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台風

8月29日(木)
朝、目が覚める。風の音がする。台風だ。しばらく ごろごろして むくりと起きあがる。

玄関の戸を開けて朝のぜんぶに「おはよう!」と、あいさつをする。
風が びゅうびゅう吹いている。雨も降っている。木の枝が揺れている。

ウーちゃんとルーちゃんにエサをあげる。

毎週金曜日に配達してくれるコープさん。台風の影響で金曜日の配達はお休みになった。その代わりに土曜日に配達してくれることになった。

そのことを きゅうりさんに伝えなくてはいけない。コープのOさんが何度電話をかけても繋がらないと言っていたのだ。

わが家の裏にある仕事部屋の戸と、きゅうりさんのお家の勝手口がちょうど向かい合っている。その距離1〜2mくらい。木の枝をくぐって勝手口のドアを開ける。

「こんにちは〜。」

ちょうど きゅうりさんがキッチンにいた。

「みるちゃん、どうしたん?」と、きゅうりさん。

「台風だからね、コープさん明日お休みで配達は土曜日になるそうです。」と、私。

「土曜日ね、みるちゃん ちょっとあがり。」と、きゅうりさん。

「おじゃましま〜す。」と、サボを脱いであがる。

「みるちゃん、義父さんの彫刻見てん。」と、きゅうりさんが言った。奥のお部屋について行く。

広い床間にきれいに彫刻が並べられていた。つやつやしている。いつも撫でてくれているんだろう。七福神、だるまさん、龍や鷹もあった。

「わぁ、すごい。つやつやしてますね。いい笑顔。いまにも動き出しそう。」と、私。

「うん、いつもどうぞお守りくださいって撫でようと。」と、きゅうりさん。

お供物も置かれていた。隣の出窓にはレースの布が敷かれていて、そこに亡くなったご主人の遺影があった。その遺影を見て どきりとした。きゅうりさんの息子さんパジャマさんと瓜二つなのだ。親子だから似ていて当たり前なんだけど、本人にしか見えない。

「パジャマさん、お父さんにそっくりですね〜。」と、私。

きゅうりさんが あははと笑った。
ご主人の写真の隣にすごく古い写真が飾られていた。高校生くらいに見える。じっと見ていると、

「この子はじーちゃん(義理父)の先妻の息子。21歳で戦死したたい。どこにも引き取り手がなかったけ、うちで引き取ったと。」と、きゅうりさんが言った。胸がきゅうっとなった。

お参りして少しおしゃべりして帰ろうとすると、きゅうりさんがお菓子のどっさり入っている段ボール箱の中から瓦煎餅を選んで持たせてくれた。そして、

「ちょくちょくおいでね。隣やからね。」と、言ってくれた。

勝手口を開けると風が びゅうと吹いた。

「気をつけてね。」と、きゅうりさんが言ったので

「はい、気をつけます。遠いからね。」と、言って ふたりで笑った。

絵を描く。アクリル絵具のブルーグリーンとホワイトを混ぜて優しいブルーグリーンを作る。

集中して描く。

食事の支度をしていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。台風のときに誰だろう?と、思いながら玄関へ行く。

ずぶ濡れになった郵便局の配達員さんが立っていた。メガネもずぶ濡れで曇り、髪の毛もずぶ濡れで水が滴り落ちている。首に巻いたタオルもずぶ濡れだ。

「きゃ〜、こんなときに配達してくださってありがとうございます。大変大変。大丈夫ですか?乾いたタオル持ってきます。」と、うろたえる私。

「大丈夫っす。大丈夫。」と、配達員さん。普段あまり喋らないし笑わない人なのだが、どういうわけか今日はすごい笑顔で楽しそうに見える。不思議だ。

「気をつけて。」と、見送る。片手をあげて雨の中赤い車まで走って行った。

夕方、ごはんさんとお買い物へ行く。台風の日に外に出るのは初めてだ。ドキドキする。ごはんさんは一向に気にしていないふうでいつも通り運転している。

重いお水を運んでくれた。私は 2Lのお水 1本持つのがやっとだ。ごはんさんは 2Lのお水 6本セットを平気で片手で持つ。いつも驚く。助かるなぁ。

川が増水していた。草や稲がミステリーサークルのようになっている。枯れ葉もたくさん舞っていた。

家に帰り着く。修一郎は寝ていた。
あれこれ書き物をする。

夜、玄関の戸を開けて外を見る。風がびゅうびゅう。雨がザーザー。台風だなぁ。と、思う。どこにも誰にも被害が出ませんように。と、今日も願う。

屋根と壁があることに感謝のきもちでいっぱいになる。夜のぜんぶに「おやすみ」を言う。

これから眠くなるまで絵を描こう。

今日もいい一日だった。

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