おっさんだけど、仕事辞めて北海道でチャリ旅するよ\(^o^)/ Vol,23 昇天
2024 0730 Tue
あれは…。
わたしはテレビを純粋に楽しんでいた時代ですから、もう30年以上前の話になるかもしれません。ウッチャンナンチャンの番組『ウリナリ』で、ドーバー海峡を泳いで渡るという企画がありました。
ドーバー海峡。イギリスとフランスを隔てるイギリス海峡の最峡部。その距離34km、平均水深46m。水に、いえ海に恐怖心のあるわたしにとって、そんなトコを泳いで渡るなんて正気の沙汰ではありませんが、それは芸能人とて同じこと。約2年にわたる紆余曲折の末、内村、ハマグチェ、藤井、堀部、ウド、そしてプロテニスプレイヤーの神尾米の6人のリレー方式で、結果としてドーバー海峡を泳いで渡ることに成功します。これは、若き日の内村光良のハイライトとも言うべき快挙なのですが、一臂間違えれば最悪の事態が起こる可能性もある、マジで危険な企画でした。
そんなヤバい企画を無事終えたエンディング。海水と汗にまみれ、肩で息をしながらも達成感に浸る面々に、ディレクターがこう問い掛けます。
「もう一度やりますか?」
「やるわけねえだろ!」
内村をはじめとするメンバーがキツめの突っ込みをするなか、さっきまで泣いていた神尾米だけが、満面の笑みでこう言いました。
「わたしはやりたいです!」
わたしの観る限り、一番キツそうだったのは、神尾米でした。当日は体調が良くなかったらしく、メンバーのブレーキとなっていた神尾。それでも歯を食いしばり、力の限りドーバーの荒波を泳いでいた神尾。「食べなきゃ泳げない…」と、泣きながらおにぎりを飲み込んでいた神尾。そんな神尾米の意外過ぎるコメント。
“プロスポーツ選手としてカネを稼ぐ。プロスポーツ選手としてトップに昇り詰める。プロ中のプロという奴らはこういう人間なのか…!”
大いに感心したのを、いまでも覚えています。
運動神経は、まあ普通よりかは良いくらいでした。スポーツに打ち込んだことはいままで一度もありません。そんなわたしですが、神尾米の気持ちの100分の1くらいは理解できます。死ぬほど頑張ったあとのご褒美って、死ぬほど気持ち良いのです。
昨夜から降り続く強めの雨。ようやく雨が上がった午前10時過ぎ、わたしは羅臼手前にあるライダーハウスを出発しました。時間調整をしつつ15km走行して、キャンプ場のチェックイン開始である13時過ぎに到着。そこに荷物を置いて、道道87号線の終点、最北端を目指してチャリを漕ぎ出しました。片道28km。計56kmですが、いまのわたしに不安はありません。
“楽勝で行ける!”
その自信があるからです。明日からの釣行のため、道中すべての渓を丹念に視察。そのうえで、道道最北端の港も満喫し、そして帰途につきました。
晩飯の準備をして『熊の湯』に繰り出したのが、20時過ぎだったでしょうか。
『熊の湯』とは、国道334号線の羅臼側にある、露天温泉です。その素晴らしさを絶賛する声が多い反面、地元民と観光客の軋轢が多いと噂の温泉でもあります。
“喧嘩売られたら面倒臭いな…”
ほろ酔いのわたしは、そんなことを思いながら熊の湯に向かいました。
「桶はそこにあるから持ってきな」
風呂に入るなり地元民であろうおっちゃんにそんなことを言われましたが、わたしは「はい」と素直に応えました。なぜなら、羅臼の漁師にある種の敬意を持っているからです。極寒の地で海に出る…。それは、想像を絶することに違いありません。少なくとも、わたしにとってはそうなのです。
「兄ちゃん、出所してきたばっかりか?」
強面で鳴らすわたしに、銭湯でそう話しかけてきた羅臼の漁師のおっちゃんのノリが嫌いではないのです。
脱衣場に書いてある注意書きをすべて読み、漁師のおっちゃんに敬意を持って挨拶しました。かけ湯で身体を身体を清め、そして湯につかり…。
“熱い…!”
めちゃくちゃに熱いのです、お湯が! 皮膚が火傷するギリ手前の、尋常ではない熱さ。漁師のおっちゃんに見られていなければ、湯船の熱湯を半分くらい抜いて、そのうえで水を足すくらいの強烈な温度なのです。
しかし…。郷に入れば郷に従え。バリバリのやせ我慢で、わたしは黙って湯につかりました。見る間にピンク色から真っ赤に染まる身体。まさしく茹でダコの様相を呈してきたときです。
…ふと脇っちょを見ると、頭から水を被っている人がいます。わたしはピンときました。
「あれ、渓の水ですよね?」
はたして、漁師のおっちゃんの応えは「そうだよ」
熱波と熱湯。その違いを己の身体にひしひしと感じながら、我慢に我慢を重ね…。サウナでも経験したことのない限界まで熱湯につかり、そして自分の桶を掴んで、わたしは、水場へと向かいました。
滔々と流れる渓の水。それを桶に目いっぱい、エイヤとばかりに頭から被りました。
…なんて言うんでしょうかね。これって、儀式と言ってもよいかもしれません。チンチンに熱した身体を、キンキンに冷えた渓の流水で清める。
完全に飛んでしまいました。アレな言い方をすれば、本当にキマッてしまったのです。おっちゃんを真似て地べたにケツをつき、脚を投げ出し両手をついて、空を見上げました。と、そこは満天の星空です。
「強烈ですね…」
漁師のおっちゃんに話し掛けました。おっちゃんは黙ったまま、空を見上げていました。
熊の湯、本当におススメです。
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