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おっさんだけど、仕事辞めてアジアでブラブラするよ\(^o^)/ Vol, 77 内省
テヘラン
2023.1013 Fri
すべては心の持ちようにある---。
格好つけてるわけでもなく、悟りを開いたわけでもなく、ましてや変な宗教にかぶれてしまったわけでもありません。
しかし、わたしのようなおっさんがバックパックひとつでアジアを巡り、いろんな人に助けられ、また逆にいろんな人にカマされ、様々な環境でこれまでの常識では考えられないコトに巻き込まれていく過程で、そういう心持ちになるときがあるのです。
ごく稀に、ごくごく稀に、本当にマジで一瞬ですが…。
相手に嫌な気分にさせられたとき、はたして自分は相手を嫌な気分にさせてはいなかったか?
相手がわたしを侮辱してきたとき、はたして彼は、最初からそういうつもりでわたしに近づいてきたのだろうか?
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『人生万事塞翁が馬』
このことわざは、本当にその通りだと思います。なにがどうなるかわからない。いまはアレな感じのことも、転がり続ければ良いことになるかもしれない。逆もまた然り。
わたしの場合、もちろんそこまでの域に達することができないので、とりあえずは “できるだけ機嫌よく” “感じたままを表現する” ことを心掛けています。
ニコニコしながら歩いて、目が合えば挨拶。そのうえで楽しいことがあればガンガン乗っかるし、相手がカマしてきたら容赦なくキレる。そういうことですね。
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イランに入国し、テヘランで過ごすこと3日目。わたしは次の目的地、エスファハーンに移動することにしました。
朝食を食べ終え、英語ペラペラの受付嬢に確認すると、長距離バスステーションは地下鉄で行けるとのこと。しかも、最寄り駅はホステルから歩いて1分の場所にあります。
さすがに迷うことなく地下鉄の駅に到着。駅員に
「チケットはどこで買うのですか?」
と尋ねると
「Free!」
彼は改札出口を指差しました。中央アジアの地下鉄もそうですが、チケットは入場時のみ必要となり、退場の際はチケットを通すことなく改札を素通りします。つまり彼は、
「チケットなんて要らねえから、改札出口から入りなよ!」
と言ってくれたのです。
たしかに通勤ラッシュが終わるであろう9時過ぎに地下鉄に乗ったのですが、はたして車内は混んでおらず、バックパックを隣において席に座ることができました。しかも英語表記の案内板まであり、なんとストレートに目的の駅までたどり着くことができたのです。※1
おまけに、地下鉄出口からバスステーションまではほぼ一直線。
バスステーション入り口で
「エスファハーン」
とだけ言うと、3人くらいの男性がリレー方式でチケット売り場まで連れて行ってくれました。約450kmの移動で、チケット代は驚異の350円!
そうして、10分後にバスは出発したのです。
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“16時すぎにはエスファハーン着かな…?”
バス座席を横から見て2+2が通常ですが、このバスは2+1。広々快適の座席でうつらうつらした後、起き抜けに時計を確認してそう思ったのですが、13時半過ぎにカーシャーンという街に停車しました。バスチケットを買う際に、
「カーシャーン、エスファハーン!」
と確認するように連呼されていたので、
“ほうほう、ここで停車して乗り降りする奴らが居るってことね”
くらいに構えていたわたし。と、車掌がわたしに「降りろ」と伝えてきました。
“え…? どういうことや?”
訳の分からぬまま貴重品だけ持ってバスを降りると、車掌と運転手が、なにやら風体の悪い男と言い合いをしています。そして、風体の悪い男がわたしの腕をつかんで歩き出そうとしました。
「待て待て待て待て…」
猪木張りに、わたしは彼に言いました。
「おまえ、タクシーの運ちゃんやろ? おれ、タクシーは乗らんから! だいたいバスチケットもう買ってるし、このバスでエスファハーンに行くんやから」
「いや、このバスはエスファハーンに行かねえよ。これからテヘランに戻るんだ。だから、おれのタクシーで…」
マジで? 運転手を振り返ると、運転手は頷きました。
ええ? どういうこと?
ひとまずこのバスがエスファハーンに行かないことだけは確かなようなので、バックパックを取りに座席に戻りました。そうして再びタクシーの運転手に向き直ります。しかし、タクシーの運転手はわたしが話し出す前に意外なことを口にしました。
「バスのチケットを手に入れよう」
え? どういうこと?
なにがなんだかわかりませんが、バスの運転手もこれには賛成のようで、結局3人でチケット売り場へ向かいました。この時点で、車掌は脱落しています。
チケット売り場ではタクシー運転手が主導となって交渉しています。1分後、タクシー運転手がわたしに説明し出しました。この男も酷いブロークンイングリッシュなのですが、かろうじて
「Eight o’clock」
という単語が聞こえました。
「待て待て待て待て…」
再び猪木の口調で奴を詰問しました。
「8時ってどういうことやねん? いま3時前やのに、なんであと5時間もかかるねん?」
「違えよ!」
彼は言い返しました。
「8時にバスが出発するんだ。ちなみに、エスファハーン到着は夜中の2時な」
おいおいおいおい…。おもわずその場にへたり込みそうになるわたし。そんなわたしを知ってか知らずか、彼は続けました。
「だから、夜の8時までこの街をおれが案内してやるよ。おれは観光タクシーをしているんだ」
「No! I don’t need taxi. I’m waiting my bus here!」
わたしがきっぱり拒絶すると、ヤツはニカッと笑ってこう言いました。
「OK!」
そして、本当にその場から立ち去ってしまったのです。
なになになになに? なにがどうなってんの? 誰かキチンと説明して!
いつも間にかバスの運転手もいなくなっており、しばしその場で呆然と立ち尽くしていました。
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10分後、ほんの少しだけ気を取り直したわたしは、google翻訳でチケット売り場のお姉さんに尋ねました。
「この夜8時のバスって、なんでエスファハーン到着が夜中の2時まで掛かるの?」
「違うわ、エスファハーン到着は夜の11時よ」
なるほど。3時間で到着するので、距離との整合性はとれています。
とりあえず、売店で飯を買うことにしました。
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チョコレート系のお菓子で糖分を取り、少し考えました。
おかしい。…やはりどう考えてもなにかがおかしい。
ふと顔を上げると、目の前の椅子に男性が座っています。年のころなら30歳手前。浅黒い肌に知的な眼差し。
“彼は使えるヤツだ!”
わたしの勘が叫びました。
「これさあ、ここ夜の8時出発でエスファハーンに11時到着のチケットで合ってるの? なんかおかしくない?」
彼はわたしのチケットをしげしげと眺めた後、こう言いました。
「8時発、11時着のチケットで合ってるよ」
落胆するわたし。そんなわたしを彼はどれくらいの間見つめていたのでしょう?
ふいに、彼に声を掛けられました。
「なんかさ、おかしくない? なんで夜の8時なの? あんた、なんか問題抱えてるよね?」
20秒後、彼の質問の意図に気付きました。確実性を期すためgoogle翻訳を使いつつ、知らぬ間にブロークンイングリッシュで話し掛けていました。
「If bus have, as soon as I want to go Isfahan!」
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つまり、こういうことだったのです。
朝10時にテヘランでバスチケットを買った際、
「カーシャーン経由のエスファハーン行き」ではなく、「カーシャーン行きの先発」のチケットを買ったのです。男たちが確認していたのは、
「先発カーシャーン止まりだけど、いいよな? エスファハーンまでは、そこからチケット買い直してくれよ。どっちみちバスはすぐに見つかるからさ」
しかし、カーシャーンでタクシーの運転手がその計画に割って入った。
「どうせならカーシャーンで観光してったらいいじゃん。今夜中にエスファハーンに着けばいいんだろ?」
そんな感じでバスの運転手も丸め込み、エスファハーン行き最終バスの時間を確認し、わたしにそれを伝えた。なにがなんだかわからないわたしは、バスがそれしかないと思い込み、そして腹立ちまぎれにタクシーの男に向かって「とにかくおまえは去ねや!」と伝えた。そうして、本当にタクシー運転手は帰り、わたしはチョコレートを喰いながら呆然としていた。これが事の真相ですね、たぶん。
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その後、無事15時発イスファハーン行きのバスに乗ることができ、22時現在、静かで快適な宿のチャイハネでこの文章を書いています。
わたしは思います。もしかして、あのタクシードライバーって、わたしにカーシャーンの良さを知って欲しくてあんなことをしたのかなって…。彼はカーシャーンの街を愛し、1人でも多くの人にかの街の素晴らしさを伝えたかった。決して私利私欲のためでなく…。
…ちょっと無理がありますね。
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※1. これまで旅行した国のなかで、移動に関してはダントツでイランが快適です。テヘランなど人口はめちゃくちゃ多いはずですが、ローカルバスや地下鉄がギュウギュウに混んでいるところを見たことがありません。というか、ガラガラの路線バスや空席の有る長距離バスなんて初めて見ましたよ、外国で。
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