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おっさんだけど、仕事辞めてアジアでブラブラするよ\(^o^)/ Vol, 30 Bhang

インド バラナシ 4日目
2023.0711 Tue

今回は少し趣向を変え、わたしの知人であるM氏についてのお話をします。
M氏は歳の頃なら47~48歳、少々奇特な傾向があるものの、いたって普通の日本人男性です。昨日わたしは彼と接触し、彼が体験したばかりの奇妙な出来事を教えてもらい、そしてそれをここに記そうというわけです。
以下は、M氏の口伝です。

バングラッシー? 
ああ、やったさ。4日前に1杯、そんで一昨日の朝から24時間で3杯飲んだよ。
だから、今朝までずーっとラリッてたし、なんだったらいまも若干ふらついてる。
…いや、その点はまったく問題ない。ここバラナシでは完全に合法なんだ。百歩譲って合法じゃないにしても、非合法ってわけじゃない。とにかく捕まることは現時点ではありえないから、興味があるなら飲んでみればいい。
…すぐわかるさ! ゴードリヤー交差点の交番の向かいに、ラッシー屋が3件くらい並んでる。その中で気に入ったのに入ればいい。おれが行ったとき、日中はなぜか1件だけが異常に流行ってて、他の2件は全然客が居なかったな、理由はよくわかんねえけど…。
とにかく、3杯目まではその一番流行ってる店で飲んだんだよ、バングを。

バラナシと言えば、ガートと並んで有名なのが迷路状に入り組んだ路地。

「Bhang lassi medium, please.」
2回目の注文をしたとき、店のヤツがやっぱり妙な顔をしたのを覚えてる。
「なんだこの前の日本人がまた来たよ」みたいな、ね…。いやわかんないよ。これは後付けの感想かもしれないけど、そんなウエルカムな感じじゃなかったのは確かだな。まだ昼前だったからかな? いやでも地元のヤツらはバンバン飲んでたしな。
…まあでも構わずに店の中で待っていた。んでもさ、どう考えてもおれの番を飛ばしてローカルの奴らにラッシーがバンバン届くわけ。だから当然抗議した。
「おい、おれのラッシーが来てねえよ」ってね。
すると、店の親父がおれの数倍険しい顔でこう言うんだ。
「わかってる、待ってろ」ってさ。
んで間もなくしてラッシーが届いた。色こそ緑色をしてたけど、最初のときと同じく味は完全に普通のラッシーだった。それを一息で飲み干して、そっから通りに出た。…値段? たしか70ルピー(約120円)だったな。

やっぱり効かなかったな、ミディアムでも。むしろライトのときのほうが効いたくらいだ。路地を散策し路面店で買い食いし、1時間半くらいかけてゆっくりホステルに戻った。シャワーを浴びてベッドに寝転び、ふと気づいた。あっ、いまおれ、バングラッシー飲んでたんだ、って…。そんくらい効果なかったよ、マジで。

バラナシのガートをガンガーの舟上から。
やはりこの景色はなんかこう来るものがありますな。

…そうそう、それでさ、その夜またまたそのラッシー屋に行ったわけ、性懲りもなくさ。んでさ、3回目だから当然こう言ったのさ。
「Bhang lassi strong, please.」
親父はとうぜんおれに気付いてる。
「またあのジャパニーズが来やがったよ」って苦虫を嚙み潰した表情で頷く。そんでもって、またまたおれのラッシーだけ来ない。何度か黙って遣り過ごすと、今度は催促する直前にラッシーが来た。
「Strong?」 「Ya, strong.」
グイと一息に飲み干す。若干、草の味がしたな。

3回目ともなれば慣れたもんだよ。1回目のときにあった激しい腹痛と下痢の予感はなかったから、ゆっくりと夕食をとり、思うがままに夜店を冷やかして帰った。シャワーを浴びてるときかな、また思ったよ。「これってこんなものなのかな?」ってね。
気が緩んだのかな、ベッドに寝転んでからだな、頭が回ってきたのは…。遠近感が掴めなくなって、スマホを触るのが億劫になった。DOORSを聴こうって用意してたのに、その再生ボタンを押すのさえ面倒くさいんだよ。目を開けてると目が回って気分が悪くなるように感じたから、目を閉じてじっとしてた。んでさ、もう正直言って認めざるを得ない感じになっちゃったわけ。
「ああ、おれこの感じちょっと苦手だわ」ってね。
なんていうか、まあ率直に言うと二日酔いって感じだね。おれは酒もあんま吞まないから二日酔い自体もそんなになったことないんだけれども…。でも、たぶんあの感じだね。
それで気が付くと眠ってた。

バラナシと言えば牛。25年前の記憶の中の牛と比べると、なんだか小奇麗です。

んでさ、やっぱりこれで終わりたくないわけよ、おれとしては。なんか中途半端というかやり切ってないというか…。
んで次の朝9時前だったかな、またゴードリヤー交差点に行ったわけ。さすがにまだ早いかなって思ったんだけど、1件だけ開いてたんだよ、いままでと違う店だけど。それで客もちょこちょこ入ってるんで、一応Bhangの感じを確認しようと店先で覗いてると、
「You want Bhang lassi?」って向こうから聞いてきてくれたんで、
「Ya, Strong please!」とStrongをいくらか強調して言ったのさ。親父の表情は読めなかった。
親父の表情、オーダーから提供の早さ、飲んだ瞬間のBhangの味、それらから判断して、これが本当のStrongなんだろうという予感がしたね。要はこういうことさ、前まで飲んでた人気店のBhang lassiはおれの分だけ日本人向けとして“スーパーライト”に作られていた。Bhangに抵抗力のない日本人がいきなりのStrongでぶっ飛んだらマズいからね。警察からの勧告か自主規制か、そのあたりは知らんけど、明らかに人気店のラッシーはBhang含有量が少なかった、たぶんおれのだけね。
んでアレよ、そのStrongを一気飲みしてさ、おれはガートに向かったわけ。…そりゃそうだろ、Bhangキメてガートに腰掛けて火葬場の炎見るのがやりたかったんだからさ。

7月はお祭り月らしく、バラナシの街はインド人観光客でごった返していました。

…いやもう全然違うよ。たぶん1時間経たないくらいからもうガンガンにキマッてたよ。…そうだな、おれの場合は時間の感覚だな、一番は。たぶん少しだけズレるんだよ、時間の認識が。たとえばいま目の前で起こっている事象はもちろんオンタイムのこととして脳が処理するわけなんだけど、それがコンマ何秒かズレるんだ。だから目の前で起こっている事象を、目では捉えられても認識ができない。歩くことはできるし、前から来る人を避けることもできる。でも、それらを火葬場に行くためにガートを歩ていることの一環として考えることはできない。次々に向かってくる人々を避けるのに手いっぱいで、ちょっと気を抜くとそれだけに完全に集中してしまうんだ。
それでガートに座ってボケーッとしてたんだけど、急にホステルに帰りたくなった。ちょうどお昼に向けて暑さが増す時間帯だったし、このまま何時間かをここで過ごすのは素面でもイヤだったからね。
そこからが大変だった。コマ送り気味の世界を、前からガンガン来るインド人観光客を避けつつ、前進。前進するのはいいんだけど、それに集中しすぎると前進することだけしか考えられなくなってしまう。というかすでに前進すること以外まったく考えられなくなっているので、とりあえず真っすぐ進む。それでハッと気づいたときにgoogleマップで確認し軌道修正する、という戦法で進んでいった。
喉も乾いてたし腹もたぶん減ってただろうけど、店には入れないよ。だってそんなの注文できないよ。できるわけないじゃん、それってめちゃくちゃ集中力使うからね。
…気持ち良いか悪いかで言ったら、正直言って気持ち悪かったね。普通に呑み過ぎたときと似てるというか…。酒を呑み過ぎても言動が支離滅裂になって思考がまとまらなくなるし、視界がブレて気持ち悪くなる、そんな感じかな…。
もしかしたら、経験を積んで適量を知って、そんでもってセッティングとかも完璧で、あと気心の知れた連中と一緒なら、気持ち良くなるかもしんない。でもさ、それってやっぱり時間がかかるし、そいで異国じゃなかなか難しかったりもするしさ…。
そう、それよそれ。第一に酒があるんだよ、日本人の選択肢として。経験的にもリスクを考えても、ちょっと緩めたいときにはビールが一番だよ。…それはインドにおいても変わらないだろうね。とりあえずおれは今後緩めたくなったらインドでもビールを飲む。それが安全だし確実だし間違いないよ。

日に焼けた顔に苦笑いを浮かべ、M氏はこう繰り返しました。
「酒で充分、ビールのがいいなおれは」
そして、こうも付け加えました。
「でも、おんなじこと言ってた中島らもが、結局大麻でパクられたんだよな」

たしかに魅力のある街です、バラナシは。もうすこし静かな時期にも来てみたいですね。


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