舞台メディスンに酔いしれる。
田中圭さん主演の 舞台「メディスン」の感想です。
私が観劇したのは全54公演中 3公演。兵庫県立芸術文化センターでの土日の2日間の観劇。3公演も観たけどなかなかに難解なストーリーをちゃんと理解するのは到底無理で、ただただ演技に圧倒され まさに体感する舞台でした。
事前情報など SNSの感想など見ずに ひたすら体感した感想です。
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幕開けと登場
いつの間にか部屋の前の廊下にいたその人は既に田中圭さんではなかった。部屋を確かめてから入ってくるその人物はどこか普通では無い気配がする。猫背で オドオドした様子で、ちょっと挙動不審めいたパジャマ姿の男性は登場した瞬間から紛れもなくジョン・ケインだ。
その日はジョンにとって一年に一度のチャンスの日。パーティーで散らかされた部屋を片付けるのに時間を割かなければならなくて、不機嫌にゴミを集めて捨てる。
床に張り付いたテープに足を取られたり、風船や飲み物のカップがのった卓球台を部屋の隅に寄せたり。焦りと緊張で顔をひきつらせながらの表現は圭さん特有の動作の味が出ててとっても可愛い。
ここでは風船を手で割るシーンがある。両手で必死に割ろうとしても中々割れない。お顔はビクつきながら風船を両手で割るその顔が可愛いし観客の笑いを誘う。3回観た中で一度は割れずに足で踏みつけて割る。ちょっとしたアクシデントも生の舞台ならでは。
ジョンがマイクを手に質問者に答える時はとにかく 話を聞いて欲しい気持ちが全面に出ている。
だが、もう一人の(自分の)声に阻まれ 途端に閉じこもった表情でヘッドフォンをつけてうつむく。
表情は暗く反転。声に出してはいないが口元は何か呟いていて、それが初見ですごく気になった。後で考えると質問者に答えている姿だったと思う。ただ、その横顔がとてもとても辛そうだった。
とにかく明暗の高低差がすごい。
一気に光の届かない海底に沈む石になってしまったようなジョン・ケイン
舞台のセリフを借りるならば
本当に興味深い。
このストーリーの本当の意味は分からないが自分なりの解釈でとにかく感じたままにいようと 私は舞台の中にのめり込んでいく。
メアリーズの登場。
楽しげな音楽や やり取りは暗い気持ちの中に笑いを生み気持ちが救われるように思う。が、同時にジョンのどこか救われない姿に対比感じる。
そのバランスがとても良かった。
印象に残ったシーン
メアリー2(富山えり子)が舞台上の衣装部屋(?)のドアを開ける度に暴風に襲われるシーンが何度か出てくる。
ある種の報復のように
コントで出てくるような滑稽さに笑ってしまったが メアリー2だけが感じている困難(闇)を具現化してるように思えた。
メアリー2のどうしても抗いたい。乗り越えたい。強い意志のようなものを感じる。
暴風の間はジョンやメアリー(奈緒)は気づかない。その様子がさらに奇妙さを際立たせている。そして彼女の動作は観る度に違っておもしろい。この演出は何度も観たくなる。癖になりそうだ。
自分の過去の出来事を書いた台本をもがき苦しみながら話すジョン。嘲笑うかのように滑稽に演技をするメアリーズ。
ドラム奏者はドラムだけではなく弦や鳴り物を器用に使って効果音をもたらし、生々しく表現している。
私は序盤からずっと不穏さを感じていた。隔離されたここ(施設?)から出られるか、否かの選定をされているようにもみえた。ここに入った要因の過去の話を話さなければいけなくて、それはジョンにとって、とても辛い作業に違いなかっただろう。
後にメアリーがこの仕事に対する疑問と嫌悪を抱き メアリー2に対して抵抗していく。その移り変わりが私にとって救いになっていった。
中の外に出てヴァレリーと会い、小さな希望の話をする。しかし監視員リアムに阻まれ引き離されるシーンはとても残酷だ。希望が輝くほど叶わなかった時の失望は暗い。その後ヴァレリーはどうなったのか?深読みすればするほど自分の想像に吐き気がしそうになる。精神的ダメージを負った人に追い打ちをかける容赦ない世界。それは恐怖でしかない。
メアリーはジョンが自由になることを願い、メアリー2は そうさせたくない。実は監視者リアムを演じるメアリー2は常に監視されている立場という皮肉。
どこか過去の自分の記憶に重なるような設定で メアリーとメアリー2のどちらにも共感をおぼえた。
理性と野生。意識と潜在意識。
メアリーズのそういった属性は自分の中にもある二面性だ。
クライマックス
ジョンは辛い過去を話し執拗に答えを求められ、部屋の中は同じ質問者の声やそれを答える自分の声を繰り返し聞かされ、さまざまな色で照明が変化していき耳をつんざく雑音と自分の叫び声が部屋(頭)の中で反響しあい、そこにいれば誰であっても狂ってしまいそうだった。それこそ食事と言われる薬よりもずっと劇薬だろう。
そしてジョンは自らここに留まることを選択してしまう。
ジョンを演じる田中圭さんの叫ぶ動作や悲しみの表現は本当に素晴らしかった。まるで魂を削るように演じていた。
毎回あの激しさを演じていたら心配になるくらい消耗しているはずだし、3回目の観劇では喉がかすれて より一層の悲壮感が伝わってきたほどだった。
この部屋自体が誰かの頭の中ように思えた。ジョンが否定するジョンの頭の中。「僕の頭は僕のじゃなかった」のセリフ。
では一体?僕は何者なの?存在する意味は何?
ジョン・ケインの悲痛な叫びがこだまする。(今もまだ続いている気がする)
そして質問に答える年老いた声を聞いた時に本当にゾッとした。
「僕は一体いつからここにいるんだろう」
その言葉の後にとてつもないスピードで老けていくジョン(田中圭)の顔を見た気がした。
ラストへ。
メアリーと同じ方向で座り、遠くを見つめる2人が涙を流していて胸が締め付けられた。
ゆっくりと暗転していく光の中で手を握り合い、うっすらと笑ってる2人の顔がすごく美しくて いつまでも暗い中を見えなくなるまで目を凝らしていました。
消えないでって心で願いながら。
そしてジョン・ケインの幸せを願いながら。
舞台は、約90分。
体感的に早く終わった気がしました。でも内容はギュッと詰まってテンポも早くて濃厚かつ重みがありました。
このあとの余韻に耽ける時間がすごく長かったし、未だに終わっていない気持ち。
頭の中で思い返したりその瞬間の気持ちを考えたり。まだしばらくはメディスンに酔いしれていたい。
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3回観ただけでは足りないかもしれませんが 正直な気持ちと感想を書いてみました。
拙い文書をですが最後まで読んで頂きありがとうございました。