おっさんだけど、仕事辞めてアジアでブラブラするよ\(^o^)/ Vol, 48 技術
タジキスタン ドゥシャンベ 2日目
2023.0819 Sat
「30kmですか? それならなんとか…」
なんとかなる訳がありません。どう足掻いてもあと20km、いえこの先続くであろう登り道のことを考えると、せいぜい15kmがよいところでしょう。
「違う違う。トンネルを越えてから30kmよ」
ロードバイクの前後に大型バッグを装着し、万全の装備でパミールハイウェイに臨んだであろうその女性は、苦笑いをしながらそう訂正しました。
「So, You must do hitch hike.」
…ですよね。わたしも苦笑いで返しました。もっとも、わたしの場合は笑っている場合じゃないのですが…。
トンネルを越えるまであと40km近く。しかも基本的にはずっと登りが続きそうです。
時刻は15時を回っています。決断するなら今しかない。というか、ヒッチハイクしないとダメです。凍死するまでは至らないかもしれませんが、それに準ずるダメージを負うことは必至です。なぜなら、今いる場所の標高はわかりませんが、少なくとも昨日の野宿ポイントよりもはるかに高い場所にいることは確実だからです。昨日寒くて眠れなかったのに、今夜が大丈夫な訳がありません。
「やりますか…」
声に出して、わたしは言いました。まわりには誰も居ません。居る訳がありません。
バイカーが極端に少ないこの国ではツーリング野郎はほぼ外国人に限られており、この道路を通過したチャリダーは先ほどのアドバイスをくれたヨーロッパ系カップルのみ。クルマはこんな場所に止まらず、ビュンビュン走り去っていきます。
「Hi!!!」
チャリごと載せてくれそうな小型トラックが通りがかったとき、わたしは勇気を振り絞りました。
「Yaaaa!!!」
小型トラックの運転手が陽気に親指を立てました。どうやら、この国ではヒッチハイクの仕草が違うようです。
どうにかこうにか…。
わたしの粘りというよりも、この国、もしかしたら特にこの山岳地帯の人々には、ヒッチハイク文化が根付いているのかもしれません。それに、「こんなところでチャリに乗った阿呆なガイジンを見捨てて死なれた日にゃあ寝覚めが悪い」という気持ちもあるのでしょう。ほとんどのドライバーが無視をせず、“No(残念ながら無理)”の意思表示をしてくれました。
そして、「チャリは無理だが、おまえだけなら乗せられるよ!」という人が止まってくれ、その後、ついに荷台が空っぽの小型トラックのヒッチに成功しました。
小型トラックのドライバーは無口なおじさんで、そのおじさんは20分ほど走ったところにあるガスステーションにわたしを降ろしてくれました。
そして、そのガスステーションの青年の協力により、ドゥシャンベの60m手前まで乗せてってくれる小型トラックのヒッチにも成功するのです。
なにはともあれ、ひとまずはめでたしめでたし。感謝カンゲキ雨嵐は当然の大前提。
特に後半に長距離を乗せてくれた二人組の兄貴たちは、ウォッカまで飲ませてくれ、「これ幾らくらい払ったらいいんだろうな?」と考えていたのに、それを言い出す暇もなく笑顔で走り去っていきました。
それはそれとして、わたしはかなり驚きました。なにに驚いたって、彼らの運転の下手さにです。どちらのクルマも低出力の小型トラック。年式的にも使用状況的にも、かなりガタがきているのはわかります。それにしても下手くそなのです。
ハンドルの切り方、ギアの入れ方と選び方、アクセルやブレーキの踏み方と離し方、すべてが雑で連動性がないのです。おかげでクルマの挙動はギクシャクしっぱなしで、安定性もクソもあったもんじゃない。
そのくせにかなり飛ばす。かと思ったら、下りで1速にぶち込んで、意味のないエンジンブレーキをカマシてしまう。
「この国の一般人のドライバーはこんなレベルなのか…?」
これは、“気付き”です。
これからセーフティーな自転車旅行を続行するうえで、大きな示唆を得ることができたかもしれません。
トゥクトゥクはともかくタクシーをほとんど利用しないわたしは、いままでの旅では必然的にプロフェッショナルな職業ドライバー、つまりバスドライバーの運転に身を任せていました。
たとえば特にベトナムのバスなんかは異常に運転が荒いのですが、それはベトナムの道路状況を鑑みると必然と言えば必然の運転方法です。彼らの運転の仕方は、少しでも割り込みしそうなクルマやバイクには容赦なく大音量ホーンをカマし、車間距離を詰め、少しでも隙を見せたクルマは追い越す、というものです。もしベトナムで日本式の安全運転をすると、バンバン危険な割り込みを許し、ガンガンに無理な追い越しをされてしまい、かえって危険性が増すという訳なのです。
同じ理由でインドのバスドライバーもかなり荒い運転をしていましたが、それでも急ハンドルなんかは切りませんし、急ブレーキもそんなには踏んでいませんでした(インドのバスで、バスのフルロックブレーキを初めて経験しましたが…)。
昔、雑誌かなにかでこんな記事を読みました。
「“日本人は運転が下手だ。なぜなら日本は農耕文化で騎馬文化がないから”という意見があるが、そんなわけはない。クルマやバイクなどの乗り物に興味のない国民性で、こんなにたくさんのメーカーが育つわけがない。世界に冠するクルマ・バイクメーカーが幾つあると思っているんだ? 日本人は運転が大好きなんだ!」
これは、諸手を挙げて大賛成します。もともと日本人は国民性として、乗り物と運転が大好きなのです。
わたしは1975年生まれですが、わたしたちが青年の頃、運転技術の習得は男性として必須のものでした。“運転が上手い”というのはナイスガイとして大きなアドバンテージとなった時代がたしかに存在しました。漫画『シャコタン・ブギ』のような世界観が本当にあったのです。
翻って、タジクはどうでしょうか? バスや大型トラックは仕事上必須のもの。乗用車はあれば便利なものであり、そして富を象徴するものかもしれない。少なくても運転そのものを遊びとして、青年期から楽しんで取り組んでいる世代はまだいないと思われます。
インドでバイクを6日間レンタルしたとき、落石や浮き砂よりも本当に怖いのは、他ならぬインド人の運転でした。そして、そのときに気付きました。
“そうか、彼らは自己中心的でまわりに配慮しない運転をするけど、それにくわえて運転自体も下手くそなんだな”
下手くそというと語弊があるかもしれないので言い換えると、彼らには技術的にも意識的にも公道運転のルールを共有する時間が必要です。モータリゼーション自体がこれからで、法の整備や意識の改革もこれから進んでいくのでしょう。
そして、同じことがタジクにも言えます。タジク人とインド人の違いは大いにあれど、モータリゼーションがこれから進んでいくという点では同じです。
海外に出て行かれる方は、この点をもう一度再確認する必要がありますね。
モータリゼーションが成熟していない国は、法の整備や意識の改革もこれから進んでいく。そしてドライバーは技術/意識ともに公道運転のルールを共有しきれていない。従って、有り体に言えば下手クソな傾向にある。
歩きもそうですが、特に自転車やバイク、クルマを運転される場合は要注意ですぞ。