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おっさんだけど、仕事辞めてアジアでブラブラするよ\(^o^)/ Vol, 29 思惑
インド ブッダガヤ 2日目
2023.0704 Tue
1996年の冬、わたしは友人とともに中国に自由旅行に出掛けました。当時巷にあふれていた「自分探しの旅」などというものを鼻で嗤いながらも、バックパックを背負って外国の路地を歩きまわるバックパッカーに憧れていたのです。
上海で、とある男性と出会いました。
劉と名乗ったその男性は、歳の頃なら27~28歳、かなり流暢に日本語を操り、わたしたち二人にこう声を掛けてきました。
「わたしは日本語を学んでいます。ぜひとも上海の街を案内させてください」
時刻は夕方、ちょうどわたしたちは上海の寺院を訪ねるところでした。友人が少し警戒していることを知りつつも、わたしは快諾しました。
「ガイドは要らんし当然ガイド料も払わんけど、それでええなら頼んますわ」
劉さんは、そのあたりにある有名な寺院に連れて行ってくれ、そして歴史や由来を丁寧に説明してくれました。
そろそろおなかが空く時間になってきた頃、わたしは劉さんにこうお願いしました。
「どっか旨い飯出す食堂知りません?」
二つ返事で引き受けてくれた劉さんは、上海のど真ん中にあるマクドナルドに連れて行ってくれました。
「これ系ってなんぼでも日本にあるから、もっと地元の人で賑わう上海料理が喰いたいンスよね」とはいくら生意気盛りのわたしでも言えず、3人は旨い旨いと言いながらマクドナルドを食べました。
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だからだと思うけど、インド人って意外と肥えた人が多い。というか、腹が出てる人が多いです。
※画像は本文と関係あありません。
当時の上海はスクーターが大流行中で、
「スクーターのこと、上海ではスズキって言うんですよ」
など、ローカルならではの豆知識などもいろいろ教えてもらいました。
「オレ、バイクとクルマ持ってるんスよ」
話の流れでなんとなくそう言ったとき、一瞬だけ劉さんがなんとも言えない表情をしたことにわたしたち二人は気付き、そして二人ともそのことには触れませんでした。劉さんほど頭の良い人なら、それは単に日本と中国の経済的発展具合の差であるということを理解できないはずがありません。それでもなお、学生の身であるわたしがアルバイトの給料でクルマとバイクを所有できることに驚き、そしてある種の感情を抱いたことは確かでした。
それとなく、自分のクルマが非常に安く手に入れたボロボロの小さなクルマであること、バイクにいたっては3万円で先輩から譲ってもらったオンボロであることを説明しました。※1 劉さんはわたしの説明を黙って聞いていました。
劉さんが“5分=ごふん”のことを“5分=ごぷん”と言っていたこと、いくら私たちが払うと主張してもマクドナルド代を全部払ってくれたこと、丸眼鏡を掛けた柔和な表情、それらはいまでも鮮やかに覚えています。いまのわたしなら、もう少しマシな対応ができたかと思います。でも、そんなクソ生意気なわたしたちと数時間を笑顔で接してくれ、劉さんは帰っていきました。
別れの間際、わたしは劉さんにこう質問しました。
「なんでそないに日本語上手いんスか?」
学校に通えず独学で学んだと言っていた劉さんは、笑顔でこう答えました。
「ん-、生きるため」
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※画像は本文と関係あありません。
ブッダガヤ行きのバスに乗るためコルカタの街をバックパックを背負って歩いていると、信号の手前であるインド人男性に声を掛けられました。
「あなた、昨日インド博物館に行きましたよね?」
外国語訛りにしては充分に上手な日本語を話すその男性は、昨日の昼、ローカルの男性と話しながらインド博物館に向かうわたしを見掛けたそうです。その日本語の上手さ、その物腰から、彼はわたしに集ろうとする輩ではないと判断しました。そうして、インドの異常に長い赤信号を待つ間、彼との会話を楽しみました。ブッダガヤに行くにはバスも良いが電車はもっと良い、などの有益な情報も聞き出すことができました。
「あなたはインドに来てから出会った人の中で、一番上手に日本語を話しますよ」
自分はお世辞を言うタイプではない、と前置きしてから言うと、彼は嬉しそうに笑いました。明らかに専門的に日本語を学んだであろう、もしくはそれと同等の内容を独学で学んだであろう彼は、これまた明らかにわたしに集ろうとするインド人とわたしが話しているのを見て、なにを思い、なにを感じたのでしょうか。
※1 当時は日本流モータリーゼーションのある種の最盛期にあり、学生の身でありながらクルマやバイクを所有することは、車種を選ばなければそこまで難しいことではありませんでした。
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トッポい兄ちゃん。紅い髪が若いですね!
※画像は本文と関係あありません。