おっさんだけど、仕事辞めてアジアでブラブラするよ\(^o^)/ Vol, 35 市井
インド マナリ 2日目
2023.0721 Fri
“絶対に壊れないジッパーはない”
その信念のもと、リーバイ・ストラウスはジーンズの元祖ともいわれるリーバイス501にボタンフライを採用しました。
それから130年余り後のインドはマクロードガンジにて。
昨日の深夜、いえ正確に言うと同じ日付に変わったばかりの深夜0時過ぎ、屋外のベンチで独り座って長距離バスを待つわたしに、訳知り顔のバスステーションのおっさんがこう言いました。
「絶対に遅れないバスなんてないのさ」
気の利いたこと言ってやったわ、くらいの笑みを残しつつ、わたしを残しておっさんは自分だけ詰所のドアの向こうに消えていきました。
気が付けば、ステーションにはわたしただ独り。そしてさらに気が付けば、おっさんが居る詰所の電気まで消えている始末です。
「おいおい、マジかよ…」
声に出して、わたしは言いました。ステーションにあるのは無人のバスだけ、どうせまわりには誰も居ないのです。救いなのは、ここは治安が抜群に良いダラムサラで、デリーやコルカタなどの大都市でないことです。というか、そうじゃないとさすがに23時半発のバスなんて選びませんが…。
0時30分過ぎでしょうか、インドSIM搭載のスマホに電話がかかってきました。訛りの強い捲し立てるような英語、インド人からです。
なにを言っているかさっぱりわかりませんでしたが、一か八か、わたしはこう叫び返しました。
「I’m waiting in Dharamshala bus station! Pick me up, please!」
「OK. 4 minute wait.」
奇跡的に通じました。そして、やはり電話の相手は長距離バスの助手からだったみたいです。なぜ5分ではなく4分なのか、そんなことを考えながら、当然10分くらい待ちました。
はたして、バスはダラムサラのバスステーションに到着しました。そんな状態を初めて見たのですが、バスはガラガラでした。怒る気力さえなく、わたしはバスに乗り込みました。これから5時間弱、曲がりくねった山道を走るバスの、寝台ではなくリクライニングのみのシートで夜を明かさなくてはなりません。
“こんなんで寝れっかいや…”
弱弱しく毒づいたわたしでしたが、気が付けばマンディのバスステーションに到着していました。
そして、早朝5時過ぎからマンディのバスステーションで聞き込みです。
「I’ll go to Manali. So I need Manali’s bus ticket. If you know, tell me, please.」
トゥエルフ。彼らは口々にこう言いました。よくよく聞いてみると、マナリ行きのバスは地元民も乗る路線バスなので、チケットはバスに乗ってから買え。お前は12番乗り場で待て。そういうことでした。
そして待つこと30分。はたして、マナリ行きの路線バスが到着しました。
朝6時にマンディを出発して7時間余り、通常ならば3~4時間もあれば到着するのですが、倍の時間を費やして路線バスはマナリに到着しました。
「おいおいふざけんなよ路線バス! This bus sucks!」
などと毒づいたかというとさにあらず。なんと、わたしは路線バスを満喫したのです。
この旅に出てから気付いたのですが、海外の路線バスに乗るのってなかなかに楽しいのです。基本的にわたしのようなバックパッカーは“ガイジンの観光客”です。ですが、路線バスに乗ると、少しだけ地元の人たちと距離が近くなるような気がするのです。ガーガーガタゴトうるさいバスに乗り、行先を怒鳴りながら確認し、タダみたいな乗車券を買いつつ、異常に荒い運転にも平気な顔をしながら地元の人たちと一緒に街中を移動する。そんでもって、おばあちゃんの荷物を持ったり席を譲ったりすると「おいおいこのガイジン、案外ナイスな野郎じゃないの」みたいにまわりからの株が上がるのです。そういう非言語コミュニケーションはわりあい得意ですので、そういうのもあって路線バスに乗るのが好きなのです。
運転席後ろの窓側の席に陣取り、わたしは窓を開けるだけ開きました。
排気ガスと砂埃にまじり、少しだけ山の匂いがしました。