おっさんだけど、仕事辞めて北海道をチャリ旅するよ\(^o^)/ Vol.09 再生
2024 0628 Fri
白河の 清きに魚も 住みかねて もとの濁りの 田沼恋ひしき
あれは、何年前でしょうか? KSR80で乗りつけたような記憶があるのですが、KSRでは高速道路に乗れないし…。TZR250じゃあ荷物が積めないし…。といってKDX200SRじゃなかったような気が…。というか、KSRでぶん回して走ったような記憶があるんですよね、やっぱり、おぼろげながら。
ということは、いまから5年から10年くらい前ですね。新潟県にある、とある川に釣りに出掛けました。地図で目星をつけただけで、実際の釣果情報などまったくわからないまま現地に到着したのですが、着いてびっくり! 素晴らしい水量が轟轟と流れる超本格本流なのです。しかもその水の透き通っていること! さらに景色の美しいこと! 八海山(テキトー)を仰ぎながら竿を思う存分振るのは、本当に気持ちが良いのです。しかもしかも! まったく人がいないし、誰かが竿を振った痕跡もないのです。渓流釣りには『釣果は脚でかせぐ』という先人の言葉がありまして、つまりは、人が足を踏み入れたことがないような奥地の川なら釣果が約束される、ということなのです。
興奮したわたしは、ときの経つのも忘れて竿を振り続け、そして…。
一向に釣れないのです。渓相も抜群、本来なら魚の溜まるポイントだらけだというのに…。というか、チェイスさえも、なんなら魚の影すらも見えないのです。
“これは…”
参りました。それでも竿を振り続け、ルアーを変え、ポイントを移動し…。やがて、1つの結論に達しました。
“この川に魚はいない”
特徴的な川の名称にもなっている通り、魚はいないのです。だから、人も、人の踏み跡すらないのです。
残念です。しかしながら、天気にも恵まれたその日。抜けるような青空のもと、渓相もばっちり。そのまま飲めそうなほど透き通った流れにルアーを泳がせ、ふと見上げれば未だ冠雪の残る雄大な八海山(知らんけど)。その渓は、わたしの心に深く刻み込まれたのでした。
そして今日、わたしは懐かしいその渓に再び入渓する機会を得たのです。朝6時前に起床。朝飯を食い、ざっと周りを片付け…。準備を整え、小雨の降る中、7時前には歩き出しました。渓流釣り的にはかなり遅めのスタートですが、構いません。どうせ他の釣り人なんて居ないし、なんなら魚も居ないのですから…。
入渓ポイントを探して下流に歩いて行ったのですが、全然見当たりません。思うに、5年~10年ほど若かったわたしは、いまよりも無茶をしていたような気がするのです。入渓しやすい場所ではなく、良さげなポイントがあれば無理くり降りていたんでしょうな。結局無理くりに入渓したわたし。いざ実釣開始です。
この渓は、釣り人こそ居ないもののそれなりに人の手が入っており、大きな堰堤が幾つもあります。そうした堰堤の前後には大きなプール、つまり魚の溜まるポイントがあり、そこは遠投が効くぶんエサ釣りよりもルアー釣りの独壇場となるのです。増水し始めた堰堤プールに思い切りルアーを投げ、沈ませ、泳がせ、違う方向に投げ、違う場所から投げ、ルアーをチェンジし…。はたして、チェイスどころか岩魚の影すらも視えません。
まあまあまあまあ…。
こんなのは想定通り。というか、魚は居ないのです、この渓には。それは幾年前かの入渓で確認済み。わたしはこの渓で、釣りの感覚を取り戻すのが目的なのです。渓の歩き方、大岩の避け方、ルアーの投げ方、泳がせ方。そういった渓流釣りの感覚を独りじっくりと遡行して思い出す。それが今日の目的です。本番は、このあと帰京してからクルマで行く奥只見の渓。
とはいえ、わたしも渓流ではそこそこの釣りキチ。気が付けば夢中で竿を振り続けていました。大場所では魚の気配すらなく、…まあ当たり前ですが。そして、なんとなく増水で無くなりかけた小場所にポンとルアーを放ってみました。クイクイと適当にルアーを引くと、軽いながらも懐かしい感触が! 合わせなど必要ない軽さながら、ブルブルと震える竿先。まぎれもなくこれは…。小さな岩魚でした、6寸に満たないような…。しかしながら、小さくったって岩魚は岩魚。というか、まったく魚が居ないと見込んでいたのです、わたしは、この渓には。
それからはさらに目の色が変わりました。大場所は相変わらず気配すらなし。しかしながら、小場所でぽつぽつチェイスや、なんなら1尾2尾釣り上げに成功しだしたのです。
“どういうことなんだろう?”
わたしは考えました。
遡行を続け、雨はさらに勢いを増し…。増水した渓は危険極まりないのですが、同時に釣り人にとってはチャンスでもあります。雨と増水で、サカナの警戒心が無くなるんですな。とうとう大場所でもチェイスが見られるようになりました。しかし、ヒットにはいたりません。なんというか、チェイスのスピードも遅いし、なによりも魚体が小さいのです。
“どういうことなんだろう”
わたしは考え続けました。そして、一応の仮説を導き出しました。
この渓は、以前はサカナが居なかった。そして現在、サカナの住む渓に生まれ変わりつつあるのだ、と。
記憶が確かならば、この渓に苔など生えていなかったはずです。それが、流れが緩やかな場所に苔が生え始めた。それを食べて川虫が増え、川虫が増えてサカナの住める渓になり、ひっそりとギリギリ生きながらえていた岩魚が徐々に増えだした…。
大場所で竿を振り、中場所でも竿を振り、小場所でも竿を振りました。わたしのルアーはカエシなしのシングルフックに交換してあり、魚体に触れることなくリリースすることができます。多様な生き物を育めるよう生まれ変わりつつある渓。増水し、釣り人にとって最高の条件となったその渓で、わたしは遠慮なく竿を奮いました。まあ、下手クソなわたしに釣られるサカナなどほとんどいなかったわけですが…。