に落とし、腕が痛くて しくしく泣いた。結局 1本も切れなかった。その様子を見てバナナさんがお菓子をくれた。なんて心が広いんだろう。
なので、私の背丈くらいに切ってもらいたかったのだ。
そうすると、ごはんさんが植木を切ってくれるという言葉に甘えられる。
そうすれば、ジャングルにならずに済む。
でも、今まで通りにした。
「枯れる」と言われると、胸が ちくりとする。
いつもの場所にお茶を用意しておく。
ウーちゃんとルーちゃんにエサをあげる。今日は冷凍アカムシ。ばくばく食べる。
絵本のラフを描く。
植木屋さんのお昼ご飯を用意する。お赤飯を炊く。がんもどきの含め煮を作る。
「お昼できましたよ〜。」と、声をかける。
絵本のラフを描いていると植木屋さんがやってきた。
「スズメバチの巣があったよ。取っといたから。」と、植木屋さん。
毎回、スズメバチの巣も取ってくれる。
2時過ぎになったので、さつまいもを 3本オーブンに入れる。植木屋さんのおやつの焼き芋の準備。
「3時のおやつできましたよ〜。」と、声をかける。
植木屋さんは80歳半ば。梯子に上るし杉の木にも上る。剪定バサミはもちろんチェーンソーもノコギリも使う。本当に元気でびっくりする。
「バッテリーが上がった。」突然、植木屋さんが言った。手にはチェーンソー。
植木屋さんはとても無口だ。いつも突然 ぽつりと話す。私はてっきりチェーンソーのバッテリーが切れたと思いこんだ。
「お隣の ごはんさんが帰ってきたら、どうすればいいか分かると思います。」と、私。
よくよく聞いていると、軽トラのバッテリーが上がったということだ。植木屋さんが「コード、コード。」と言っている。
私もパオに乗っていたとき、ライトをつけたまま駐車していてバッテリーが上がったことがある。そのとき、知らない人が太いコードの先端に大きな洗濯バサミみたいなのがついているものを持ってきて、エンジンがかかるようにしてくれた。
そういえば数日前、ごはんさんがシエンタのドアを開けて
「みるさん、この座席の足元にいろいろ道具が入っているから。」と言って見せてくれたのを思い出した。
その中にその洗濯バサミ付きコードが入っていたような気がする。めくってみると、入っていた。
「ありましたよ!」と、私。
「これ、これ。」と、うれしそうな植木屋さん。
80歳半ばの植木屋さんが軽トラをひとりで押してシエンタに近づける。すごいなぁ。でも、あとから考えるとシエンタを動かせばよかった。そもそも、コードが長くて動かす必要もなかった。
「ここ、開けてくれる?」と、植木屋さん。
ボンネット…開け方がわからない。19年乗っていたマーチも自分でボンネットを開けたことがない。
植木屋さんが開け方を教えてくれた。あとは自分で繋いでエンジンをかけていた。すぐかかった。よかった。
修一郎の食事をお弁当仕立てにして作っておく。
夕方、お仕事から帰ってきた ごはんさんと、ご近所の Iさんに栗を渡しに行く。鬼皮も渋皮も剥いて冷凍していたもの。
Iさんはお料理上手でお菓子も上手に作る。ごはんさんが手渡した銀杏もとても喜んでくれたらしい。
「喜んでくれてよかったねー。」と、話しながら戻る。
空が明るく感じて見あげる。すごい空だった。燃えるような薔薇色の空。美しくて幻想的でコワイくらいだ。
「あの空見て!」と、私。
ごはんさんが振り返った。
「すごい!オレ、こういうの大好き。」
「知ってる。私も大好き。」
「写真、みるさん。」
「そうだ!」
ふたりで夕焼け空の写真を撮った。ぞくぞくっとするほど魅力的な空だった。
最近、近所をくるくる走っている若い男性がいる。
「誰だろうね。」と、話していた。その人が今日も走りはじめた。
顔を見ると、Nさんの息子さんにそっくりだ。そっくりというのは最後に話したのが彼が小学生のときだったからだ。
「こんにちは。」と、笑顔の男性。
「こんにちは。Nさんとこの息子さん?」と聞いてみる。
「そうです!」と、ますます明るい笑顔。
「大きくなったね!」
「21歳になりました。」
ダイエットのために走っていること、仕事のこと、引っ越しのこと、弟さんのこと などを話してくれた。時の流れは早いなぁ。
植木屋さんが帰る準備をする。続きは明日。お昼の残りを包んで渡す。植木屋さんは一人暮らしなのだ。
ごはんさんと今日も くるくる寿司に行く。
ごはんさんと私は、気に入ると通い詰めるところがある。
「みるさんが食べれるものが増えてほんとうれしい。」と、ごはんさんが何度も言ってくれた。
本当に喜んでくれているのが伝わってきて、私もとてもうれしかった。心からありがたいなぁと思った。
おなかいっぱいになって家に帰り着く。
絵本のラフを描く。
夜、庭に出る。
空一面の雲。久しぶりに虫の大合唱。
夜のぜんぶに「おやすみ」を言う。
今日もいい一日だった。