おっさんだけど、仕事辞めて北海道でチャリ旅するよ\(^o^)/ Vol,33 感性
2024 0807 Wed
去年の5月31日に退職し、次の日の昼過ぎにはホーチミンに降り立っていました。
なんの計画も予定もない旅です。成田から一番安く飛べる外国だったから…。ホーチミンを選んだ理由はそれだけです。
“海外を旅したい”
その気持ちは、昔からあったように思います。ただ、
“働き始めれば、その実現は現実的ではない”
そうも考えていました。学生時代に中国、インド、ネパールにそれぞれ1か月ずつ旅しました。それで終わり。そう思っていましたし、実際に四半世紀もの間、海外旅行はおろかパスポートさえ持っていませんでした。
4月の最終週に退職の意向を会社に伝え、たしかその足でパスポートの申請に立川のパスポートセンターに出向きました。そして吉祥寺でバックパックを購入し…。
旅の準備はほとんどそれくらいしかしていません。とにかく自分の持ち物を処分することで手一杯でしたから…。粗大ごみとかバイク関連とか、東京はゴミの分別がものすごく面倒臭いのです。
四半世紀ぶりの海外。というか、なんなら飛行機に乗ることさえ四半世紀ぶりなのです。成田空港でのチェックイン時にこんなことを言われました。
「ベトナム出国の航空券をお持ちでない方は、入国を拒否されることがあります」
マジで!? 動揺するわたしに、職員の方は推薦状のようなものを渡してくれました。
「もし入国に問題があると言われたら、これを職員にお渡しください。」
推薦状を発行してもらっている間に少しだけ冷静さを取り戻したわたしは、声のトーンを落として尋ねました。
「それ、マジな話、入国できないなんて有り得るんですか?」
「…いえ、ほぼほぼ大丈夫です」
…ですよね。ホナそんな紙切れ要らんがな。とは言いませんよ。わたしだってもう大人ですから。
それでも、ホーチミン空港に到着し入国審査のゲートを通過するまで、旅が始まるという確信が持てませんでした。
“無事に通過できますように”
秘かな思いを胸に隠し、余裕しゃくしゃくの笑顔で入国審査官に挨拶しました。
…と、僅か数秒、なんの問題もなくパスポートを返され、入国ゲートを指し示されました。
「Thanks」
澄ましてそう応じましたが、頭のなかであのテーマが爆音で流れ始めました。『地雷を踏んだらサヨウナラ』。物語の大詰め、なんとも言えない表情の一ノ瀬泰造がチャリを漕ぐ、あのシーンのあの曲です。
ATMでベトナム通貨であるドンが下ろせない、ようやく到着したホステルが監獄みたいで辛すぎる、など多くの問題を抱えながらも、なんとかスタートしたベトナム旅。ベトナムの歌舞伎町とも言うべきブイビエンストリートの入り口に陣取るホステルに宿泊し、記念すべきベトナムでの初めての朝を迎えたわたし。
ホステルの前の道の出店で朝飯を喰っているとき、一人のおっさんが声を掛けてきました。
「日本人?」
ウェイと名乗るそのおっさん、どうやら観光バイクタクシーの運転手のようです。あそこ行った? ここ行きたい? など矢継ぎ早に質問するおっさんに、わたしはきっぱりと伝えました。
「いえ、結構です」
OK, OK. 意外にも、おっさんはあっさりと引き下がりました。
「でも、気が変わったらオレを呼んでよ」
もちろんそう言うのも忘れませんでしたが…。
昼間は市場やストリートを冷やかし、夜はブイビエンで楽しみ…。
次の日の朝、飯を喰おうとホステルを出ると、昨日のおっさんがもうスタンバイしていました。
「乗らないよ」
そう突っぱねるわたしに、おっさんは笑顔で言いました。
「OK, OK. 朝飯を一緒に食べよう」
結局おっさんに根負けし、というか別にそこまで頑なに断る理由もなかったので、次の日におっさんのバイクで観光し、そして…。最終的におっさんと本気で罵り合う大げんかに発展してしまうのです。
…いま考えると、おっさんの言い分もわからないではないんですな。だがしかし、わたしにもわたしの言い分がある。
それはそれとして、この日のホーチミン観光で、わたしはあることにかすかに気付き始めるのです。
“…観光地ってあんま面白くなかったな”
言ってもおっさんは観光ガイドとしてプロですから、それなりにツボを押さえたホーチミン紹介をしてくれたはずです。しかし、正直な感想として、詰まらなかった。あんまりそそられないんですな、いわゆる観光地ってやつに。
マジで興味ないんですよね、型にハマったものが。
「ホント感動しました!」「人生で一番泣いた映画です!」
…はあ?
「開店前から行列ができる人気のスイーツ店です」
…オレには関係ないわ。
「いま、東京で一番熱いスポットです」
…じゃあそこ通るの避けなアカンな。
ひねくれているとか尖っているとかではないのです。単に自分にとって詰まらない。要するに、好みの問題です。
ですから、図書館で『地球の歩き方 ベトナム』などアジア編を数冊借りてきたのですが、ほとんどページを開くことなく返却しました。観光客に定番のスポットとか、観光客が集うレストランとか、観光客用の民芸品とか、そんなのばっかりだったからです。いや、そらそうやろって話ですが…。
知床半島の付け根にある街、斜里には、…そうですね、4~5泊くらいしました。天候が崩れたからということもあるのですが、一番の理由は、キャンプ場の居心地がよかったからです。キャンプ場自体は普通かそれ以下なのですが、管理等の設備がサイコーだったのですよ。
ポイントその1, 自由に使える広々としたラウンジ。蚊に集られやすいわたしにとって、こういうスペースは本当に有り難いのです。
ポインその2, コインシャワー。近くに日帰り温泉はあるのですが、チャリ乗りにとって、どんな天候でもシャワーを確保できるというのは心強いものです。
ポイントその3, ロッジとライダーハウスも同じ敷地内にあり、ラウンジでそれらの人たちと交流できる。なんなら毎晩BBQ場で、たこ焼きやカレー、ジンギスカンなどの日替わりPartyがあるのですが、それらに参加するほど社交的ではないわたし。そんなわたしでも、ラウンジのソファに座ってweb日記を書いていれば、幾人かの旅人と仲良くなれるのです。
ポイントその4, これがダントツなのですが、フリーのキッチンがある! 旅に出て早2か月余り…。晩飯はその多くが自炊でした。キャンプ場に到着してテントを張り、温泉で汗を流したら、もうそれから街に繰り出す気力も体力も時間も残ってないからですな。
わたしのする自炊。たとえば献立はこんな感じです。発芽玄米+ビタバァレー計2合、納豆3パック、きゅうりのQちゃん的な漬物、ミートボール、以上。たとえば、というよりも、最後2つの漬物と肉がちょこっと変わるだけで、基本的にほぼ毎晩同じものを喰っていました。狭いテント前室と限られたクッカー、くわえて調理後に出るゴミの量を考えれば、これが精一杯なのですよ。でも、同じものを喰い続けるのは全然苦痛ではないし、常に腹ペコですから毎晩「旨え旨え」と満足していました。
それでも…。納豆に山ほどの青ネギと卵を入れたい。フライパンで肉と野菜を火力MAXで炒めたい。その願望は常にありました。そしてそれは、3晩連続で叶えることができたのです。
そんな斜里での日々は、しかしながら悪天候の毎日でもありました。晴れの日は1日くらいしかありませんでしたから。
朝からの霧雨、予報では午後にかけて本降りとなるその日、わたしは張り切ってチャリに跨りました。
「こんな日に出掛けるなんて、ホンモノのチャリ乗りですね」
同世代のチャリ乗りにそう称賛されましたが、そうじゃないんですな。暑さに異常に弱いわたしは、晴れた暑い日にはチャリに乗りたくないのです。夏の雨に濡れるのは全然ウェルカム、テントで寝るときに身体が乾いていればそれでよいのです。
前日に油を注したチャリは降りしきる雨をもろともせず、常に雨を浴び続けている脚は適温で回転運動を続け…。グングン高度を上げていく我がGTでしたが、最後の林道は急勾配の砂利道。やむなく道端にチャリを停め、パチモンのクロックスをキュッキュ鳴らしながらわたしは歩き始めました。
と…。なんか脚がチクッとするなと思ったら、なんと! アブの野郎が集っているのです。
「おい!」
声に出して叫びました。話が違うやんけ! 本来アブというのは盛夏に清流の傍に湧く昆虫です。北海道という特殊な土地柄や地形上、山岳部の道路に湧くのは我慢します。が、しかし、雨の日にも活動するというのは許しがたいルール違反です。
「おまえら、雨の日はジッとしとんと違うんかい!」
怒りを込めてアブの野郎を叩き殺します。もちろん集るアブも1匹、そして間をおいてまた1匹。弱弱しく脚にくっついてくるだけなのですが、それでもそれは理解しがたい行為です。本降りで、汗はかいていないし、もし汗をかいても流れているはず。匂いにしても、こんな状況で匂うものなのか? それとも、それほどにわたしが臭いのか?
アブを叩き殺しつつ、土砂降りに近い雨のなか、ずぶ濡れで林道を歩くわたし。ときおり抜かしていくクルマの運転手は、「マジで?」という表情を隠せないでいます。
そんなこんなで1時間後、ようやくお目当ての池に到着しました。結果は写真を見てください。
“…なんだこれ?”
北海道に上陸して2か月余り…。まずはその涼しさに感動し、続いて真っすぐに伸びる道路、遮るもののない抜けのよい景色に感動しました。
ガイドブックを持たず、なんの予備知識もないまま、自らの勘を頼りに渓を探し、海を眺め、観光地を素通りしてきました。
北海道で初めて。そう言ったら大袈裟に過ぎますが、それくらい観光地に行かないわたしが訪れたバリバリの観光地である神の子池。チャリを2時間漕ぎ、林道を1時間弱歩いてようやく到達した神の子池。
ガイドブックに載るような観光地がこれのくせに、普通のなんでもない場所に絶景が広がる北海道。
いやはや、桁が違いますな、完全に。