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おっさんだけど、仕事辞めて北海道でチャリ旅するよ\(^o^)/ Vol,35 試練

2024 0821 Wed
 
日本人がバックパッカーとして海外に飛び立ったとき、まず初めに立ちはだかる壁。
このテの質問をバックパッカー経験のない日本人にぶつけると、たいていの人はこう言うのではないでしょうか。
「そりゃ言語の壁でしょう」
正解! じゃないんですな。わたしはほとんど英語が話せませんが、去年に行った半年弱のアジア旅行の際、それにともなう著しい困難って、実はそんなにはなかったのです。
少なくともユーラシア大陸において、各国旅行者の共通語はもちろん英語です。英語が話せたら、便利だし楽だし友達も増えるでしょう。ですが、英語が話せないからといって、生死に関わることはありません。英語が話せないからといって、人間の尊厳にかかわる問題も起きないでしょう。

英語が話せるかどうかよりも、話し掛けるかどうか、話し掛けられて応じるかどうか。そっちのほうが重要です。シビアな内容以外、対面でのコミュニケーションならなんとかなります。


日本人バックパッカーが、海外でまず最初に超えなければない壁。
それは、トイレの壁です。
「シャワートイレがないから海外のトイレは嫌」
などとほざく日本人バックパッカーは流石にいないでしょうが、海外のトイレが日本のそれと比べて衛生的に劣る傾向にあるのは、誰もが認めるところでしょう。ですが、問題はそこではありません。本当のトイレ問題。それは、基本的に海外にはトイレの絶対数そのものが少ないという事実なのです。

たとえばこのスマホをいじっているおっさん。列車の座席上段に座っており、下段にも当然乗客が座っています。このおっさんはどうやってトイレに行くのでしょう? 答え:トイレに行かない。


わたしたちバックパッカーが行くような国々や街にあるホステルには、もちろんトイレがあります。しかし、一歩ホステルを出れば、街中でトイレを探す作業というのは、日本の、…少なくとも3倍は難しくなるのです。
カフェやレストランには、もちろんトイレがあります。博物館にも美術館にも、もちろんトイレはあります。
では、コンビニには? まずコンビニに相当するものが無い街がたくさんあります。仮にコンビニがあったとしても、日本のようにトイレを貸してくれるサービスはまず期待できません。
では、ローカルの人々が集う食堂には? これは微妙です。その食堂で飯を喰らい茶を飲んだ後で
「Where is a toilet?」
と聞けば貸してくれるでしょうが、急な腹痛の際に食堂に駆け込んで
「トイレ貸してちょ!」
と訴えても
「無えよ!」
と追い払われるのがオチです。

人、人、人。朝から晩まで人であふれるガンガー。ガンガン発展しているインドは国内で旅行ブームが巻き起こっており、聖地バラナシもインド人旅行者でごった返しています。…わたしの知る限り、このあたりの公衆トイレはたった2か所。まじで彼らはどこで排便しているのでしょうか?


ホテルに泊まり、カフェで朝食を食べ、美術館を巡り、観光バスに揺られ、レストランで舌鼓を打つ。そういう格式の高い旅行をする人たちは、トイレ問題に直面する機会は少ないでしょう。
しかし、…。朝飯は露店で買い食い、バザールをうろついて腹が減ったら適当に買い食い、疲れたらその場に座り込んでビールを呑み、夜はローカルの食堂にたむろする。そんなバックパッカーにとって、トイレ問題は深刻です。
およそだいたいの国は日本より食品の衛生管理が大らかで、しかもアジアを西に行けば行くほど料理に大量の油を使う傾向にあります。ですから、ちょっとしたことで胃腸に支障をきたす、有り体に言うと下痢になるんですな。括約筋に鞭を打ち、いろんな汗をダラダラ流しながら、
「トイレ…。トイレを貸してはくれまいか?」
と誰彼構わず懇願し…。
もちろん死ぬことはないでしょうが、それでも人間としての尊厳は大きく失われてしまうでしょうね、街中でクソを漏らせば…。

たとえばこのストリートで腹が痛くなった場合…。どう考えてもトイレなどあるわけがありません。自分の括約筋を信じ、歩き続けるしかないのです。



 
礼文島は素晴らしい。
その情報だけを頼りに、稚内からフェリーに揺られて数時間。チェックインしたキャンプ場で、管理人から有力な情報を教えてもらいました。
「礼文島には7つのトレッキングコースがあります」
チャリ旅をスタートしてから2か月半…。チャリを漕ぎ続ける毎日のなかで、ある欲求が生まれてきたのです。
「歩きたい…」
不思議なものです。普段、わたしは歩くことがそんなに好きではないのです。移動手段として徒歩はトロ過ぎるし、すぐに疲れてしまう。しかし、毎日チャリを漕いで体力がついてくるとともにチャリ漕ぎに飽き…。
“やはり人間の原点は歩くことではないのか”
などという哲学的なことまで考え始めていたのです。

最終的には、究極的には、やはりグランドトレッキングじゃないでしょうか。“歩く”って、やっぱそれって原点ですから。歩いてこそ、大地のスケールが本当にわかるような気がします。


礼文に到着した次の日には、通称『8時間コース』と呼ばれるトレッキングコースを、本降りのなか6時間強で踏破。
これに気を良くしたわたしは、次の日、礼文島の北端スコトン岬をスタートとする『岬めぐりコース』に出発。天気にも恵まれ、本当に素晴らしい景色を満喫したのでした。

美しい。本当に美しい。この景色、厳冬期にはどんな表情を見せてくれるのでしょうか。


その次の日は海岸でのんびりしようかなと思っていたのですが、持ち前の貧乏性が出て、
“せっかく礼文にいるのだから、礼文岳を登ろう”
と礼文岳登山にも挑戦します。
午前8時過ぎ、礼文岳登山口の駐車場に到着したわたしは、満足げに辺りを見渡しました。
“さてと…。クルマは1台も停まってないし、礼文岳をオレさまが独占ですな”
靴下を履き、クロックスをトレランシューズに履き替えて、意気揚々と出発。

ちょっと登ったらこの景色。礼文岳って標高的に全然高くないんだけど…。
なかなかどうして…。思った以上の素晴らしさでした。


順調に高度を稼ぎ、望外の景色の良さに頬を緩ませながら上っていると…。
「こんにちは!」
明るい声でそう呼び掛けられました。見上げると、7~8mくらい前方で、若い女性が笑顔で手を振っています。
「こんにちは」
動揺を隠しつつ、挨拶を返すわたし。てっきり誰もいないと思い込んでいたので、独り言も鼻歌も全開だったからです。
追い抜くか、それともスピードを落とすか…。ひとまずスピードを落として様子を見ようとしたのですが、前方を見遣ると、明らかにその女性はわたしを持っている様子なのです。彼女と合流すると、はたして、彼女は元気よく話し始めました。
中国南部の海南から来たという彼女は、ワーキングホリデーを利用し、礼文の旅館で働いているとのこと。ネイティブでないことはすぐにわかりますが、それでも日本語を上手に話し、わたしのしょうもない冗談にも快活に笑ってくれます。会話を存分に楽しみながら、わたしは思いました。
「やっぱり外国人は陽気やわな…」

漫画『ナルト』が好きで日本に興味を持ち、日本語の勉強を始めたという彼女。漫画の力は本当に偉大です。ありがてえありがてえ。


当たり前っちゃ当たり前ですが、日本人の若い女の子と山でばったり会っても、こうは絶対になりませんから。中国のこととか、ワーキングホリデーとか、日本語習得についてとか、日本における外国人の労働環境とか…。聞きたいことは山ほどあるので、素晴らしい景色を堪能しつつも、わたしたちは話し続けました。
そんななか、ふと彼女がこう言いました。
「…あなた、わたしのこと何歳だと思っているのですか?」
「えっ? 学生じゃないの?」
「30歳です…!」
少しだけ憮然としながら、彼女は答えました。以前、日本人の若い女性とこういう話になったとき、同じく「学生じゃないの?」と言うと、30歳前の彼女は大層喜びました。わたしは大いに戸惑いながらも、“…若く見られるのがそんなに嬉しいのか?”と思ったことを強烈に覚えていたのですが…。やはり、中国と日本では、そのあたりの感覚は違いそうですね。

楽しかったかどうか…? わたしの表情で判断してください。


無邪気に笑いながら「ナルト走り」を披露してくれた彼女を微笑ましく想い、その半面、恥ずかしそうに自分の写真を撮ってくれと頼んでくる彼女に笑顔で応え、「ニセコは中国人が多いから働きたくない」と主張する彼女にう~んと唸り…。
たっぷりと時間を掛けて羅臼岳を堪能したわたしは、登山口に戻る際にはトイレに行きたくなっていました。登山開始前にトイレに行き、彼女と出会う前にも立ちションをしているのですが…。
登山口駐車場でチャリの前にリュックを降ろしたわたしは、彼女にこう言いました。
「トイレ行ってくるわ」
「は~い」

大きな島ではありませんが、礼文には見どころがいっぱい。こんな素晴らしい夕日を独り占め。ちょっとびっくりしたのは、地元の漁師が軽トラで夕日を見に来ていたこと。地元民なら見慣れているのかと思いきや…。意外と風流なところもあるんですね。


彼女はわたしのチャリを眺めています。
“えっ?”
わたしは静かに驚きました。トイレ行かないの?
恥ずかしいからトイレに行かないとか、そんなノリの娘ではないはずです。
トイレから帰ったわたしは、その場に居た旅行者のおじさんも交えて、また話し始めました。そうして、意外と機微に敏いところがあるわたしは、彼女がチャリに乗りたがっていることを察知しました。
「乗ったらええやん」
わたしとそんなに身長が変わらない彼女ですが、念のためサドルを一番低くセットして手渡しました。はじめ日本人っぽく遠慮していた彼女は、結局チャリに跨り、海岸線を北に颯爽と消えていきました。
待つこと数分。興奮した彼女が戻ってきました。わたしも満足、彼女もたぶん満足。

この景色で喰うハンバーガーが不味いわけがない。どうなってんだよ礼文島! サイコーじゃねえか!


さらに少し話したあと、彼女は切り出しました。
「じゃあそろそろ帰ります」
バスを待っても歩いて帰っても、同じくらいの時間だから。そう言って歩き始めた彼女。彼女の住む寮の方向の道を通って夕焼けを見ることを計画していたわたしは、こう応えました。
「あとで追い抜くから!」
てくてくと歩き出した彼女。その後ろ姿を見るでもなく眺めながら、わたしはあることに気付きました。
“あの娘、トイレ行ってないやん!”
登山口から寮まで、歩いたら2時間くらいかかると言っていた彼女。彼女が何時から上り始めたか知りませんが、公式タイムでは上り下り合わせて4時間となっています。
山頂での休憩、登山終了後の談笑時間を含めて、少なくとも7時間はトイレに行かなくて平気なのです、中国で生まれ、中国で育った彼女は…!

いやまあ、トイレが無いわけはないのです、これだけ建物があるのですから。…でも実際、トイレ問題は本当に深刻なアレですよ。だって、さすがに漏らすわけにはいきませんし、そうかといって絶対に我慢できるものでもありませんから。


断言します。
腸はまあ仕方ないにしても、日本人の膀胱は、甘やかされ過ぎです。
こと膀胱に関しては、世界基準を意識し、もっと鍛えねばなりません。

この浜辺なんかもガイドブックに載っていませんからね。わたしの知りうる限り、サイコーの浜辺ですけど!
民宿も兼ねている食堂でいただいたホッケの開き定食。「礼文のホッケは新鮮だからしっぽ以外の全部が食べられるよ」とのお言葉を受け、その通りに実践したわたし。食べ終わった皿を見て「スゴい! こんなにきれいに食べた人を見たの久しぶり!」と興奮していたお母さん。いやいや、あなたがそうおっしゃったのですが…。
客席で炭火調理するホッケ定食がウリの食堂で、炭火席が確保できず、やむなく注文した味噌ラーメン大盛。思わず「…やるじゃねえか」と唸るほどマジの大盛が出てきました。当然、旨い。いやいや、ホッケがウリと違うんかい!

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